第357話 ジャンピング土下座すれば許されると思うなよ

 シャールでそのまま王城まで突っ込んだ。

 驚愕する門番の前に降り立ち、私は宣誓する。

「冒険者インドラだ。シャドを今すぐ呼び出せ。十分後に王城を破壊する」

 慌てたように続いて降りてきたソードが、額を手で打つ。

 泡を喰ったように門番たちが飛んでいった。


 十分かからずにシャドが飛んできた。

「インドラ様━━━━!」

 またもやジャンピング土下座。

「土下座すれば許されると思うなよ!」

 私が怒鳴りつけたら、シャドが叫ぶように弁解する。

「誤解です! 私が呼び出したのではありません!」

 じゃあ誰だよ!

 シャドが苦悩したような声で言った。

「……議会決定です。私はかたくなに止めたのですが、インドラ様をわかっていない者が多く……」

 なるほどな。シャドよりも権限があるのか。

「――ほう? 面白い。ソイツらと私との戦いか。それほどに腕試しをしたいというのなら、ぜひとも戦ってやろうではないか! よーし! ソイツら全員呼び出せ! 私を怒らせたらどういうことになるか、ハッキリとわからせてやる!」

「待て待て待て。お願いだから待って」

 ソードとシャドに代わる代わるなだめられた。

 私はシャドの顔をのぞき込んでニッコリと笑いながら諭す。

「私はな? スカーレット嬢が困った立場になるというからここに来たのだ。だが、困った立場に追いやる連中を許すことはないのだよ? わかるか? シャド」

「お怒りはごもっともです。ですが、絶対にスカーレット様は私が守りますので、どうかお怒りをお鎮め下さい」

 シャドめ、私を大魔神みたいに言うな。

 ソードも必死に私を説得する。

「だからインドラ、待てって。お前、魔王国のダンジョンをクリアしてから魔力マナがおかしなくらいに膨れ上がってんだよ。魔族は魔王で慣れてるだろうからお前のその魔力にも平気なんだろうけど、この国じゃお前、それこそ魔王襲来っておびえられてもおかしくないほどになってんだって」


 ムムム?

 そうなのか? そうなのか。

「怒らせる連中が悪い」

 と私は弁明した。

 第一、ソードだって本気を出せば魔王レベル……じゃなかった、魔王に匹敵する勇者レベルの魔素をまとうじゃんかよ。

 ソードがため息をついて、シャドに言う。

「……魔王は倒してねーから。魔王城のダンジョンを、おまけしてもらって踏破しただけ。もっかいチャレンジして、今度はちゃんと踏破してみようってときに呼び出されたんで、インドラの機嫌が最悪なんだ。おまけにスカーレットを盾に取られたからな……」

 シャド、目を見開いてソードに耳打ちした。

「…………もしや、スカーレット様とインドラ様は恋仲ですか?」

 何言ってんだコイツ。私はシャドを白い目で見た。

「違う……と思うけどな。まぁ、インドラは凶暴だけど良いやつなんだよ。慕ってくるやつを盾に取られたなら人間も人間外も等しく怒り狂うからよ」

 ソードがそう言った後で、急に逡巡した。

 だけど、それを振り切ったかのようにシャドに耳打ちした。

「…………アレクとも友人になった。だから、きっと、アレク自身がインドラに話せば、インドラは応えると思う」

 シャドが完全フリーズし、私が首をかしげた。


 ん? アレク殿?

 あの、とっても変わっていてとっても貴公子な男性がどうかしたのかな?

「アレク殿の話がなぜ今出る」

「……つまり。アレクに頼み事があって、頼んできたらどうするってことだよ」

 首をかしげた。

「仮定の話をされてもなぁ。……まぁ、条件次第だな。利用してくるような方とは思えないが、一度しか会ってない上、貴族ならば周りに巻き込まれて利用してくるに近い状態になるかもしれないし。スカーレット嬢のようにな!」

 思い出し怒りしたらまたなだめられた。


 怒るとソードにまでもなだめられる位に魔素が膨れ上がるらしいので、怒りを静めつつ王城に乗り込んだ。

 衛兵が私を見て大げさにビクッとした後、シャドを見て、慌てて敬礼をする。

 私とソードは、控え室だろうけれど、超豪華な部屋に通された。

「少々お待ちください、すぐに戻ってまいりますので、ほんの少々、お待ちくださいませ!」

 シャドに低姿勢で応対される。

「くれぐれも、粗相のないように! 貴方がたのほんのちょっとした粗相が、王城を滅ぼしかねませんからね!」

 と、メイド嬢やら護衛騎士やらに口を酸っぱくして言いつけて、シャドは風のような勢いで去った。

 ムッスー! としながら、ふんぞり返ってソファに座っていたら、ソードが笑う。

「お前、魔王よか魔王みたいだぜ?」

 とか言われたよ。

「王ならば、機嫌で王城を滅ぼそうなどと考えないと思うぞ。それに、たとえ肉親を盾に取られようともいいなりになったりもしない」

 ソードが肩をすくめた後、私の頭をクシャクシャなでた。

「そう機嫌悪くするなって。お前のその『威圧』で、呼んだ貴族連中はひれ伏すだろうさ。シャドみたく、後悔しまくって謝ってくるから、それで勘弁してやれ」

 …………威圧?

 首をかしげた。

「俺が勇者で、お前が魔王の資格持ち。で、今現役の魔王様は、戦闘状態もしくはあの最上階で威圧を発する。――今、お前、かなり怒ってて戦闘状態だろ? 周りを威圧してるんだよ」

 え。

 周りを見渡すと、メイド嬢やら騎士が大げさにビクッとした上、震えながらひれ伏した。……あらららら。

「……拠点のメイド嬢たちにおびえられたくなかったら、控えろ」

 うん、それは絶対やだ。

 気を落ち着けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る