6 能力者組織への勧誘
「まず、君には僕の管理する組織に所属してもらう」
「組織?」
「いわゆる能力者たちの集まりだ。ちなみに指揮権は僕にあるが、あくまで組織としては独立していて、フレンズ社とは表向き何の関係もない。組織の名は『アミティエ』という。君の自宅は
「俺のこと事前調査してるんっすね」
「気を悪くしないでほしい。情報の開示前には十分に慎重を期す必要があるんだよ」
「みんないい人ばっかりで楽しいよー」
やたらとノリが軽いマナの言葉はとりあえず聞き流す。
「いくつか質問があるんですが。実際に入るかどうかは納得してからにしたいので」
「当然だね。なんでも答えよう」
「その組織は一体なにをやっているんですか?」
最初に確認しなければならないのは安全の問題だ。
マナはクラブ活動に誘うかのような気楽な物言いである。
だがルシフェルは『戦う』と言ったシンクの言葉を確かに肯定した。
今のところはマナの瞬間移動しか見ていない。
だが、おそらくはより攻撃的な能力も存在するのだろう。
それを使って戦うべき敵がいるのだ。
地球侵略をもくろむ宇宙人か、はたまた同じ異能の力を使い世界征服をたくらむ悪の組織か……
どんな答えが返ってきても驚かないとシンクは腹を括った。
「一概には答え辛い質問だね。というのも、アミティエの目的はあくまで保護活動が主だからだ」
「野良のSHIP能力者を探し出して保護してあげるのがメインの仕事なんだよ!」
「それって、さっきマナ先輩が使ってたみたいな能力のことですか?」
「私が使ったのはジョイストーンから力を引きだした
「まずはその違いから説明しなくちゃいけないね。残念ながらこの場にSHIP能力者はいないので、実演を見せてあげることはできないが……」
ルシフェルは椅子から立ち上がり、芝居がかった仕草で両手を広げた。
その行動に何の意味があるのかはわからない。
「JOYとは
「これ、これ」
マナは先ほどの水色の宝石をシンクに見せつけた。
「この宝石の中に能力が入ってるんだよ。これを持って念じれば誰でも瞬間移動が使えるの」
「誰でも扱えるというのは少し間違いだけどね。その名の通りこの能力は青春期、つまり中高生くらいまでの若者しか使用できない。使用可能時期には個人差もあるし、そもそも才能がなければ年齢基準を満たしても使えないんだが」
「つまり超能力って言うよりは、それ自体が特殊なアイテムみたいなものってことですか」
「その認識で構わない。それに対してSHIP能力は人間が本来持っている能力を強化した力のことだ」
「すぺりおる、ひゅーまん…………なんとかパワーだよ!」
マナの発音がひどすぎて英語なのかどうかすら判別し辛い。
「その宝石なしでそういった超能力が使える人間も存在するわけですか」
「超能力者というよりも超人と言った方が正しいかもね。人間の元から持っている能力、腕力や五感などを常人より遙かに強化する
「そんな人が普通に社会で生活してたら大変でしょ? だから私たちが見つけて保護してあげるの!」
「……捕まえて拘束でもするんですか?」
いたって真面目に質問したつもりだったが、ルシフェルはおかしそうに笑って否定する。
「そんなことはしないよ。SHIP能力者の持つ力には理屈があってね。僕たちはそれを無効化する技術を確立している」
「普通の人間に戻してあげるんだよ。本人のためにもなるし、力を悪用されても困るしね」
「そのSHIP能力者とかはそんなに頻繁に発見されるものなんですか? そんな超人がゴロゴロいるなら目立ちそうなものですけど、今までそんなの見たこともありませんけど」
「SHIP能力者の中には先天的な者もいるが、後天的に力に目覚める人間の方がずっと多い。本人も自覚なくある日突然に覚醒するんだ」
「そんな人たちをいち早く発見して、大事になる前に私たちが捕まえるんだよ!」
「はぁ……」
「まだ納得がいかないかね?」
「いえ、能力と組織の活動については大体わかりました」
「それは良かった」
ルシフェルは満足そうに頷いて腰をおろした。
何のために椅子から立ち上がったんだろう
「じゃあ、シンクくんも今日から仲間だね!」
「いや、それはちょっと待ってください」
「なにが不満なの!?」
「不満というか、やっぱりにわかには信じられないというか……」
「さっきはJOYの存在をあっさり信じたのに!」
「それとこれとは別問題ですよ。瞬間移動くらいならすごい技術で説明できますけど、常人をはるかに超えた超人が存在してるなんて言われてもね。それも組織的に対処しなきゃいけないほどの数が街中にうろついてるんでしょ? それはやっぱり信じられないっていうか」
「いつもそういう活動してるわけじゃないんだよ。組織はSHIP能力者を捕まえる以外にも、みんなでJOYを研究したり、地域のボランティアに協力したりって役目もあるんだよ!」
「ボランティアはともかく、JOYの研究ってのは企業のやるべき仕事ですよね。なら当然見返りはあるんですよね」
「組織の構成員には末端に至るまで報酬としてラバースVIPカードを進呈している」
「何……だと……」
シンクは息を飲んだ。
ラバースVIPカードと言えば噂にしか聞かない幻のカードだ。
ラバースコンツェルン関連企業の重役だけが持っていると言われているが、その存在は定かではない。
それがあればラバース系列の会社が運営する施設はほぼフリーパスで利用できるという。
シンクの生活に関係するところだけでも、カラオケやゲームセンター、ファミレスなど……
とにかくあらゆる施設がタダで使いたい放題なのである。
「系列のコンビニやデパートならマネーカードとしても使えるよ。無限にとは言わないが、毎月一〇〇万円までなら自動的に補充される仕組みになっている」
「私も持ってるよー」
そう言ってマナが取り出したのは先ほど黒服の男たちに見せたのと同じカードだった。
これが噂のVIPカードなのか。
都市伝説とばかり思っていたが、実在していたとは。
「望むなら将来は系列企業への就職も斡旋しよう。最低限の適正だけは調べさせてもらうが、多少の能力不足はグループ自慢の教育プログラムで責任を持って補わせていただく」
今や日用品から最先端科学技術まであらゆる分野で権勢を誇るラバースコンツェルン。
関連会社を並べるだけでも就職先は選り取り見取り。
どこに就職しても将来安泰間違いなし。
十数年前の大不況からたった数年でこの国の失業率を0.1%未満にまで下げた実績は並ではない。
「い、いくらなんでも話がうますぎると思います」
「大っぴらに公表できないことに協力してもらうんだ。危険も多少はあるし、これくらいの見返りは当然だと思っているよ」
個人の観点から見ればありえないほどの優遇。
それでもラバースコンツェルンという大企業連合からすれば取るに足らない褒賞なのだろう。
アミティエとかいう組織の構成員とやらがどれだけの人数いるかは知らないが、その全員の将来を約束して余りあるほどの余裕があるということだ。
「その代わり、こちらが提示したルールだけはしっかり守ってもらうよ。特に能力の悪用については適切な処置を取らせてもらうので――」
「あ」
ルシフェルの言葉に被せるようにマナが何かに気づいたような声を出す。
シンクが訝しんでいると、二人は同時に携帯端末を取り出した。
「……シンクくん、SHIP能力者の存在がいま一つ信じられないと言っていたね」
「はあ」
「ちょうどいいから実際に活動を見学してみてはどうかな。マナくんも報告を受け取っただろう?」
「うん、山下公園!」
「瞬間移動のジョイストーンを持っていたのは都合がいい。現場も近いし、せっかくだから彼を連れて行ってあげてくれ。ただしくれぐれも無茶はさせないように」
「らじゃー! いこっ、シンクくん!」
「えっ、ちょっと――」
抗議する間もなくマナに手を引っ張られる。
その瞬間、視界がブレて奇妙な浮遊感が全身を覆った。
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