7 異次元の戦い! ショウVSLUSU7!

 シンクとマコトは薊野駅で待っていた。

 もちろん仮想空間の駅前には人っ子ひとりいない。


 マコトの探知能力を頼りにショウたちの反応を探っていたのだが、どうやら向こうもこちらに近づいているらしい。

 それなら無駄に体力を消耗する必要もないと、わかりやすい場所で待っていようということになったのだ。


「あ、来た」


 一分ほど経って、透明な翼を広げたショウが国道の方から飛んできた。

 その後ろを雷のような光がちかちかと明滅を繰り返しながら追いかけている。


 ショウとマーク=シグー。

 二人はシンクたちの前に降り立った。


「よお、二人でなにやってんだ? こんなところで」


 ショウはマコトとシンクの二人を見比べ、特に警戒するでもなく話しかけてきた。

 そんな彼にマコトが呆れ気味に文句を言う。


「お前こそ勝手に出かけるなってさんざん言われたよな? 和代さん本気で怒ってたぞ」

「そこは上手く誤魔化しといてくれよ。んで、そっちは新九郎だっけ?」

「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねーよ」


 こんな状況だから協力するしかないとわかっているのか。

 マコトと一緒にいるせいで仲間になったと思われたのか。

 もしくは敵対されても十分に対処できる自信があるのか。

 とにかく、ショウの気安い態度はシンクを苛立たせた。


「別にお前らの仲間になったわけじゃない。この前の借りはそのうち返してやる」


 自分でも歯痒くなるくらい、単なる強がりであった。

 前回戦った時を思い出せばこいつを倒せるビジョンは全く思い描けない。

 だとしても、共通の敵を持った状況をこれ幸いに仲良しを演じることだけはしたくなかった。


「いいんじゃねえか? いつでも待ってるから、とりあえず今は協力してここを出ようぜ」


 さわやかに親指を立てるショウ。

 そのむかつく横っ面を一発くらい殴ってやろうかと思った時。


 どこからともなくルシフェルの声が聞こえてきた。


『ゲーム開始から一時間が経過。プレイヤーの諸君、楽しんでくれてるかい?』

「ルシフェル! どこにいやがる!」

『その様子を見るにさぞお怒りだろうね』


 にやにやと歪んだ笑い顔を浮かべているのが想像できるような声だった。

 ショウも腹が立つ男だが、勘違い厨二病野郎な上に監視者気取りのルシフェルはそれ以上だ。


『現在までにLUSUシリーズは2、4、5の三体がショウくんによって撃破され、6が神田和代と相討ちになった。初期作はともかくオーバーファイブの自信作が二体も倒されたのはショックだったよ。けど、おかげでずいぶんと消耗しているだろう?』

「なんだって!?」


 マコトが叫んだ。

 神田和代が相打ちしたという話を聞いての反応だろう。


 あの白い虎は恐ろしく強かった。

 むしろ相討ちに持ち込めただけでも驚きである。

 まあ、シンクからしたらALCOの人間が倒れようがどうでもいい。


『ショウはともかく、神田和代ごときにやられたのは意外だったよ。本当は裏切り者の二匹もまとめて駆除するつもりだったんだけどね。ああ、さっきも言ったが死んだわけじゃないから心配しなくていいよ。現実世界でもしばらくは動けないだろうが責任持って回収しておくからね』


 言葉の端々にルシフェルの本性が垣間見られる。

 こんなやつの下で働いていたと思うと反吐が出そうだ。


『さて、とはいえ貴重なLUSUシリーズをこれ以上浪費するのはもったいない。ザコをいくらぶつけてもショウには通じそうにないし、残りの四匹とも集まっているのは好都合だ。ここはひとつ僕のとっておきを見せてあげるよ!』


 シンクは駅舎の上あたりの空が太陽の光を反射したようにまばゆく輝くのを見た。

 思わず目を伏せてしまい、光が消えた後でもう一度見上げると、そこには人が立っていた。


 銀髪の男である。

 遠くて顔はよく見えないが、ルシフェルに似ている気がする。

 しかし短髪のルシフェルと違って女のように長い髪で、本物以上にエクセレントな、SFチックの黒いレザースーツという服装だ。


 その背中に翼が広がった。

 赤黒い左右三対の、六枚羽の翼が。


「なんだ、あのコスプレ野郎は……」


 四人は茫然と駅舎の上の人物を見上げる。

 銀髪の六枚羽の男はふわりと宙に浮いた。


 背中の翼が鈍く輝く。

 直後。


「がっ!?」


 右腕と左足に痛みが走った。

 状況がわからないが、反射的に瞬間移動で逃げる。

 そして直前まで自分が立っていた場所を貫いてく赤黒い軌跡を見た。


「ぐわあああっ!」


 マコトが叫び声を上げて前のめりに倒れる。

 体が地面に触れる直前、彼は倒されたモンスターと同じように光の粒子になって消滅した。


 赤黒い羽はしばし宙を無軌道にさまよった後、空中にいる銀髪のところへ戻ると、翼の中に収まった。


「マジかよ……」


 遠距離狙撃攻撃。

 いや、無差別攻撃か。


 あの距離から目にも止まらない速度で一瞬のうちに飛んでくる攻撃だと?

 あんなもの、どうやって避ければいいって言うんだ。


「くっ……」


 マークは少し離れた場所で片膝をついて脇腹を押さえている。

 シンクと同じように赤い羽根に貫かれたのだろう。

 隣ではショウが平気な顔で立っていた。


「大丈夫か?」

「しくじったよ。こういうときにショウのオートガードは便利だね」

「消えちまったマコトは死んでないんだよな?」

「ルシフェルの言葉を信じるならね。和代さん共々、敵に捕らわれてはいるだろうけど」

「それじゃ早いところ助けに行こうか。あいつを倒してな」


 ショウが飛び上がる。

 背中に透明な翼を広げて。


 銀髪の敵へ向かって一瞬で間合いを詰める。

 そして、いつの間にか手にしていた日本刀で斬りつけた。


 刃は敵に当たる直前で見えない壁に防がれる。


「っ!?」


 ショウは即座に間合いを取った。

 翼を持つ両者が空中でにらみ合う。


『そう簡単にはいかないよ。この『LUSU7』はね、君の≪神鏡翼ダイヤモンドウイング≫と同質の防御壁を持っているんだ。ただし近接攻撃に対してもオートモードが発動するように改造してあるけどね』


 ショウの圧倒的な防御力はシンクも経験済みである。

 あいつの作る見えない壁は本当にあらゆる攻撃を防いでしまう。

 全力で撃ち込んだ『バーニングボンバー』でも煤一つ付着できないほどだ。


 特に近接武器や素手による攻撃を除くすべての遠距離攻撃に対しては、自動的に見えない壁が発動するという特性があるらしい。

 先ほどの赤い羽根がショウに効かなかったのもオートガードのおかげだろう。


 ショウにダメージを与えるには近づいて直接攻撃をするしかない。

 ところが、このLUSU7とかいう六枚羽のボスモンスターはさらに上位互換だ。

 近接攻撃を含めたすべての攻撃を自動的に防ぐというなら、文字通り無敵の絶対防御能力である。


『かつてで最強と言われた準神器を模したこの≪デビルウイング≫は≪神鏡翼ダイヤモンドウイング≫すら凌ぐ最強の防御性能を誇り、そして――』


 LUSU7の手に無骨な髑髏の柄を持つ西洋剣が出現する。


『もう一つの準神器を模した≪イクスキューショナーソード≫で貴様の首を刎ねる。剣術には自信があるらしいが、決して壊れず、疲労も感じない敵を相手にどこまで耐えきれるかな?』

「『ぼくのかんがえたさいきょうせんし』かよ」


 高らかに自らの作り出した兵器の説明をするルシフェルにシンクは悪態を吐いた。


 もちろんそれで状況が好転するわけもない。

 シンクにできるのはただ頭上のチート野郎を見上げるだけだ。


「……面白え」


 しかし、ショウは全く諦めていない様だった。

 それどころか彼の表情には嬉々とした感情さえ浮かんでいる。

 自身の能力に輪をかけて強力な力を持つ相手に向かって彼は堂々と宣言する。


「ゲーム世界の作りモンなんかで俺に勝てると思ってるんじゃねえぞ。証明してやるよ、破れない防御なんてこの世にはないんだってな!」

『はははっ! それを君が言うか! やはり君は簡単には諦めないんだね! ならば教えてあげるよ、時代遅れの古びた神器が決して無敵ではないということを!』


 透明な翼を持つ日本刀の剣士と、六枚羽の真っ赤な翼を持つ西洋剣の戦士が空中で激突する。


 能力者の常識を越えた化け物同士の空中決戦が始まった。

 シンクは頭上で行われる異次元の戦いを地上から見上げることしかできなかった。

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