第3話 不老不死の魔女、密かに誕生!

「何でしょうか」


「回復魔法は使えます。でも、回復魔法は限度があります。……ですので、私に【調薬】の魔法を授けて欲しいです」


 職業病とでも言うのでしょうか。


 確かに私は調薬はできます。レシピ開発できるほど、マルグリートになっても勉強は欠かしませんでした。薬草学には特に力を入れて勉強してきたものです。嫌がらせ(未遂)のためですけど。


 ですが、【調薬】の魔法。これがあれば、難しい手順を踏んだり道具を使ったり時間を置いたりせずとも薬を精製できます。どうせ不老不死の魔女になるのなら、人の役に立つ魔女として生きたいものです。


 知ってるレシピに限られますし、材料が無ければ使えませんが、そこは勉強していたのと前世の知識でカバーできるでしょう。


「それでよいのなら。では、契約は成立ですね。此方にサインを」


 どこからか出てきた紙とペンを手渡され、内容をしっかり読みます。


【修復】と【調薬】の魔法。不老不死。魔力増大。お金。


 ちょっとお金の金額が多すぎる気もしますが、多くて困るものでは無いので受け取っておきましょう。


 前世では自炊もしていましたし、鶏の締め方なんかは村の人に教わろうと思います。道具を買いに行かなきゃいけませんしね。


「はい、大丈夫です。ここまでよくして下さってありがとうございます」


 床に座ったままですが、私は深々と頭を下げました。


 神様は少し困ったように笑っています。


「貴女は……願わないんですね。素敵な恋人が欲しいとか、一緒に暮らす友人が欲しいとか」


「? それは願って叶えてもらって得るものではないでしょう?」


 きょとんとしてしまいました。そんなもの、願って手に入れられるなら私は30年以上、そしてこの18年間、喪女からの悪役令嬢になっていた訳がありません。


 欲しかったら……自分で手に入れるために動かなければならないものです。きっと。


「それは、自分で今後、頑張って手に入れたいと思います」


「……貴女がそういう方でよかった」


 神様が初めて膝を折って私の手を両手で握りました。白金の髪が垂れて落ち、より美しい顔を引き立てています。


 勘弁してください、喪女にイケメンとのこの距離感は辛いものがあります。


「じゃ、じゃあサインしますね!」


「はい。……私が遊びに行ったら、お茶くらいはご馳走してくださいね」


「遊びに来る気なんですか?!」


「ダメですか? 友人一号にしてもらっては」


 神様が友人一号?! えっ、いや構いませんけど、そんなおいそれと地上に降りてくるものなんですか神様って!


「い、いいですよ」


「では、約束です」


 こうして契約書に、神様との友人契約の項目が付け足されました。


 あとはサインするだけです。


「では、お世話になり……ました? これからもお世話になります」


 曖昧な挨拶を残して、私は契約書にサインしました。マルグリート、と。


「では、マリー。貴女を現実に戻します。幸運のあらんことを」


 そうして私の意識が遠くなると、今度は見知った天井がそこにありました。


 パーティー会場の天井です。意識を失っていたのは、こっちの時間ではほんの一瞬だったのでしょう。


 誰も助け起こしてはくれませんでした。……メイドも、元婚約者も、誰も。


 私は毅然と立ち上がり、胸を張りました。私には国外追放までされる理由は(たぶん)ありませんが、これはゲームのストーリー。


 今まで悪役令嬢としては中途半端、ライバル令嬢としては出来ることはやってきました。


 その上の結末です。胸を張って受け入れましょう。


「……分かりました。毒殺未遂は行なっておりませんが、公明なる皇太子様には何かしらの確証があっての事と存じ上げます。今までの数々のご無礼はどうぞお許しください。明朝、国を出ます。家族には何卒、ご厚遇をお願い致します」


 欲しいものは、手に入れました。これからの暮らしに不安なんてありません。


 好きだった人の顔を見て最後に微笑んで、私は礼をすると、そのままパーティー会場を後にしました。


 明日から、マルグリート・フェルナスではなく、ただのマルグリートとして生きていくのです! 不老不死の魔女として!

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