第58話 南の国探検隊編成

 さて、南の国に行くにしても一人は不安です。元公爵令嬢兼皇太子の婚約者でしたので言語が不安なわけではないのですが、他国に一人でいくというのは中々ハードルが高いです。


 治安がいいかも分かりませんし、たぶん何も言わずに置いていったらアニマルズの皆さんがどんな顔で私を見るかわかりません。帰って来た時の視線を思うと……あ、だめですね、連れて行かないと。最低でもどのくらいの期間どこに行くのかは言わないと。


 その上、私は馬車も馬も持っていないのでポールさんのように一人では現実的に移動できないという問題もあります。


(荷物は【収納】すればいいから小さいですけど……歩いていくには遠すぎますし)


 魔力が体力に変換されるので無謀では無いのですが、何日も野宿や知らない村や街でお世話になりながらというのも。旅行が目的ではなく、その国の植生を調べて対虫の薬品を作るのが目的ですからね。


 となると、どなたかに乗せていってもらうのが得策な気がします。


 イグニスさん……は、空も飛べますし、なんだかんだ南の国についても知識があるのではないかと。


 アオイさん……は、植物の生えている場所を見つけるのがうまそうですね。い……狼ですから鼻が利きそうです。


 シェルさん……も、イグニスさんと同じく空も飛べますし、暖かい所へ渡りをして歩いていたなら南の国でも土地勘があるかもしれません。


 クリス神様は勘定に入れなくてもいいでしょう。現れたいときは多分そこに顕現されるでしょうから。でも後で一応、祈りの間で報告はしておきましょう。


 うーん、こう考えると粒ぞろいですね。もう皆でいきましょうか。私はシェルさんに乗って、イグニスさんにはアオイさんが乗って。留守はブルーに任せれば問題無いでしょう。家を空にすると家畜の世話をする人がいなくなりますしね。


 で、薬を少し多めに作り置きしておいて……植生を見るので一ヶ月は滞在したい所ですね。


 脳内会議終了です。後は今日の夕食の時にでもお話してみましょう。では薬の作り置きに入ります。


 村に何かあった時、なるべく対応できるように。傷薬、風邪薬、胃腸薬、解熱剤……この位の種類があればいいでしょうか。


 猛然と薬草を庭で採取しているところにイグニスさんが今日の獲物をもってやってきました。今日は兎が3羽。ごちそうですね。


「イグニスさん、ちょうどよかった。今日もうちで夕飯を召し上がりますよね?」


「あぁ、そのつもりで多めに狩ってきた。馬に渡しておく」


「ありがとうございます。夕飯時にちょっとご相談があるのでよろしくお願いします」


 アオイさんはいつも通り裏の畑で農作業をされていますし、イグニスさんが捕まればこっちのものです。


 イグニスさんはちょっと首を傾げながらも、わかった、と言って家の中に入って行かれました。さ、私は薬草採取の続きです。


 根絶やしにしない程度に残して(そうしておくと薬草は勝手に根を伸ばして新しく生えてきます)私は家に引き上げました。もう夕暮れです。調薬するのは明日からでもいいでしょう。


 それ専用の袋に摘んだ薬草を【収納】し、私は手を洗ってリビングにいきました。


 既に畑仕事を終えたアオイさんが狼の姿で床に寝そべっています。イグニスさんも足を組んで適当な本を読んでいました。リビングの本もだいぶ増えて来たので暇つぶしにいいのでしょう。


 私が戻ったのでブルーとシェルさんが晩餐を運んできました。皆で食べるのが習慣ですので、リビングでそれぞれ席についてお祈りを捧げていただきます。


 兎の香草ソテーと煮込み、朝に焼いたパンに温サラダ。今日も栄養バランスも味もばっちりですね。美味しいです。


「そういえば、皆さんにご相談があるんですけれど」


「なんだ?」


 アオイさんが兎をほおばりながら訊ねてきました。


「一ヶ月ほど南の国に植生を調べに行きたいんです。できれば、皆さんに付いてきていただきたいんですけど……」


 そしてそっとブルーの方を申し訳なさそうに見ます。


「で、留守の間ブルーには家を守って欲しいの」


「畏まりました。家畜の世話はお任せください」


 いえ、家畜の世話だけではなくて。いや、言わなくてもちゃんとやるんでしょうけど。皆さんのお世話ができないうっぷんを家畜で解消しようとしていますねこれは。高級羊毛がとれるかもしれません。


「我は構わんぞ。一月程留守にしたところで問題ない」


「私も当然お供させていただきます」


「俺も行く」


 アニマルズの皆さんは快く同行を許可してくださいました。


「で、ですね。私はシェルさんに乗るとして、イグニスさんにはアオイさんを乗せていただきたいんですが」


 陸路と空路では断然空路の方が早いです。地形も様々ですし、アオイさんがいくらフェンリルだとしてもここはまとまって行動する方がいいかと。


「犬を乗せるのか」


「トカゲに乗るのか」


 同時に抗議の声らしきものが聞こえます。シェルさんは私が乗ると言った事で恍惚とした表情で何かに祈りを捧げています。クリス神様でしょう、きっと。


「お嫌かもしれないんですけど、そこを何とか」


 イグニスさんとシェルさんがじっと互いの顔を見ます。何かを目で話し合っているようですが、人間の私には分かりません。そもそも幻獣種に幻獣種を乗せるのって、前例がない事なのでは?


「……わかった。纏まって行った方が早いしな」


「現地で落ち合うにしてもずれが生じたら申し訳ない。悪いが背中を借りるぞ」


「気にするな、我の背はそう狭くはないからな」


 話はまとまったようです。後は私が準備を終えるだけですね。


「では、出発は一週間後という事で。皆さん、よろしくおねがいします」


 ちょこんと頭を下げた私は、安心して夕飯の続きに取り掛かりました。南の国、どんなところか楽しみです!

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