第352話 魔王の役割と勇者の役割

 じゃあ、早速周回をば……と思っていたら、いきなり魔王様の不意打ち。

「其方は魔王国の魔王にならぬか?」

 …………突然、魔王様が私に向かってそんなこと言い出したので、ソードと私、固まった。

「なりませんが、どうしてそんな話が出てきました?」

 と、私はお断りした後に理由を聞いた。

 唐突過ぎるよ。どうしてそうなった。

 すると、魔王から説明された。


 この星を滅ぼすほどの魔術を扱えることがその理由の一つ。

 魔王国のダンジョンを攻略できる強さを持つことがその理由の一つ。

 ダンジョンコア様の、仮初めの姿である魔王様の持つ魔素、それに匹敵する魔素をまとっていることがその理由の一つ。


 私はその条件を全て満たしていて、人間なのに【魔王の役割を担う者】になっているらしい……。けどさ。

「それでいくなら、ソードもその資格があるのでは?」

 多分、ソードは使えて私は使えない大規模殲滅魔術でこの世界を滅ぼせると思うし、本気になれば魔素もイケると思うよ。

 私は首をかしげて魔王様に尋ねた。すると、

「その者は、勇者の役割だ」

 とか魔王様がソードを指して言い出して、またもや二人でフリーズした。

 …………なんですと?


「待てよ。勇者は魔法陣から召喚される者だろう? 俺は」

「それは資格無き者が勝手に決めた理だ。勇者は、其方だ」

 と、ソードと魔王様が言い合っている。

 私はソードを見た。

 ソードは青ざめて魔王様を見つめ続けている。

「…………つまり、どういうことだよ?」

 ソードがようやく口を開いた。

 魔王様は簡潔にソードに伝える。

「其方は勇者として、その隣にいる魔王と戦うべきということだ」

 あんぐり、と私は口を開けた。


 ――つまり、私が人外な力を手に入れられたのは、魔王の役割からなのか!

 でも、親があんなじゃなかったら私は普通に伯爵令嬢だったぞ! スカーレット嬢いわく、悪役令嬢になってたぞ!

 ……あ。もしや……悪役令嬢を経由して魔王になっていくのかな?

 よくわからないけれど闇魔術の遣い手とやらになるはずだったらしいし。

 本来の道筋は、ソードではなくスミス君とタッグを組んでのし上がっていったのか。

 私は推論を立てた後、腕を組んだ。

「ふむふむ? なるほどな。この器が死にかけ、別世界の知識が流れ込んでしまったために運命が改変されたのか」

 ソードが私を見た。私もソードを見返して、推論を続けた。

「もしも私が親の仕打ちに心を痛めて死にかけなかったら、私は普通に悪役令嬢で、甘ったれたままのスミス君とタッグを組み、闇魔術の遣い手となり二人で王国やその他の国を滅ぼしまくる運命だったのかな、と考えた」

 ソードがしばらく私を凝視した後、重い口調でつぶやいた。

「…………もしかして俺、お前の両親に感謝するべき?」

 私はうなずく。

「そうだな。片親しか生きてないが、出会うことがあったら礼でも言っておけ。相棒の魔王化を阻止してくれてありがとう、とな」

 ずっと硬い表情のソードが、ようやく笑った。

 私はウンウンと納得してうなずいた。

「そして、道理で私が生き残れたわけだ。この器だったからか。覚醒した魂の知識量に幼女の私が耐えきれたのは、次期魔王の役割だからなのか」

 ほぅほぅ。そゆことか。

「でも、魔王にはならんけどな。私は冒険者だ! 冒険王に、おれは、なる!」

 私は拳を振り上げ、宣誓した。

 それを聞いたソードが大声で笑った。


 その後、ミニミニ鎧騎士クン一号やリョークなど、私が作るゴーレムにソードがやたら好かれる理由も語られた。

 勇者のスキルだそうだ!

 ソードは勇者なので勇者のスキル『仲間にした魔物やゴーレムを使いこなせるように無条件に好意を寄せられる(長い)』が発動するそうなのだ!

 なんだそのスキル、羨ましすぎる!

「……でも俺、仲間がなかなか見つからなかったんだけど?」

 と、ソードがボソッとつぶやいた。

「人間には発動しない」

 魔王様が即答した。

 おぉう、そうですか……。

「人間に発動すると、勇者の成長を妨げる原因となるからだ」

 うっわー。魔王様がソードにとどめを刺したぞ。

 つまりは。勇者の成長促進のために、逆に人間不信になるほどに人間がトラブルを持ち込んでくる、ってことじゃない? だってソードってそんな感じだし。

 ソードもそれがわかったみたいで、がく然としてた。

「まぁまぁ。実際、私という仲間が見つかったことだしいいじゃないか。……えーとそれで魔王様。思い出したのですが私にはその成長促進のためのトラブル運がないのはなぜなのでしょうか」

 と、魔王様に聞いてみた。

 魔王様いわく。

「魔王は成長を待たずとも時が来れば魔王になるものだ。王にトラブルなど必要ない」

 オゥ……。納得できるような、納得出来ないような?

「魔王に必要なのは、敬われ傅かれるカリスマだ」

「うっわー」

 魔王様が私にとどめを刺してきて、ソードが声を上げた。

 だがその声は正しいね。私、魔王だからやたらめったら『様』をつけられるみたいよ? 酒を飲んでからひれ伏す人が多いけどね! ……あっ、わかった。酒の魔王なのだ!

「ソード、私の二つ名が決まったな。【酒の女王様】だ!」

「魔王がどこにも入ってない」

 ソードに即ツッコまれた。


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