第5話 裏山のドラゴン

 さて、こんな素敵なのに、ここが打ち捨てられた原因がわかってきました。というか、最初から分かっていました。


 私が到着してから今の今まで、下手するとこのままでは夜中まで続くのではないでしょうか。


 裏のこんもりと茂った森の奥の山から、ずーっとドラゴンの咆哮が聞こえてきます。


 しかもこう、なんと言えばいいのでしょうか。


 前世風に言うならギャン泣きといいますか。


 ただ吠えてるだけじゃないみたいなんですよね。痛いとか、苦しいとか、そういった訴えをしているようです。お腹すいた、だった場合は下手すると私がご飯になり兼ねませんが……。


 このままにしておいたら私は不眠症確実です。


 幸い、体力に関してはお願いしていた通り魔力からの変換が可能な様です。不老不死もついてますからたぶん餌にはならないでしょう。


 庭の薬草から使えそうなものを台所にあったバスケットに摘んでは入れ、動きやすい丈のスカートとブーツに履き替えて、私は見知らぬ森に入って行きました。


 鬱蒼と木が生えているので少し寒いですが、暫く歩くと岩山の麓に辿り着きました。鳴き声は近くなっています。どうやら、この山の中腹にある洞窟から聞こえているようです。


 基礎魔法の土魔法を使って足場を作りながら、急勾配の山を一直線に洞窟に向かって歩いて行きます。


 いいですね、魔力が体力に変換されるの。全く疲れずに辿り着くことができました。


 鳴き声はかなり大きく聞こえています。


 私はそっと中を覗き、今度は光魔法の基礎魔法で足元を照らしながら奥へと進みます。


 ちょうど山の真ん中の辺りなのでしょう。だんだんと明るくなってきたと思ったら、山の天辺からこの洞窟まで出入りできるような大穴が空いていました。


 もちろん、出入りできるのはドラゴンだけでしょうが。


 そしてその穴の真下で、近くで聞けば呻き声ともとれる鳴き声をドラゴンが上げていました。


 立派な二本の角を生やし、赤いうろこで覆われた全身を丸めて、グルグルと呻いたり、時折咆哮をあげています。


 体長10メートルはあるかと思われるドラゴンです。怖くないといったら嘘になります。


 ですが、ご近所でこんな声を毎日昼夜問わず聞かされていたら気が触れます。


「あの! どうされましたか!」


 私はドラゴンに近付くと、鳴き声に負けないくらいの大声で叫びました。


 ピタリ、とドラゴンの鳴き声が止みます。


「ヌシは……誰じゃ?」


 年若い男性の声で話しかけられました。人語が通じるようでまずはよかった。


「この近くに越してきた魔女です。なんでそんなに鳴いているんですか?」


 ドラゴンはぼたり、と大きな涙の粒を落としました。水滴が私にまで撥ねてきます。


「数十年前、近くに住むキマイラの毒の爪で蹴られてな……我は不老不死の身。毒は全身に回っておるのに、傷口も塞がらず、毒の苦しみで動くこともままならず、誰かに気付いて貰えるまで鳴く事しかできなんだ。魔女とやら、慈悲があるならこの首を落としてくれないか。もう苦しむのも痛みに耐えるのも限界だ」


 不老不死っていい事ばかりじゃないんですね……。毒に当たらないように気をつけよう、と思いながら私はドラゴンの首に手を伸ばしました。


 落とすためではありません。診察です。


「傷口はどこですか? 身体はどんな風に苦しいですか?」


 するとドラゴンは素直に尾を退けて、腿に受けた傷痕を見せてくれました。


 傷自体は浅いのですが、毒で膿んでいますね。これでは塞がりません。


「内臓を絞られるような痛みがずっと続いている、体を動かそうとすると全身に鋭い痛みが走る」


「なるほど……」


 内臓にまで回っているのは厄介ですが、神経毒でしょう。致死量で無いという事は動けなくする類ですね。腐臭が漂っています。

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