第4話 夢の庭付きマイホーム

 追放先までは馬車で送ってもらえました。


 昨夜は両親に地位が下がってしまう事を謝ったり、逆にそんな事で追放されるなんてと同情されて泣かれたり、追放先についての伝令が来たり、持てる荷物を纏めたりと大忙しの一夜でした。


 ですが、晴れ晴れとした気分です。天気も良好、両親ともちゃんとお別れをしてきました。さらば私を捨てた国よ、私の有能さはご近所の村にだけ恩恵があることでしょう。なんて強がってみますが内心不安でいっぱいです。ですが今更です、ええいままよ!


 心機一転新しい土地へ一歩馬車から踏み出しました。そして目の前には崩れ掛けのボロ家。事前に知って対策を練っていなかったらこの時点で泣いていたかもしれませんが、抜かりはありません。転生ボーナス、どどんと活用してまいります。


 まずはこれ(ボロ家)を修理しないことには始まりません。


 送りの馬車が見えなくなる頃、私はブラウスの袖をぐいっとまくりました。


「よし、やるわよ!」


 荷物のトランクを足元に置いた私は、両手をボロ家に向かって掲げます。目を閉じて集中すると、今まで感じた事のない程の魔力が迸るのが分かりました。


「【修復】」


 私がそう唱えると、みるみるうちに蝶番の外れかけた錆びた門が立派な鉄門に戻り、腐って分からなかった鉄柵が庭を覆い、庭は季節の花を咲かせて適度に芝生のある綺麗な手入れをされた庭に、家は到底崩れかけていた物とは思えない、真新しい木の香りのする壁や柱、上りに扉、そして可愛らしい丸い瓦の二階建て一軒家に様変わりしました。


 近くの建物はどうやら農作業の道具を置いておく倉庫を兼ねた厩のようです。


 しまった、創造の魔法も授けて貰えばよかった。家畜小屋がありません。


 まぁ暫くお肉や玉子、牛乳は買って済ませる事にしましょう。お金もたんまり貰っていますから。どこにあるのかな。


 さっそく修復した家の中にトランクを持って入りました。


 入り口の横には可愛らしいウッドデッキがあり、そこにソファまであります。前の家主の趣味は大変よかったものと思われます。ここで本でも読みながらお茶したら最高でしょうね。


 期待を胸に扉を開けると、まるでそこは理想のドールハウスのようでした。


 花柄の入った飴色の靴箱、贅沢な刺繍を施された絨毯のひかれた廊下、靴箱の上には金枠の大きな鏡が設えてあります。


 一番近いドアを開けてみれば、板張りの床に北欧風の家具。立派な白いソファに香木のテーブル、なんと壁には暖炉があります! 前世では広い部屋に住んだら北欧風の家に住みたいと思っていたので大満足です。


 背の低いチェストの数々には綺麗なアンティークのお皿、私の趣味と被る本の数々、大きな窓からは先ほどのウッドデッキに出ることができます。


 こんな調子で家の中を探検しました。


 金の取手の付いた水洗トイレ、猫足のバスタブに白と金で纏められた浴室、寝室のベッドも大きくて天蓋付き、クローゼットはなんとウォークインです。贅沢すぎません? そんなに置くほど靴も服も持ってきていません。


 寝室のテーブルとチェアもちょうどいいサイズです。何冊かのノートとインクとペンもありました。日記でも書こうかしら。


 そしてテーブルの隣にあった背の低いチェストの中には、追放されたとは思えないほどの金貨銀貨がつまっていました。食べるのには一生困らないでしょう。


 後で銀貨を持って村に行ってみよう。これはボーナスの例のアレですね。他に金目のものは特にありませんでしたから。RPGの勇者並みに引き出しは開けて回りました。


 たぶんですが、ここは元は貴族の別荘だったのではないでしょうか。


 使用人用の部屋と思われる場所や、広い台所、それよりも広いダイニング。洗濯部屋もありました。


 今日からは私一人のお城です。管理できるかわかりませんが。


 とりあえず使わない使用人部屋や客間なんかの家具には白い布をかけておきましょう。其々の部屋のクローゼットに新品の布が入っていました。


 一通りの冒険を終えた私は荷物を整理して、今度は庭に出てみました。


 裏には畑があります。ちゃんと畝が作ってあるのでいつでも栽培が始められそうです。


 厩の中にある程度道具も揃えられていました。前世では田舎出身の私はどれが何に使う道具か分かるので助かります。現状、足りないものは無い様に思えますね。


 あとは綺麗な庭! 灌木で遮られながらさり気なく季節ごとに違う花が咲く様に植えられています。前世でプランターで花とハーブを育てて(話しかけて)いた私にも分かる種類がいっぱいです。


 そしてありがたいことに、薬草の類もふんだんにありました。ちょっとした病気や体調不良も怖くありません。【調薬】の魔法のお陰で見るだけで知らない植物でも薬効が分かるのは本当にありがたいです。あってよかった【調薬】。やっててよかった調薬。まぁ基本毒薬しか作ってこなかったんですけどね。過去は過去です。

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