最終章

第356話 王都へ帰ることになったよ

 ソードがシリアス顔で言った「王城に来いってよ」に、私はひと言返した。

「放っておけ」

 まだ周回していないのに、なんで王城なんかに行かなきゃなんないの。そのうち気が向いたら行ってあげるけど、それは今じゃないから。

 そっけない私の態度を見たソードが、ため息をついた。

「…………そういうわけにはいかねーだろ。つーか、行かねーとスカーレットが大変な目に遭うぞ」

「ぐ」

 ……スカーレット嬢を盾にしてきただとぅ!?

 ムカッとしたらソードが慌てている。

「スカーレットも悪いんだよ。俺たちが魔王城のダンジョン踏破したことを、うかつにあちこちに話したらしい。それが伝わっちまったんだよ。それの弁明に行かなきゃなんねーんだ。お前が気乗りしないなら、スカーレットたちに伝えた俺の責任でもあるから、俺一人で行ってくる。シャールとリョークを借りてくぜ」

 その場合、たぶん全員ソードについていくぞ。


 私はムスッとしつつもソードの言葉に渋々うなずいた。

「……しかたない。そういうことなら行く。ただし、呼びつけた連中には思い知らせてやる」

「俺が行くから、お前はここで遊んでろ」

 ソードが私をなだめに入ったが。

「いーやーだー! リョークたち全員お前についてくだろうが! それに、この甘えん坊魔族の連中とかかわりあっていると際限なく甘えられるから、ソードと一緒に行く!」

 魔族の連中、苦手! こんな連中の王になんて絶対になりたくないっ! ダンジョンコア様を尊敬するもん。私、無理!

 私たちの会話を聞いていた魔族の連中が啞然とし、ソードが笑った。

「お前ってホンット、甘えられたり頼られたりすると駄目だな」

 私はソードの言葉に反論した。

「そんなことはないが、コヤツ等は苦手だ。ダンジョンコア様を尊敬する。こんな連中と長くかかわりあっていたくない」

 コヤツ等魔族の連中に悪意のないのが、より始末に負えないのだ。素直で好奇心が強い種族なのだろう。まさしく子供。

 ソードが私の頭をポンとたたく。

「なら、もうちょっと気楽に扱える人間の国に戻ろうぜ」

 その言葉に私はうなずいた。

 うん、私、悪巧みされる方が好きかも。その方が楽しいもん。

「人生のスパイスには悪役が必要なのだ!」

 私の叫びにソードがすかさずツッコんだ。

「うわー、お前、自分で自分のこと悪役とか言っちゃうんだ?」

 違う、言ってない。


 私とソードは新装ゴーレムたちを引き連れ、魔族たちと別れて魔王国から王都に向かった。

 途中でスカーレット嬢から通話が入り、謝罪された。

『申し訳ありません。私がうかつだったばかりにご迷惑をおかけして……』

「スカーレット嬢が悪いわけではない。呼びつけた連中が全て悪いのだ。魔王の称号を持つこの私が血祭りにあげてくれる」

 そう返したら、ソードが間に入ってきた。

「お前が言うと冗談にならないからやめて」

 ひとつも冗談じゃないぞ。全部本気で言ってるからな!


 シャールをぶっ飛ばし、王都の関所前までたどり着いた。

 シャールを見た人たちから、ものすごい歓声が上がっているのだが? いつもなら魔物に間違われるのにどうしたのだろう。

 この騒ぎを見たからか、特権を振りかざすのが嫌いなソードもさすがに特権を使うことに決めたようだ。並ばずに役人の前にまっすぐ進んだ。

 シャールから降りるとさらに大歓声。

「……いったいなんの騒ぎだよ? 俺たちなんもしてねーぞ?」

 ソードと顔を見合わせた。

 詰め所から飛び出してきた役人が叫ぶ。

「【迅雷白牙】様!」

「【オールラウンダーズ】!」

 素早くソードが切り返した。だけど聞いてない役人が手をとらんばかりに迫ってきた。

「魔王討伐おめでとうございます!」

 …………はい?

 役人にそう言われ、ソードと再び顔を見合わせた。

「ちょっと待て。それは誤解だって」

 ソードが慌てて手を振った。

「第一、魔王様は仮初めの姿なので討伐出来ないぞ」

 私が付け足した。

 私の言葉に周囲が静まり、注目されたので語る。

「魔王様は魔王城のダンジョンに君臨するラスボスなので、撃破しても復活する。それに、普段は魔王国の執務をしているな。おっきな子供みたいな魔族たちをよくまとめあげていると、感心を通り越して感動したぞ」

 ソードは肩をすくめ、私の言葉に付け足した。

「まぁ、魔王城のダンジョンを踏破した、って言われればそうだけどな。だけど、久しぶりの冒険者の入場だったらしくて、かなりおまけしてもらったんだよ。上層にいたボスたちとはまったく戦ってねーしな」

 ある意味激戦だったとも。踊ったり歌ったり、語り聞かせたり、料理を作ったり、服を作ったり。

 私は思い返した後、さらに付け足した。

「だから、周回しようと思っていたのに、ここまで呼びつけられたのだ! スカーレット嬢を盾にとってな! ……おのれぇ、覚えていろよ、シャド! 魔王の称号を持つ私が王城をぶっ壊してくれる!」


 アイツめ! よもや、こういった仕返しをしてくるとは!

 思い出して怒る私。慌ててなだめるソード。

「待て。お前が言うと本気で洒落にならないからやめろ」

 シーン。

 先程よりさらに静まった。凍りついたと言っても過言ではない感じで。しかも、なんだか怖がっているような表情で私を見ているのだが。

 ソードが周りの反応に気付いて苦笑する。

「コイツは、魔王も認める魔王レベルのやつだから、あんまり怒らせるなよ? ……じゃ、呼ばれてるんで通してくれ」

 ソードが言ったら、すぐに通してくれた。

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