6 嵐を起こすダイヤの翼
嵐が吹き荒れていた。
半径一キロほどの範囲に轟轟と風が唸る。
雨こそないが、まるで台風のような暴風が巻き起こっていた。
その中心、台風の眼にあたる無風の場所にショウたちはいた。
ショウは日本刀でひたすら目の前の大木を斬りつける。
マークは前後左右から伸びてくる鞭のようにしなる枝を電撃で焦がす。
彼らが戦っているのは、まさに目の前の巨木だった。
高さはおよそ四階建てのビルに相当し、十人で手を繋いでも取り囲めないほど太い。
地面に深く根を張り、周囲の街路樹と地下で繋り、四方八方から攻撃をしてくるボスモンスター。
巨大すぎる敵に対してショウが対抗した手段が、この風の防御壁である。
あまりの巨体のため懐はガラ空き。
その代わり周囲の街路樹から葉の刃や枝の鞭が飛んでくる。
面倒な攻撃を防ぐためにショウが作り出したのが巨大な台風……暴風の防御壁である。
神器≪
敵の攻撃を防いでいる間にひたすら本体を叩く。
風壁の外ではコントロールを失った葉や枝が踊り舞う。
進入してくる脆弱な攻撃はマークだけでも十分に対処できた。
「くそっ! しぶとい野郎だな!」
もう何十回と斬りつけているのに、未だに巨木は倒れる気配を見せない。
現実の物質のように斬った部分が削れることもなければ痛みを感じている様子もない。
本当に攻撃が効いているのかさえわからないが、他にできる手段はないから斬り続けるしかない。
そして、ついに終わりの時がやってきた。
台風を起こしてから二十分ほどが経った頃だろうか。
青々とした葉が赤く染まり、色を失い粉雪のように舞い落ちた。
裸になった幹が発光。
一瞬後には跡形もなく消失する。
「……終わった、か?」
敵を倒した事を確認すると、ショウは能力を解除した。
暴風はぴたりと止み街に静寂が戻る。
さっきまで嵐が吹き荒れていたとは思えないほど周囲の景色は整然としていた。
その光景にやはりここが仮想現実空間なんだと思い知る。
ゴミ一つ落ち葉一つすら落ちてはいない。
「……はあっ、はあっ」
流石のショウも肩で息をしている。
無茶とも言えるほどの全力でJOYをを行使したのだ。
そのうえ二十分間ほぼ休みなく刀を振り続けたのだから疲労が蓄積して当然だ。
「大丈夫?」
「ぜんっ、ぜん、大丈夫に決まってんだろっ」
心配して声をかけるマーク。
ショウは強がりを返すが、どう見ても大丈夫ではない。
「少し休もうよ。あんな戦い方ばっかりじゃ持たないって」
ルシフェルの言うとおりならボスモンスターは全部で七体。
いま倒した巨木型のボスでで三体目になる。
今度のは最初に倒したやつと比べると圧倒的に手強かった。
どうやらボスの強さは個体によってまちまちのようだ。
最悪、今以上に手強い敵とあと四回も戦わなければならない。
いくら無敵のショウでも連戦で消耗すれば確実に勝ち続けられるとは限らない。
「というか、ボスを探している間にいつのまにかニュータウンの外れまで来てるよ。この仮想空間がどれだけ広いか知らないけど、駅の方に戻るかこのまま西に向かうか決めよう」
もう少し西に行けば現実世界で言う国道二四六号線に出る。
マークの電磁探査ではある程度まで近づかないと敵の存在を察知できない。
二人は文字通りあちこちを飛び回ったが、都筑ニュータウン内の駅はあらかた巡った。
探索の範囲を広げ、このまま市西部を目指すのも良いかもしれない。
「ん……?」
その時、マークは不思議な気配を感知した。
「なんだよ」
「いや、まだ大分距離はあるんだけど、西の方に反応が二つ現れたんだ」
「次のボスは二体同時か。手間が省けていいな」
「ボスじゃないと思う。これは……あ、消えた? また現れた。そっか、これは……」
「なんだよ。一人で納得してないでわかるように説明しろ」
「他のプレイヤーだよ。空間を渡る能力を使って移動しているらしい」
「そういや俺らを含めて五人いるとか言ってたな」
マークは断続的に消えては現れる二人組を探った。
彼の能力は電気を操る。
クリスタ合酋国の某企業が開発した人工的な電気使い能力者だ。
電撃による攻撃の他にも電磁波を飛ばしてレーダーのように周囲を探知することができる。
「この反応、二人とも知ってる人だね」
「もしかして和代さんとマコトか?」
ショウたちがアジトを出る少し前、和代はマコトを運転手にして川崎西部に向かうと言っていた。
都筑市とは隣接しているし二人が巻き込まれていてもおかしくはない。
「一人はマコトだけど、もう片方は和代さんじゃないね。こっちが瞬間移動の能力者だ」
「瞬間移動能力者? 最近どっかで会ったような……」
「アミティエ第四班の班長の人だね」
青山紗雪を連れて行こうとしたときに抵抗した複数の能力を扱う少年だ。
「ああ、あいつか。何でマコトと一緒にいるんだ?」
「直接会って聞いてみれば?」
「そうするか。行くぞ」
ショウは透明な翼を広げて空へ舞い上がった。
「せっかくの休めるチャンスなのに、待つっていう発想はないんだね……おーい、そっちじゃないぞ!」
マークはため息を吐きながらマコトたちがいる方とは微妙にズレた方角に向かって飛んで行ったショウを追いかけた。
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