第参話 『復活 ユリリンガーとガンスミスバニー(中)』
『オーッホッホッホッホ! いい気味ですわ!!』
ドシュゥゥゥゥゥウゥゥ!!!! ズガァァァァン!!!
『ぐっ…ま、まだまだぁ!!』
迫りくるドリルを避けようともせず、右腕で弾く事でなんとか直撃だけを免れるユリリンガーY。
ビー! ビー! ビー! ビー!
だが、直撃は免れていても徐々に機体へのダメージは積み重なっており、ユリリンガーYのコックピットでは警報が鳴り響いて警告ランプが幾つも灯っている。
『たかが人間一匹を庇って動けないなんて、甘々の甘ちゃんですわ~』
「カノコ君、右腕だけじゃ無理じゃ! ワシの事は構わず戦ってくれい!!」
ユリリンガー博物館の崩れた展示室から博士が叫ぶ。
ドリルタテロールは博物館を破壊するだけではなく
その為、カノコは先程の≪《
又、ドリルタテロールの攻撃で失ったのは左腕だけではない。
博士が使っていたノートパソコンも展示室の破壊に巻き込まれて壊れてしまっており、その影響でユリリンガーYはエネルギー配分の調整が不可能な状態に陥ってしまっている。
今はまだ土壇場で跳ね上がった出力で無理やり調整を無視して動かせているが、このままではエネルギーバイパスが耐えきれずに暴発してしまうか、最悪の場合は炉心溶融を起こしてしまうだろう。
だからこそ、博士は今は耐える時では無く、多少の犠牲はやむなしと判断して攻撃に移って欲しいと言っているのだ。
『ダメです! ここで博士達が死んでしまったらヒメは確実に戻ってこれなくなります!! あの子は責任感が強いから!!』
「う…じゃ、じゃが…」
しかし、カノコは博士の為ではなくヒメの為にそれは出来ないと返す。
ユリリンガー博物館への攻撃にヒメが関わっているかは分からないが、もしもお世話になった博士を失う原因を作ったのが自分となっては、ヒメは申し訳なさでこちら側へ帰って来る事が出来ないだろう。
それではダメなのだと、カノコはそう言っている。
博士はそのような理由とあっては反論が出来ないと言葉を失う。やはり、自分の半分以下の年齢の女性の痴情のもつれは難しい。こんな時どんな声をかけたらいいのかさっぱりだ。
『さ〜て、そろそろその美しい顔と、白くなだらかな下腹部にドリルをブチ込んで差し上げますわ〜! 』
そろそろ遊ぶのは止めだと、ドリルロータスが今まで交互に射出していた巻き髪ドリルを同時に振りかぶる。
ドリルロータスは美しい物をドリルでぐちゃぐちゃにするのに快楽を覚える怪人なのだ。このままではユリリンガーYが性的に消費されてしまう。
『その身に刻みなさいませ! ≪
ドシュシュゥゥゥゥゥウゥゥ!!!!
≪
≪
『ぐっ…』
カノコは迫りくる二つのドリルに対して、咄嗟に頭と下腹部のどちらを防ぐべきか迷ってしまった。
片方のドリルは自分が居る操縦用コックピットの頭部を狙っており、もう片方のドリルはキマシタワー粒子エンジンと制御用コックピットがある下腹部を狙っている。
自分自身を守る事は当たり前として重要だが、キマシタワー粒子エンジンに攻撃が当たる事も防がなくてはならないし、それ以上にヒメの居場所だった制御用コックピットを失う事を恐れている。
この場所はヒメの思いが詰まった場所だ。ヒメが帰ってくるのならこの場所しか無いのではないだろうか。そう思ってしまった事で迷いが生じたのだ。
『びっちゃびちゃのぐっちゃぐちゃですわ~。 オーッホッホッホッホッホホ!!』
シュゴゴォォォォォ!!!!
『とりあえず頭だけでもっ!』
短い葛藤の後、最終的には自分が居る頭部を守る事に決めユリリンガーYの右腕を持ち上げるカノコ。
ユリリンガーYを失う事になるかもしれないが、それでもここで自分が死んでしまってはヒメを止める事が出来ないと、断腸の思いでの判断だ。
だが、その判断は少し遅かった。
ガックン キュウウゥゥゥゥン……
『え、こんな時にっ!?』
「出力低下じゃと!?」
カノコの思いがキマシタワー粒子エンジンを加速させた様に、カノコの迷いによってキマシタワー粒子エンジンは減速する。
その上、只でさえ機体の状態が十分では無かった所にいくつもの攻撃を受けたのだ。これまで攻撃を防げていたのが奇跡だったのだろう。
頭部を守ろうとした右腕はだらんと垂れ下がり、カノコがいくら操縦桿を動かそうとピクリとも反応しない。最早無抵抗でドリルが着弾をするのを待つばかりである。
ユリリンガーYはここで終わってしまい、世界は機械帝国に征服されてしまうのか。カノコはもう二度とヒメに会う事が出来ないのか。絶体絶命のその瞬間!!
『≪
ドォンドォン!! ガゴゴォン!!
何処からともなく飛来した二つのロケット砲弾が、ドリルタテロールの巻き髪ドリルを二つとも撃ち落とした。
『もう! またいい所で邪魔ですわ!! 今度はなんなんですのですわ!!?』
シュルシュルシュル ガギギィン
弾かれたドリルを収納しながら砲弾が飛んできた先を見るドリルロータス。
先程から決めたと思った攻撃ばかりを邪魔されており、フラストレーションが溜まって仕方ないという様子だ。
『た、助かった……の?』
一方、カノコは来る筈の衝撃が来ない事に驚き、ドリルロータスの言葉から何者かが目の前まで迫っていたドリルから助けてくれたのだという事を理解する。
そして、ドリルロータスが顔を向けたその先へとユリリンガーYのメインカメラを向ける。自分を助けてくれた相手は一体誰なのかと。
『無様だな、ユリリンガーのパイロット。この私やユリニー様と戦った時の威勢の良さはどうした』
『あ、貴女は!?』
『よくもおめおめと現れましたですの!!』
カノコとドリルロータスの視線の先にあるのはユリリンガー博物館第六駐車場と、その中央に佇む二つの砲門。
そして、砲門の間にて半壊した兎型機械ビーストに跨り、腕を組み仁王立ちして風にマントをはためかせる軍服バニー姿の女性。
『『ガンスミスバニー!!!』』
意外な人物の登場に揃って声を挙げるカノコとドリルタテロール。
先程ガンスミスバニーが渡された紙袋に入っていたのはこの軍服バニーのコスチュームであり、当時の物と違っていていくつか装飾が豪華になっている。
しかもエグいハイレグレオタードは下にデニールの厚い黒タイツを穿く様になっているので、露出対策バッチリでそれ程恥ずかしくない!!
『よくもわたくしを処刑し…』
『こんな時に現れるなんて!! 貴女もユリリンガー博物館が狙いなのね!!! 二対一なんて卑怯よ!!』
ドリルタテロールの言葉を遮り、ガンスミスバニーはドリルタテロールの増援に現れたのだと勘違いした発言をするカノコ。
実際は助けてくれた側なのだが、カノコはガンスミスバニーが高砂ホソバだった事を知らないので無理も無い。
『いや、私はユリリンガー博物館を守る為にだな…』
『そうやって無傷で手に入れて何をするつもりなの!!!』
『そうではなく…』
ガンスミスバニーは耳を シュン とさせて、どう説明したらいい物か考える。
今まで敵だった者の言葉を好意的に解釈するのは確かに難しい。ましてやそれが何度も戦いを繰り広げた相手であり、その相手の所属する組織に攻められている真っ最中なのだから。
だが、ガンスミスバニーがユリリンガー博物館とそこで働く人達を守りたいという気持ちは本当だ。ならば正直にそう伝えるしかないだろう。元より下手な言い訳は苦手である。
『私はユリリンガー博物館で六年働いていたのだ。愛着を持っていて当たり前だろう?』
『六年もスパイをしていたの!!?』
『ユリリンガー博物館に配属になったのは派遣会社に登録した後だ。私が選んだ訳ではない。それに…』
『それに?』
『三十代で職歴の無い者を受け入れてくれる場所はそう無いのだ…ここが破壊されると、その…困る……』
『あ…ごめん……』
『いや、いい……』
今まで働いた事の無いカノコにとってガンスミスバニーの切実な言葉は100%理解出来る物ではない。だが、ヒメも(実は就職先が機械帝国だったが)働いてお金を稼ぐ事を大変と言っていた事もあり、実家住み家事手伝いの自分がこれ以上否定するのは駄目なのだろうと判断して謝罪をした。
一方、ガンスミスバニーは謝罪された事でここまで理由を言う必要は無かったのではないかと今更になって気付き、気まずさで言葉を失う。
『…………』
『…………』
カノコとガンスミスバニーの間に微妙な空気が流れる。
誰も悪くない。誰も悪くない事なのだ。強いて言えば世の中が悪い。
『二人揃って!! わたくしを無視するなですわ!!!』
ギュィィィィィィィンンンン!!!!!
先程まで自分が主導権を握っていた筈なのに急に蚊帳の外に出された事でプライドを刺激され、巻き髪ドリルを ギュインギュイン 鳴らして存在を証明するドリルタテロール。
彼女は自分の思い通りにならない事が大嫌いであり、特に自分の話を遮る奴と自分を無視して盛り上がる女性達は絶対に許さない。
『≪
シュゴォ シュゴォオオ!!!
ユリリンガーYとガンスミスバニーの両者に向けて巻き髪ドリルを射出するドリルタテロール。しかし、怒りからかその狙いは荒い。
『当たるものかっ!』
ダンッ ゴッ ドォン!!!
ガンスミスバニーは機械ビーストを跳躍させて巻き髪ドリルを躱し、そのままユリリンガーYへと迫っていた巻き髪ドリルに飛び蹴りを喰らわせて叩き落とす。
シュタッ!
そして飛び蹴りの反動で再度跳ね、動かなくなったユリリンガーYの傍らへと着地した。
『ほ、本当に助けてくれているの…?』
『自分の職場を守っただけだ。お前を助けた訳ではない』
『でも、ありがとっ!』
『フンッ…』
先程まで敵扱いしていたというのに、助けられた事であっさりとガンスミスバニーを信じてお礼を言うカノコ。
ガンスミスバニーはカノコのお礼を素直に受け取らずにやや照れながらそっぽを向く。これにはキマシタワー炉もにっこりだ。
『やはり裏切ってましたですのねガンスミスバニー…ユリニー様がおっしゃっていた通りですわ』
ユリリンガーYへ向けたドリルを二度も防いだガンスミスバニーを見て、合点が行ったとばかりに納得しながら言葉を漏らすドリルタテロール。
その視線には自信を処刑した事の恨みの他に、汚物を見るかの如く蔑みの感情も込められている。
『私が裏切っていただと……? どういう事だ!?』
機械帝国の幹部という立場とエグいハイレグレオタードの衣装で軽蔑の眼差しを受ける事は慣れているガンスミスバニーだったが、裏切りという言葉には見逃せないものがあった。それも、ユリニーが言っていたとあっては特に。
『白々しいですわよガンスミスバニー。貴女がそこのユリリンガーとユリニー様の最終決戦の時に手助けしなかったのは、機械帝国を裏切ってユリリンガー側に付いていたからだと復活されたユリニー様が仰っていたのですわよ! ユリニー様が負けたのは貴女のせいだとハッキリ仰られましたわ!!』
『違うっ! ガンスミスバニーはあの時怪我をしていて…』
『敵であるユリリンガーが庇うなんて、やはりそうですわのね!!』
十年前の最終決戦の時、ユリニーは単独でユリリンガーYと戦い、最終的に世界中の支援を受けたユリリンガーYエクスタシーに敗れる事になった。
それは怪我を隠していたガンスミスバニーを気遣うユリニーの愛情でもあり、世界を征服する為ならば世界相手に自分一人で戦わなくてはならないと決断した故のユリニーの覚悟でもあった。
ユリニーは最大の敵だったが、あの時のユリニーの行動は尊敬に値する物だった。それを侮辱する様な発言をされるのはいくらカノコでも我慢がならない。
だからこそ、事実とは違うドリルタテロールの言葉に当事者であるカノコが口出しをしたのだが、どうも逆効果にしかならなかった様だ。
『成る程…復活されたユリニー様が……いや、ユリニー様の姿を真似た愚か者がそう言ったのだな!!!』
だが、もう一人の当事者であるガンスミスバニーはドリルタテロールの言葉を聞き、今まで感じていた疑問を確定させる。
『ユリニー様ならばあの場で私が裏切ろうと、自身の負けを他者の責任にする事などしない!』
『な、何を言ってますですの…そんな言い訳など……』
『黙れっ!!』
バチンッ!
『ヒッ!』
ガンスミスバニーの言葉を言い訳だと指摘しようとしたドリルタテロールが、ガンスミスバニーが振るった馬鞭の音に驚き竦み上がる。
『私が生き恥を晒していたのはこの時の為だったのだな……いいだろう! 機械帝国の名を騙りユリニー様を侮辱する不埒どもめっ!! 機械帝国の生き残り、ガンスミスバニーが破壊してくれる!!』
ビシィィィ!!!
今度は馬鞭をドリルタテロールへと向け、蘇った機械帝国とユリニーを打倒するという決意を新たにするガンスミスバニー。
『≪
プシュー プシュシュー シューー…
そして足元に大量の煙幕をバラ撒き、自身だけではなくユリリンガーYやユリリンガー博物館も煙に紛れさせる。
これは煙の中を高速で飛び回り、本体の飛び蹴りと飛び回りつつ製造した銃器の包囲網で獲物を仕留めるというガンスミスバニーの必殺技の≪
『ぐっ、負け犬のおばさん二号なんか、恐るるに足りませんわ!! どこからでもかかってくるといいですわ!!』
ガギンギン!! ギュギュィィィン!!!!!
ドリルタテロールは巻き髪ドリルを両腕に装着させ、近接用の≪
裏切り者とはいえ元幹部であったガンスミスバニーの必殺技については勿論ドリルタテロールも知っており、この≪
『さあ! 来るなら来いですわ!!』
モクモクモクモク
だが、ガンスミスバニーの攻撃は中々来ない。
それもその筈だ。これは起死回生の為の煙幕だが、攻撃の為の煙幕では無い。
『(おい、ユリリンガーのパイロット。聞こえるか?)』
『(な、何? 接触回線?)』
突如ユリリンガーYのコックピットに響くガンスミスバニーからの通信。
ロボット物お馴染みのお肌のふれあい通信である。
『(私の機体も貴様の機体もあいつを倒すには不完全な状態だ。力を貸せ)』
『(えっ…いいの? 私はユリニーの仇だよ? なのに力を貸せって…)』
蘇った機械帝国の尖兵のドリルタテロールと戦う為、ユリニーの仇であるユリリンガーYに力を貸せと言うガンスミスバニー。
カノコはその言葉を聞き、驚きの余り素直に聞き返してしまう。
『(あれはユリニー様が納得された上での戦いだ。ユリニー様にも悔いは無い筈…。それより、貸すのか貸さんのかどっちだ?)』
『(そう……ならいいよ。でも、その代わり一つだけ言う事を効いて欲しい)』
カノコの言葉を聞き、自分の気持ちはどうあれユリニーが納得していたのならば問題は無いと返すガンスミスバニー。
ユリリンガーYを恨んでいないと言えば嘘になるが、安易な敵討ちはユリニーは望まないだろう。でなければ、あの時に『お前は生きろ』と言って自分を戦いから遠ざけたりしていない筈だ。
そして、窮地とは言え元敵だった間柄なのだ。力を借りる事の対価を求められる事も想定済みである。
『(いいだろう。機械帝国とユリニー様の名を騙る物を排除した暁には私の事を好きにするが良い。ユリニー様の名誉の為ならば、どんな事だって…)』
『(私はユリリンガーのパイロットって名前じゃない。久留間カノコって名前がある。力を貸して欲しいのならちゃんと名前で呼んで)』
だが、カノコが求めた対価はガンスミスバニーが想定していた物とは違った。
奇しくもそれは、先程ガンスミスバニーが理解した、人の名前を覚えるべきだという大切な事。
『(貴様……いや、分かった。行くぞ、カノコ!!)』
『(うん! ガンスミスバニー!!)』
キマシィィィィィィィ!!!!
カノコの言葉に応え、カノコの名前を呼ぶガンスミスバニー。
ガンスミスバニーの言葉に応え、ガンスミスバニーを受け入れるカノコ。
その二人の思いに、キマシタワー炉が反応する。
機動白百合戦士ユリリンガーY ~Ten years later true love~ @dekai3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。機動白百合戦士ユリリンガーY ~Ten years later true love~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます