第363話 サマーソル公爵夫妻から事情を語られたよ
王都を去り際に、私にとっては祖父母にあたるサマーソル公爵夫妻が面会を希望してきた。
ソードは渋ったのだが私はトラブルを期待して会うことにしたのだが……なぜか謝ってきた。
何故に謝るの? と首をかしげたら、つまりは私を産んだ女のことで謝りたかったようだ。以下要約。
――私を産んだ女は生まれた頃から体が弱く、社交の場にはあまり出なかったらしい。
ずっと家に引き籠もっていて、やることといえばマナーの練習や勉強くらい。
社交の場に出もしないくせに、マナーや教養は完璧だったそうだ。なんだそれ、無意味。
たま~ぁに出るのは女性のみのお茶会。そこで少女たちから語られるロマンチックな恋物語(創作物)を聞きかじり、妄想を膨らませていたそうな。何考えてるんだろうね。貴族の女は政治の駒だよ、駒。
で! 時が経ち女は妙齢になり、体調も安定してきたし大きなパーティに出てみよう〜となり、さっそくクズにたらしこまれたというわけだ。
公爵夫妻はクズーノ・スプリンコートがどういう人間だかを知っていたから、婚姻を猛反対した。叔父も猛反対していたので、一家で猛反対ね。
ところが恋は盲目、いい歳して初恋をこじらせた女につける薬はなく、持参金を期待したスプリンコート伯爵も公爵夫妻に『自分は真実の愛に目覚めた』などと大ボラを吹き、それを聞いたこじらせ女はアタックボアよりも突進が止まらなくなる。すったもんだの末、最終的に結婚を承諾させたとな。
結果、すぐに結婚生活は破綻。
公爵夫妻はあれほど言ったのにと怒りスプリンコート伯爵宛てに糾弾の手紙を送ったのだけれど、本人は屋敷に寄りつかず妻の持参金で愛人宅を渡り歩いていたときたもんだ。
公爵夫妻は娘にも『離縁して帰ってこい』と手紙を送ったけれど、娘も手紙を無視。
手をこまねいている間に娘は呪詛をまき散らしながら死亡。九割以上自業自得なのにねー。
娘の死に激怒した公爵夫妻はスプリンコート伯爵と絶縁したが、その後私が行ったお茶会で広めた噂が耳に入った。孫娘がないがしろにされていることを知った公爵夫妻は救出するべく準備していたのだが、その孫娘の私は出奔して平民の、しかも冒険者になってしまった。
公爵家の血筋の者が冒険者になるとは! と、また激怒、救出に一番熱心だった叔父を止めて、私とも絶縁。へぇ、されてたんだ。知らなかった。
ところが! 私がソードと組んで華々しく活躍していて、王都のオークションで高級な酒を売ったり、王ですら羨むほどの超人気商店をプロデュースしたりしているのを知り、さすが公爵家の血筋、と勝手に見直していたらしい。いや、血筋はぜんぜん関係ないし。私自身の実力だし。
息子がコソコソと私に会ったり贈り物をしたりしていたのを知ったが止めず、自分たちも関係を修復しようと考えていたところ、今日、私が貴族を怒鳴りつけ王を謝らせたのを見せつけられ、
「あんな環境で、なんと立派に育って……」
と、泣いていたそうな。意味不明だ!!
「……アリオスから聞いていたけど、イサドラに似てとてもかわいらしく育ったのね。イサドラが元気だったらこんな感じなのかしら、と思っていたの」
「本当に愛らしく成長したな。昔のイサドラを思い出す。いや、イサドラより愛らしさは勝っているかもしれんな」
と、めっちゃ撫でくり回された。
ちなみにソードはなぜか怒っていて、
「……今っ更、ご機嫌とりしても遅すぎやしねーか? ちっこい頃のインドラを助けたの、俺だぜ?」
ってつぶやいて、公爵夫妻をフリーズさせた。
ソードのつぶやきを聞いた私は肩をすくめる。
「まぁな。血筋に関しては、赤の他人の誰かとそっくり入れ替えたいとは思っているが、それも今更だ。私は誰にも似ていない。私は私で、自分の実力とソードの助力でのし上がった『魔王』の資格を持つ冒険者だな」
そう言うと、夫妻に向き直った。
「別に謝る必要などない。貴方がたは自分たちの立場で動いただけで、私は貴方がたに助力を求めようと思ったことなどないし、こちらも助力を求められようがお断りする。貴方がたがかつて縁を切ったろくでもない娘は、本人とは似ても似つかないほどに聡く麗しい女児を産み、その女児は自身の才腕と相棒の助力により、貴方がたの知らないところで勝手に立派に育ったというだけの話だ。なにも気にするな」
鷹揚に言ってみた。
完全にフリーズしたサマーソル公爵夫妻を横目で見たソードが、肩をすくめた。
「……俺よかひどい言いような気がするけどよ? 最終的に突き放してるもんな」
気のせいだよ、ソード。
※アリオス叔父さん、王都でオークションを行った際にインドラの消息をつかみました。
インドラに会いたかったので王城にインドラを呼ぶように画策したりもしていました。(インドラの王城への呼び出しは王様だけではなく、アリオス叔父さんも裏で動いていました。失敗しましたけれど。)
両親に止められ自由に動けない中どうやって会おうか悩んでいたところのベン君のお店で、ようやく会えたので気持ちが爆発して今に至ります。
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