第351話 そんなイベントはなかったらしいよ?

 その辺の事情はわかった。

 だけど、なぜに魔王様は「王国を滅ぼせ」って勇者に命令したのかな?

 ダンジョン合戦なら、事情を説明出来ないにせよ王国自体を滅ぼす必要はないのだけれど。

 って思って尋ねたら、魔王様の返答。

「『王国を滅ぼせ』と命じてはいない。『供と王国に向かい、王城を滅ぼすことが勇者の役割だ』と伝えている」


 ん? そうか、誤解していたな。てっきり王都を攻撃して壊滅させ首脳部を討ち取り王国を滅ぼすのかと勘違いしていた。魔族たちもそんな感じで解釈していたようだしね。まぁ、王城を滅ぼしても結果はだいたい一緒か。

 ……んん? なんで王城? ダンジョンってあからさまに言えないって理由ならむしろ王都のほうがまだわかる…………って、なるほど。わかったぞ。

 ソードもハテナ?と思った後、私と同じ思考をたどり当時の王国の連中が何をやったのかを察したようだ。


 ――恐らく、当時の王国の連中は自分たち人族が魔王国のダンジョンを踏破する……つまり勝つのは絶望的だと悟っていたのだろう。

 王国のダンジョンもかなり鬼畜仕様だけれど、正直ラスボスの精神界の者は、強さでは魔王様の足下にも及ばない。私やソードのように無の部屋で動じなかったら詰みだもんね。


 だから、王国のダンジョンを王城ではなく地下に隠したのだ。


 そして、ダミーの王城を作り、生贄としての王をあの城に置いたのだろう。……まぁ、魔王国と同じく執務と迎賓用のお城かもしれないけどさ。

 それを知らない魔王様は、魔王国と同じようにダンジョンが城だと思っている。だから勇者に「王城を滅ぼせ」って言うのだ。

 長年のダンジョン合戦の途中で、断片的に人族の汚いやり口を知った魔族が怒り、なんとなく伝わって「人族は敵だ、王都を滅ぼせ」みたいなことになったのかもしれないな。


 しかもさー、人族って自分たちの力じゃ魔王様を倒せないだろうと踏んで異世界から勇者を召喚してるんだよ? ずる賢いっていうか、そんなに負けたくないのかよ、っていうか……。

 うむ。先に王国のダンジョンを踏破して魔王国のダンジョン踏破が無効になり王国の勝ちとならずに済んで良かったわー。


「魔王様。王国のダンジョンは王城ではなく、別の場所の地下にあるのです」

 私は魔王様にチクった。

 魔王様、無表情に固まる。

「…………古の契約では、王城にするはずだが」

「何かしらその契約を逃れる卑怯な技を使ったのでしょうね。『地下王城』とでも名乗ったのかもしれません。執務と迎賓用の王城はありますが、それは魔王国にもありますし」

 と言うと、魔王様が考え込んでしまった。


 ソードも同じ考えに至ったようで、魔王様を気の毒そうに見て、過去の人族の仕打ちに静かに憤っていた。めっちゃ魔素が膨れ上がっているよ。ちょっと落ち着きなさい。

 私は二人をなだめるように言った。

「まあまあ、今までのことはしかたがありません。これからのことを考えましょう。とりあえず、私の知人に話をつけておきますので、勇者は『留学生』として王国に滞在したらいいんじゃないでしょうか」

 二人が私を見る。

「私とソードの知人に王国ではわりと権力を持っている者がおります。好奇心も旺盛なので、魔族の滞在に協力してくれるでしょう。そうですね……魔王様のほうは『勇者としての力を伸ばすため』とか言いくるめればいいのではないかと。そして『最終的な試練と称してダンジョン踏破を目指す』とすれば問題ないでしょう。

 ただし、こちらに向かう人族も、快く迎え……なくていいのですが、食事と寝床さえあればいいので適当な宿を用意していただければと思います。魔族に与える悪影響や被害を懸念されるのであれば、隔離して要望はある程度呑みつつダンジョンにのみチャレンジさせるようにしておけばいいでしょう。死んだら死んだで構いませんし、連中が飽きたら王国に追い返せばいいですよ。

 ……とにかくそんな感じで迎え入れてダンジョンにチャレンジさせれば、お互い名目が立つと思いますので、ご一考を」

 召喚勇者は、アマト氏みたいな人ばかりじゃないしね。というかソードから聞いた話だと歴代ひどいのみたいだし、鬼畜仕様でチャレンジさせて始末すればいいんじゃない? アマト氏みたいな人だったら魔族に好かれるだろうから、どうにか生き残れるでしょ。


 ソードが息を吐いた。

「知人って、ジェラルドか? それともアレクか?」

 ソードがなぜかアレク殿の名前を出してきた。

「アレク殿は偉いのか? だとしても平民としての知人なので頼むことは出来んな。ジェラルド殿のほうだ」

 と言うと、ソードが肩をすくめる。

「ま、ジェラルドなら俺とお前とで頼めば二つ返事で引き受けるか」

 私はうなずく。

「エリー殿も喜ぶと思うぞ。何せ魔族の勇者だからな。手合わせをしたがるだろう」

 その言葉にソードが笑った。


 魔王様はしばし熟考していたが、うなずいた。

「申し訳ないが、お願いしたい。私も勇者を無駄死にさせるつもりはない」

 そう頼んできたよ。魔王様、ホントいい人! ダンジョンコアだけど!


 まぁ、その話題は後で詳細を詰めましょう。それよりもダンジョン踏破報酬の話!

 とりあえず私の要望は、あの害虫階の駆除だな! じゃないとダンジョンごと駆除するよ!

 ……って言おうとしたら魔王様に手で制された。

「要望の通り、既に改変は済ませてある。あの場所は牢屋で、死体にたかった害虫が育ち埋め尽くされたという成り立ちだったが、害虫は全て消し、死霊、ゾンビとグールに変更しておいた」

 それは良かった。お互いに。

 じゃあ、隠し牢屋の『へんじがない。ただの しかばね のようだ。』も発現するのかも!

「よーし。是非とも周回しよう。いきなり入ったところにあった鍵のかかった扉を、今まさに殺されそうになっている兵隊を救い、御礼として鍵を受け取って開けたいし、裏庭の花壇にいるかもしれないモルボルを倒したり、殺されて花壇に埋められた『嘆きの令嬢』のクエストも受けたいぞー」

 あ、しゃべってたら魔王様が曖昧な無表情になった。

「……それも、改変の要望として考えておく」


 …………あれ? そんなイベントはなかったらしいよ?




※ダンジョン合戦の成り立ちを詰めていたら「こっちのほうが面白いな」となり、320話を少し訂正しました。

 王国のダンジョンコア様が語らなかったのは訊かれなかったからと、最下層まで降り立ったインドラとソードの来訪を喜んだからです。二人以外、訪れないですからね。

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