最終話 私の二つ名が【冒険王】になるまでは
王都にとんぼ返り、からのー、Sランク授与……というか、普通にギルドマスターから説明を受けてカードの作り替えをして終わった。
前回は王城で仰々しくやったそうなのだけれど(主にシャドが)王城に私を入れたくないので、ギルドで簡単に手続きをするようにしたそうだ。私はどうやろうとSランクのカードが手に入ればいいし、ソードは堅苦しいの苦手なので結果良かったね、と話していたのだが……。
だがしかし!
現在、パレード絶賛開催中。
……しょーがないのよ。私たちがギルドを出たら、王都の住民が勝手にギルドからの道路沿いに集まって騒いでいるのよ。
ソードは超嫌がっていたけれど私が、
「皆の期待に応えるのも、勇者でありトップランク冒険者たるお前の役割だろう。それに、私たちはこの国でトップに立つSランクパーティなのだからある程度のサービスと顔見せはやるべきだ」
と、正論を述べると諦めて私とともに小型化したシャールの上に乗り行進した。
リョークは脇を歩き、ホーブは私たちの周りを飛んでいる。ミニミニ鎧騎士クン一号は、ソードの肩の上だね。ふんぞり返りつつ、めっちゃ槍を振り回しておるわよ。
一年ほど前、最初に王都に来て王都ダンジョンに向かうときを思い出した。
あの時よりゴーレムが増えて、道路沿いに集まっている人も増えたなー。
勇者の資格持ちだってのがどこかから漏れ広まったのか、はたまた魔王様を倒したと誤解しているのか、ソードを呼ぶ声は【迅雷白牙】改め【勇者ソード】となっている。
すっごい嫌そうな顔をしているソード。そしてすっごい困っているソード。
たぶん、アマト氏に気兼ねしているのだろう。でも、アマト氏自体は気にしていないみたいよ?
私、そのことを話したけど、
「あ、そーなんだ! ……なら俺、ソードさんがその魔法陣の上に立たなくてよかったって感謝しないとだな。俺とソードさんが合体することになったもんね。ついでに
って、真顔でしみじみと言ったから。
私も真顔で、
「それは、まさしくそのとおりだな。アマト氏の軟弱さとソードの小市民さと厨二学生の痛々しさで、見るも無惨な仕上がりの勇者が出来上がるところだったな」
と、答えたよ。
たぶんおそらくぜったい、『ざまぁ役極まる勇者』が爆誕したと思うよ!
……とか思い出していたらソードにグリグリされた。
「いたいいたいいたい。……私の顔にはなんて書いてあるのだ?」
たぶん、今思い起こしたことが顔に出ていたのだろうから聞いてみた。
「俺が『勇者っぽくない』って考えている顔だね。どーせ小市民ですよ!」
ソードが開き直っている。
私はソードに向かってうなずいた。
「だいたい合ってる。正解は『アマト氏ともう一人の勇者と合体したソードは、さぞかし痛々しく軟弱で小市民さが強調されていたであろうな』だ! まったく勇者っぽくないな! アマト氏も、お前が魔法陣の上に乗らなかったことを感謝していたぞ! ぎゃー!」
アイアンクローに変わった!
「お前、アマトに話したのかよ!?」
ソードが驚いたような声で怒鳴った。
「アマト氏が、お前の態度で察して尋ねてきたんだ。正直に話して何が悪い? アマト氏はもうこの世界になじんで元の世界に戻りたいなどと思っていないぞ。勇者でなかろうが人間でなかろうが気にしていない。私だってそうだしな。気にしているのはお前だけだ」
私が弁解したら、ソードは詰まった。
手を放してくれたので、そこを撫でてさらに言う。
「出た結果に後悔しても始まらないだろう。第一、【勇者アマト】氏に魔王は倒せない。その気概がないからな。もう一人の勇者は、やる気があるだろうが倒した場合に増長が天井突破して手が付けられなくなり、王国ならず魔王国やこの世界の全ての生き物が迷惑するような事態になるかもしれん。私とお前でクリアするのが結果的に一番よかったと思わないか?」
ソードが目をパチクリさせた。目から鱗が落ちたみたいね。
「そういや、そっか。なら、この騒ぎや俺が【勇者】って呼ばれてるのは――」
「『問題児の勇者が魔王を倒すことにならなくて良かった!』って心の底から感謝しているからこその言葉だな。『ソードが勇者で、彼奴ではない!』という強い思いがこもっているのだろう」
ソードが納得したようだ。まぁ実際のところ、言葉通りの解釈で言っていると私は思っている。
だけどさっきの解釈なら、ソードも【勇者】って呼ばれることを嫌がらないだろう。
もう一人の勇者は、怒って襲ってくるかなー? ならば、魔王である私がお相手をしよう!
……って考えたらまた睨まれた。エスパー!
「……ま、どーせ俺をおとりに問題児の勇者を釣ろうとか考えてるんだろうけどよ。いいけどな」
……おや? ソードが悟りを開いたぞ?
私が首をかしげてソードを見ると、ソードが苦笑した。
「それが俺の宿命なら、【勇者】ってのはそういうモンだってんなら、お前と一緒に楽しむさ。どーやったってトラブルは舞い込むように出来てるんだからな。なら開き直って、お前は俺をエサにトラブルを釣って楽しめばいいよ。【魔王】がやり過ぎたときは、【勇者】の俺が止めりゃいいだけだ。それも楽しいかな」
――ソードが、私をお仕置きすることに生きがいを見つけ始めた件について。
……嫌な予感がするんだけど……。もしかして、今まで私がお仕置きをし始めようとしたときにソードが必ず現れたのって、【勇者】称号のせいなの? 絶体絶命のピンチに駆けつけるヒーロー的なアレ?
しかも、それでいくと私はいわゆる『やられ役』なのでは……? 毎回お仕置きされちゃうのに、懲りずにやらかす三バカトリオみたいな?
あるいは両さんを地でいってるってことなのか。まだそっちのほうがいいけど……いや良くないかも。どっちみちやられ役じゃん私!
そう考えた私は情けない顔になっていたのだろう。ソードが私の表情を見るなり噴き出した。
「――――で? これからどうする?」
ひとしきり笑ったソードが、顔を寄せて小声で聞いてきた。
私はフッと鼻で笑い、答える。
「愚問だな。もちろん冒険するに決まっているだろう? まだドラゴンにもお目にかかってないし、どこかにあるかもしれない〝桜〟も見つけていないし、浮島だってこの目で見てみたい。私の二つ名が【冒険王】になるまでは冒険をやめるものか」
ソードが明るく笑った。
「んじゃ相棒。次の冒険に行こうぜ?」
ソードが顔前に手を差し出してきた。……ソードって、本当にこういうの好きだよね。
そう思いながらも、その手を強く握った。
私たちオールラウンダーズの冒険は、まだまだこれからだ‼ (了)
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