第350話 このときのためだけに(冒頭部ソード視点)
俺の右腕は斬り飛ばされた…………はずだった。
だけど、確かに斬られた感触があった俺の右腕はいまだ健在で。
俺は、俺を斬ったことで油断した魔王の一瞬にも満たない隙を突き、魔石のある胸の中央目がけて剣を突き立てた。
――魔王は、俺のとどめを刺したって油断を突いてさらに腕を斬りつけてきたが、一瞬の熱い感覚のみで、血どころか傷痕すら残らなかった。
それでわかった。
インドラが、このことに集中するために戦えなかったのが。
俺に、蘇生魔術すらを超える回復魔術を使い続けるために。恐らくリョークたちの魔石にも同じ魔術をかけ続けるために。
絶対に死なせないようにするためそれに全てを集中し、あれだけ濃厚に魔素をまとっていたインドラが、俺たちに全部の魔素を回して、俺が全く感知できないほどに無防備だったのもわかった。
剣が魔石を貫通し、一瞬遅れて砕けた手応えを感じたとき、魔王が俺を見て口元だけで笑った。
「お前たちの、勝ちだ」
そう言うと、粒子になって消えた。
*
ソードが剣を収めた。
そして大きく息を吐くと、辺りを見回す。
「リョークたちは、いったん回収した」
私がそう言うと、ソードがようやく私を見た。
そして、ほほえんだ。
「……お前、どこにいるかわからなかったぜ」
え? そんなに集中してたの?
むしろ気を散らしている気がしたんだけどな。
って考えていたら、頭を下げてきたぞ。
「悪かった。気を散らしすぎた。……下の階層であんなに言われてたのにな」
…………。
謝られるとは思わなかったので、一瞬戸惑ってしまったよ。
私はせき払いしてごまかした。
「気にするな。索敵スキルの副作用のようなものかもしれん。お前がいつもこちらを気にしていたのはわかっている。命を懸けて戦うときでも、私たちの安否を気にしているお前のその優しさは悪いものではない。ただ、それが逆に仇になることもあると伝えたかっただけだ」
「…………あぁ。本当にそうだな」
あ、落ち込んだ。
思春期を過ぎたのに繊細なおっさん、気にしすぎだ。結果、無事ならいいじゃないか。
……って考えてたら、エスパー!
急に元気になってグリグリしてきたぞ!
「いたいいたい。何も言ってない」
グリグリしながらソードが怒鳴る。
「お前は! 顔に書いてあるんだよ!」
マジか! 私もいっぱしの【顔は口ほどにものを言う】主役キャラになっていたのか!
「ヒャッホー! それは朗報だ! トラブル運はないが、余計なことを言わずとも顔で語れるキャラになっていたとは! いたいいたいいたい」
飛び上がって喜んだら、さらにグリグリされた。
……などと、ソードと戯れていたら玉座の奥の扉が開いた。
あの奥にダンジョンコア様がいるのだろう。王都のダンジョンもそうだったもんね。
ソードと顔を見合わせた後、二人で向かった。
奥の部屋には、またもや玉座があった。ダンジョンコアとしての魔王様が座っている。
手前のボス部屋はいかにも戦うための玉座、って感じで、こちらは謁見の玉座っぽいね。めっちゃくちゃゴージャスだ。床と天井に大きく魔法陣が描かれている。
王都のダンジョンコア様の部屋とは大違いだな。あっちは質素すぎだったよ。王都に戻ったら王都のダンジョンコア様に「ゴージャスにしましょう」って提案してみようかなーっと。
私たちが中央まで歩くと、魔王様が声をかけてきた。
「よくぞここまで来た」
魔王様はそう言うと、ふと、不思議な表情をした。
魔王様って基本無表情。なのに、何かがおかしい、といった顔をしている。ほんのちょっとね。
「どうかされましたか?」
私が訊くと、顎に手を当て、ちょっと考える仕草をした。
「……其方たちは、魔族ではない」
「そうですね」
その区別はわからないけれど、フーランド王国で生まれ育ったね。
「なのに、
…………。
「「は?」」
ソードと声をそろえたよ。
また
って、若干うんざり若干憤ったら、魔王様から事情を語られた。私たちはクリアしたので事情を話してよくなったそうだ。
――
そしてとうとう、私たち人間(たぶんきっと種族はそう)が、魔王城のダンジョンをクリアした。その場合、この玉座に入り中央に立ったら魔法陣が輝くそうだ。アレだね、ファンファーレとくす玉的なヤツだろうね。
……が、なかったのでおかしいといぶかしんだそうで。
私も魔王様の真似をしてあごに手を当てる。
「うーむ。なるほどなるほど。それは、先に王国のダンジョンをクリアしてしまったからかもしれませんね。私たちが」
魔王様、無表情に私たちを見た。
「……なぜ、王国のダンジョンをクリアすることになった」
なぜと言われても。
「ソードがクリアしたいと言ったから」
「え!? 俺のせい!?」
ソードが飛び上がる。
「俺のせいではないが、理由はそうだろう? 別に悪いことをしたわけでもあるまいし」
人間が王国のダンジョンをクリアしちゃいけません、なんて、その
「悪くはない。だが、それが理由で王国のダンジョンの勝利にはならなかったようだ」
『判定不能』ってことみたい。契約と言う名のルールにないことをやったからだろうと魔王様は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます