第360話 勇者召喚の正体は(中間にソード視点)
アレク殿……だけではなく全員が止めてきたので、魔法陣の解析のみにとどめておくことにした。
「いきなり止めるのはやめておくが、私としてはその
私はぼやく。古代文字は残念ながら読めません(教育の範疇になかった)ので、昔の文献があったとしてもどうにもならないのよ。プルリンの本体みたくエンシェントな魔物がいて、当時の事を知っていたならば会話で分かるのだけれど。
「さすが、魔王の称号を持つやつだよな」
私の言葉を受けて、ソードが半分投げやり半分自棄みたいな声で言った。
そのソードの発言にまた皆さんがフリーズ。
今度はソードが私を指で指し示し、
「コイツは、魔王様に『魔王になってくれ』って頼み込まれるほどの魔王称号の持ち主なんだよ」
「「「「は?」」」」
全員が聞き返した。
私は腕を組み、重々しくうなずいて補足した。
「つまり、運命がちょっとでも狂っていればソードと私は敵対していたのだ! いや、今でもちょっと狂いそうになるよな! 私の作るゴーレムがことごとくソードに懐くので亀裂が生じているな!」
「そんなんで亀裂が生じるワケねーだろが」
ソードが呆れたようにツッコんできたけどさぁ……!
生じてるもん! 私だってかわいがってるのに、ソードばっかりぃ!
アレク殿が、私をうかがうような雰囲気でそっと尋ねてきた。
「……インドラちゃんは、どうする気なのかい? 魔王になるのかな?」
アレク殿に問われて答えた。
「そんなもの、断ったに決まっている。あんな甘ったれ泣き虫魔族の子守役などごめんこうむる。それ以前に、私は冒険者だ。未知を探し、謎を発見するのだ。冒険王に、おれは、なる!」
それを聞いたアレク殿が笑って何度もうなずいた。――冒険者になりたかったのにこの国の王にさせられたアレク殿には、私の言葉はおおいに共感してもらえるよね。
シャドがコッソリとソードに聞いている。
「……実際、どうなんです?」
ソードが首を横に振った。
「インドラと魔族との相性が、ある意味最悪なんだよ。インドラは、アレクやジェラルドみたいな性格のやつに弱いらしい。懐かれると邪険にするけど突き放せないらしくて、なんだかんだ言うことをきいちまうから、魔王になるのは絶対に無理。もしもインドラが魔王になったとしたら魔族への不満とイライラがいつか爆発して、それこそこの星の滅亡の危機だぜ」
「絶対に阻止しましょう」
シャドが真顔でなんか言った。
*
(ソード)
魔王国であったことの報告が終わり、インドラはアレク自らに『召喚の間』という場所に案内された。
シャドは若干気を揉んでいるようだったけれど、アレクとインドラの仲が良好なのに胸をなで下ろし、余計な口を挟む方がまずいと賢明な判断を下したらしく黙って従い後ろを歩いていた。
……シャド、変わったよなぁ。
以前なら間違いなく引き離そうとしたただろうによ。
「……お前、インドラはともかく俺をアレクから離さなくていいのか?」
って聞いたら、シャドがフッと笑って静かに首を横に振った。
「『魔王』と名乗られれば誰もが納得するインドラ様を止められるのは、現在【勇者】であるソードのみ。私は、愚かな真似をして国を滅ぼすような所業はいたしません!」
キッパリとシャドが言い切った。
うん、そうなったか。
インドラのストッパー役でくっついてろ、ってね。
言われなくてもやるけどよ。
かなりの距離を歩き、離れた場所にある神殿のような造りの部屋に入った。
その中央に、ドデカい魔法陣があった。
インドラが小さくうなずき、近寄って魔法陣に触る。
途端に魔法陣が輝き、インドラが表情を険しくした。
――そしてそのまま、インドラは瞳孔を開いて固まった。
*
私はアレク殿に案内されて、厳か且つゴージャスな大広間に連れて来られた。
真ん中にデッカい魔法陣がある。
「ふむふむ?」
何やら複雑そう。これは今まで見た中で一番の難解なプログラムだな!
よし。とりあえず、ちょっと動かしてみるか。
魔法陣に触って、魔素を流し込んでみた。
輝き動き出す魔法陣。
私は思わず眉根を寄せてしまった。
「……これは……」
…………すさまじいプログラムだ。
難解どころの騒ぎじゃない。これは……こんなことが出来るのか?
このプログラムは――ある特定の異常な魔素溜まり……恐らく次元の歪みを探し、そことここをつなげ、そこからエネルギーを抽出するように組まれている。
……なんだコレ……。
――――つまり、この魔法陣は、『召喚』しているのではない。
呼び込んだエネルギーを魔素に変換して、そのエネルギーが記憶する形を作っている。
別世界から『人』を呼んでいるんじゃない、別世界の次元の歪み付近にあるエネルギーを無理やりここに引きずり出しているだけだ。
…………いや待てよ?
このプログラム……そもそも形作るんじゃないぞ。本来は、この魔法陣に立った人間にエネルギーを注入するプログラムだぞ!
「…………勇者召喚は…………」
本来、召喚ではなかったのだ。
――かつて、王国と魔王国はダンジョンでバトルをすることになった。そして、王国側はダンジョンを隠しアレコレ画策するほどに、敗色濃厚なのがわかっていた。
最後の対策として、王国側は勇者の力を底上げするために、此処に勇者を立たせエネルギーを注入して、魔王国の凶悪なダンジョンを攻略できるような強化人間を造ろうとした。
……………………私のような。
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