第359話 本物の勇者を紹介したよ
その後、王と公爵とで別の部屋に移動した。
部屋に着席し、まずジェラルド殿に謝られた。
「用があったとはすみませんな。スカーレットから魔王を討伐したと聞いて、これはぜひ宴を開かねば! と盛り上がってしまったのですよ」
あぁ、うん。ジェラルド殿ってそんな感じって、知ってたけど忘れてた。
――事の顛末は、ジェラルド殿がそれをうかつに議会で言ってしまい、それで呼びつけようと議会で決まったそうだ。
シャドは猛反対した。そりゃあもう猛反対したそうだ。
「インドラ様の性格をわかっておられない! こちらが一方的に呼びつけたらどんな凶行に出るか、理解しておられるか!?」
と散々怒鳴ったけれど聞き入れられなかったとのことで。
アレク殿も「無理に呼ぶ必要はないだろう」との意見だったが、過半数が呼びつける方向へ。その役をスカーレット嬢が受け持つことになった。
その辺りでジェラルド殿も「ちょっとまずかったかな?」と考えたらしいが、サマーソル公爵令息がぜひ私に会って祝いの言葉を述べたいとまた盛り上がり、もうエリー殿の歯止めもまったくきかなかったそうだった。
ソードが、深い深いため息をついた。
「……まぁ、そんなこったろうと思ったわ。スカーレットよか、ジェラルドが問題だな」
私は肩をすくめる。
「その辺りは、生粋の貴族という感じだな。相手の都合というものも思いやった方がいいぞ? 私はおろか、娘のスカーレット嬢にまで嫌われたくないならな」
ジェラルド殿、途端に真っ青になった。
「肝に銘じます」
ならいいけど。
それでこの話は終わりということにしたら、急にキラキラエフェクトをふりまきながらアレク殿が私を見た。
「――それで、魔王国は、どうでしたかな?」
……オゥ。この人魔族じゃね? って反応をしてきたな。
好奇心で全身が輝いているぞ。
「アレク殿のような連中がたくさんいたぞ」
「「「「は?」」」」
一斉に首をかしげてきた。
「好奇心の塊で、無邪気な連中だらけだ。人族が悪いと教えられたら素直に信じ、王国へ向かい滅ぼせと言われたら理由も考えずに赴く。ちょっと事実を指摘したら子どもみたいに泣いて、おやつを与えると泣き止み、おもちゃの魔導具を見たら喜んで遊び倒す、という連中がたくさんいた」
「……インドラちゃん? 私は事実を指摘されても泣かないし、おやつで泣き止むこともないよ?」
静かに訂正された。
「そうか。ならばそこの違いはあるが、とにかく好奇心が旺盛だ。ただし、魔王様の判断を絶対的に崇拝し信頼している。魔王様は、この星最強だろうな。もしかしたら王国のダンジョンコア様も強いのかもしれないが、実力をみたことがないのでな……。私が知る中では一番だ」
なにせ、手加減していたようだからな、魔王様は。
縛りプレイで戦っていて、あの強さだというね……。
次は魔王様に気を遣わせないように、(とっても嫌だけど)死んでも生き返るようにしてもらってから戦わないとなー。
ソード以外が真剣な顔つきになってソードと私を見た。
「……インドラ殿よりも、ソードよりもですかな?」
ジェラルド殿が聞いてきたので、ソードが肩をすくめる。
「インドラの補助があって、ギリギリ勝てたけどな。俺だけじゃ無理だ」
私も肩をすくめた。
「私もどうかな。手段を選ばなければ勝てるが、縛りを入れると難しいな」
アレク殿が感心したように言った。
「インドラちゃんは、手段を選ばなければ勝てるのかい?」
「いや、ソードも選ばなければ勝てるだろう。この星ごと滅ぼせばいいのだ」
全員、フリーズした。
「それって、勝つとは言わねーんだよバカ」
ソードに冷たくツッコまれたー。
あとは、情報の公開。
「――つまり、魔王国と王国は、
と、私は語った。
まったく、当時の王国側の偉い人たちは何を考えているんだかね。
私が語った内容に驚いた全員が呆気にとられた後、シャドはアレク殿を見ながら顔を真っ白にした。そんなにアレク殿が好きなんだ? ……なんだかスカーレット嬢が喜びそうな気がするネタだなぁ。
私はシャドに手をひらひら振ってみせた。
「安心しろ。魔王様と話をつけて、魔族の勇者を留学生として王国で受け入れるように提案した。適当に待遇を良くして、王国のダンジョンにチャレンジさせてやれ。王国からも適当に理由を言いくるめて魔王国へ向かわせれば良いみたいだぞ。砂漠越えの魔導具が設置されるまでは行かなくてもいいみたいだしな。――あ、そうだ、勇者で思い出したぞ」
ソードを親指で指し示し、
「魔王様はダンジョンコア様で、役割を見ることが出来る能力を持っていてな。それで見たところ、ソードが本物の王国側の勇者だそうだ」
ソードが慌て、他の皆はフリーズした。
「その魔法陣とやらから召喚されているのは、勇者ではないらしい。だが、アレク殿。ソードから聞いたのだが、こちら王国にも
またアマト氏みたいな人が生きたまま召喚されたらかわいそうだし。しかも勇者じゃなかったとかアマト氏が聞いたら嘆きそう……でもないか。拠点で楽しそうに生き物係をやってるもんなー。
「インドラちゃん、魔法陣を止めてくれるのかな?」
アレク殿に尋ねられたので、私は首を横に振る。
「いや、それはわからない。
「それは望んでないから、やめた方がいいね」
アレク殿が真顔で返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます