第364話 イースで祝勝会、王都で褒賞授与!

 ジェラルド殿と叔父の嘆願により、祝勝会を開くことにした。場所はイースの我が屋敷だ。

 来賓はショートガーデ一家の他、叔父のアリオス・サマーソル公爵子息ともう一組。ベン君のお店のプレオープンのときに来ていたチャックミルン公爵夫妻(奥さまはベン君のお店の購買金額ナンバーワンで、私と出会うと満面の笑みで近寄ってきて、いろいろ話しかけてくる天真爛漫な人)を招き、その他にイースのギルドマスター、ベン君と【明け方の薄月】も呼び、パァッと派手にやることにした。

 料理人たちに使用人、メイドが大喜びしているよ。

 すさまじく準備期間がないってのに、張り切っていますよ。

 働くのが本当に好きなんだなぁ。


 ギルドマスターを含む平民勢は「高位の貴族と祝勝会なんて無理ゲーすぎ」みたいなことを言って辞退しようとしたけれど、その高位の貴族勢は「今更平気ですわよ! それに、平民の方がいらっしゃったら、多少ハメを外してもいいですし、ねぇ?」「そうですぞ! 私も心は冒険者なのですぞ!」と超乗り気だ。むしろ一緒ならハメを外せると思っている節がある。

 というわけで、強制連行して強行します。

 私だって、めっちゃ張り切っているメイドたちに叔父から贈られた「仮装かな?」ってコスチュームを使って着飾らせられるんだから、お前らも何かしら犠牲になれ!(意味不明)


 祝勝会当日。

 まず一発目。現れた私の様相を見て表情を出さない高位貴族ですら絶句したというね。のっけから偉業を成し遂げた私だった。

 いや、アリオス叔父殿だけは、

「インドラ嬢の目のくらむような可憐さで、私は危うく花の妖精と間違えるところでした。本当に贈ったかいがあるというものです!」

 と、大絶賛してくれた。

 その言葉に、メイド長以下がニッコリ笑顔になりました。めっちゃ満足げですよ。君たち、ちょっとおかしい。いやサマーソル家がおかしいのかな? 主から使用人まで美的感覚が狂っていません?

 そしてアリオス叔父殿の言葉で、ようやく高位貴族の方々も我に返り褒めてくださいましたが、平民勢は全員、


「どうしたんだソレ!? もしかして仮装しないといけないのか!?」(某ギルドマスター)


「インドラ様……そのカッコ、以前にも増して痛々しいんスけど。正視できないっつーか、なんか心が痛くなるっつーか」(某店長)


「…………(全員つらそうな顔でそっと目を逸らす)」(某B級冒険者)


 と、まぁ、こんな感じでしたよ。

 ちなみにエスコート役のソードは何も言わなかったけれど、終始同情の目で見てくれた。


 パーティは基本は立食だが、疲れたら座れるように椅子も用意した。

 あと、ちょっとひねりを入れて、料理人たちが目の前で仕上げの調理をするパフォーマンスもやってもらうことにした。

 普通、料理人が調理をしているところは見せない。見せないどころか、本来は厨房へ入ることもアウトだとか。使用人の仕事は見せないようにする見ないようにするのが礼儀だったらしい。それはあの鬼女から習ってなかったわ。

 ……あー。そういえばまだ伯爵令嬢だった頃、厨房に入り浸っているのをメイド長に見つかってめっちゃ叱られたことがあったっけ。そういうワケだったのか。今はもう怒られないし見せても何も言われないけど。


 男性陣はそれでも行軍訓練で野営したときに簡単な調理は見たことがあるそうだけど、女性陣はショートガーデ公爵夫人以外お初だ。

 しかも、仕上げの調理はパフォーマンスだから、派手に行う。具体的にはフランベね!


 ステーキのフランベに、公爵たちが群がって歓声を上げていた。

 それを後ろから、ギルドマスターたちが硬直して見ていた。

 うん、アレらは、貴族のスタンダードじゃないから。だから呼んだから。

 ……いやわかんないな。意外とアレがスタンダードなのかもな。私のされた教育がおかしかったのかもだ。


 目の前で作られたソースをかけられた料理に、注文を受けてから揚げられるフライや、毎度おなじみ派手な演出で盛り上がるクレープシュゼットやベイグドアラスカなどなど、皆大騒ぎ。

 そのうち、貴族と平民の垣根なく(たぶん酒が入ったからもある)皆打ち解けてめっちゃ騒いでいた。

 うちのメイドや使用人たちは、「これは貴族のパーティとは違う」と思ったのだろうが、黙殺してキビキビと陰で働いていた。本当に君たちは使用人の鑑だよ……。


 酔っぱらったショートガーデ公爵が、

「おぉ、そうだ、スカーレット! 祝いにインドラ殿と歌わないか?」

 などと言いだし、酔っ払いの父親をキッ!と睨むスカーレット嬢。

 ……本当にキミ、そういうことばっかりやってると娘に嫌われるよ?

 娘さん、思春期を迎えているんだから。

 前世の記憶があるっていってもさー、ソレってたとえるなら長い映画を観ていたって感覚で、今の自分にその映画の内容は影響するかもだけれど、だからって今の自分の年齢が変わるわけではないのよ? 前世の年齢プラス今世の年齢、にはならないのよ?

「……ショートガーデ公爵。娘に『パパ、嫌い!』の即死攻撃をくらう前に、ほどほどにした方がいいぞ?」

 私の言葉を聞いて、ショートガーデ公爵が大袈裟にビクッとした。


          *


 宴はつつがなく終了し、貴族の皆さんに「いつか時間が取れたら屋敷の改築をお願いします!」と土下座をせんばかりに腰を低くして頼み込まれ、それをなだめて見送って、ソードと私は再び冒険に……ではなく、王都にとんぼ返りせねばならなくなった。


 冒険者ギルドが魔王国のダンジョン踏破、そして王国が魔王国との国交の劇的改善を理由に、私をSランク冒険者に認定。ソードは名実共にトップランク冒険者として認定され、王国内でほぼ無制限の権利を有する勲章と褒章を授与することになった。

 つまりソードは、貴族はもちろん下手な王族よりも上の権利を有したのだ。

 恐らく、魔王たる私を勇者たるソードが制限しなさいよ、そのために全力でバックアップするからさ! という意味だと思うし、ソードもそう受け取った。

「辞退する」

 と、ソードがぶっきらぼうに言ったので、私はなだめた。

「待て、ソード。もらえるものはもらっておけ。お前は近年まれに見る不幸体質の持ち主だ。勇者スキルでそうなのだろうが、つまりはこれからも不幸や災難が降りかかってくるということなのだぞ。王国でしか通用しないであろうが、それを持っておけばちょっとは緩和出来るだろう」

 ソードは眉をしかめて私を見たあと、怒鳴ってきた。

「俺だけ受け取るのがおかしいっつーんだよ! 俺たちはコンビだろ!」

 まぁ、そうなんですけどね。

「私には要らないと判断したのだろうし、それは正解だ。私はそんなものがなくとも、ちょっと雰囲気を出せば皆がひれ伏すからな! 私にひれ伏さないのはお前だけだ!」

 腕を組んで胸を張りドヤ顔で宣言したら、ソードが呆気にとられている。そして、納得してふっきれた顔になった。

「よしわかった。俺、もらっとくわ。で、お前をひれ伏せるわ」

 え。ソードが急にドS発言してきたんだけど?

 私は咳払いをした。

「私はSランク冒険者の肩書きがほしい。またもやお前が上にあがってしまったが、まぁ、お前のは冒険者のトップとしてのランクなのだから、私はSランク冒険者でもかまわないだろう」

 私が言うと、ソードが横目で見てため息をつく。

「……ま、お前は確かに実力があるけど好き勝手に生きすぎていて、冒険者のトップにはなれねーよな」

 否定しない。というか思い切りうなずいて肯定した。

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