第349話 すげぇ強ぇわ(ソード視点)

(ソード)

 目の前の魔王を見る。

 …………あぁ、インドラがそれだけ警戒する敵だよな。

 俺もやべぇと思うわ。なんかゾクゾクするわ。

 でも、それ以上にワクワクするわ。


 数年前、まだインドラに出会う前に王都を襲ったドラゴンと魔族に出会っても、今の俺には瞬殺出来る。

 連中がどれだけ強くなっても出来るって自信がある。

 だけど、目の前の魔王を瞬殺出来るか、っつったら、無理だな! って言い切る。

 インドラと俺、リョークたちと総掛かりで戦ったら勝てるだろう。でも、その場合誰かが死ぬかもしんねー。それがわかってる。

 インドラは、危険な遊びをしたがるが、ギリギリを見極めて冒険しないやつだ。

 ――本人、冒険がどうとか言ってるけどわかってねーんだよな。インドラは女なんだ。

 自分の命は簡単にチップに乗せる。ところが、俺やリョークの命がチップに乗る冒険は絶対にしない。

 俺に勝ち目がなかったら、自分一人で戦う。そんな女だ。

 ……だから、今回はまだ俺に勝ち目があるんだろう。

 じゃなきゃ、アイツ一人で戦うだろうからな。


 魔王がゆっくりと俺に向かって歩いてきた。

 ――あぁ、下でインドラに言われた遊び、やっといて良かった。

 インドラが使ってるような、魔素の使い方が理解出来たからな。

 インドラが、俺に魔王と同じ魔素をまとわせてるのもわかった。

 そのせいで、この部屋に入った途端に感じてたすさまじいが完全に消えた。


 俺は今、魔王と同等の位置にいる。


 ――なら、勝てるはずだろ? 俺にはインドラも、リョークたちもついてんだからよ!

 瞬殺する勢いで、魔王とぶつかり合う。

 ぶつかり合った剣同士から火花が散った。

 魔王は、俺の剣戟をまともに受けたけど微動だにしなかった。

 ……まるで、地面に手をつけて押してる気分だぜ。

 インドラとだって、もう少し押し合いになったんだけどよ。

 全然、押し合ってる気分にすらなんねーな。


 それでも押し合って、瞬間爆発的に威力を高めて押したら、ぶつかり合って互いに飛び退った。

 そしてまた剣戟。

 全力でパリィしつつこっちも攻撃する。

 魔術は使ってる暇がねーのと、使ってもきかねーのがわかってるから使わなかった。

 使うならインドラが使うだろ。アイツの方が魔術は上だ。


 ――インドラは、一体何に集中してんだ?

 アイツなら、俺やリョークたちを守りつつ戦える気がするんだけどよ?

 そうでもねーのか?

 …………アイツは、俺が思ってるほど万能じゃねーのか? 俺はいつの間にかアイツを万能な神の子みたいに思ってたけど、そんなことはなかったのか?

 ……インドラがどこにいるかわからない。

 どっかにいるらしいが、知覚出来ない。

 魔王とやり合いながらも、俺はインドラを探した。

 …………いない。

 どうした? どこにいるんだ?


 そう考えたとき。

 油断したワケじゃない。

 だけど、一瞬。

 魔王の存在が知覚出来ず、そして、爆発音がした。

「……リョーク!」

 俺の前にリョーク二体が立ち塞がっていて、そしてリョークが砕かれていた。


 さらに爆発音。

 次は俺の前に立ち塞がったシャールが爆破された。

 急降下して俺を見る魔王の視界をさえぎったホーブたちも。

 走り寄ろうとしたミニミニ鎧騎士クン一号も砕かれてる。


 …………おい。

 何が起こってるんだよ?


「ソード! 気を確かに保て!」

 インドラの声にハッとした。

 インドラは、思いのほか近くにいた。

 俺が一瞬呆然としたすきにインドラが魔王と剣戟を結んでいた。

 すさまじいほどの速度と威力で魔王とやり合ってる。

「お前は気を散らしすぎだ! そんなのんびり気分で勝てる相手と侮るな!」

 インドラが俺を叱りつけつつ、魔術と剣戟を混ぜて魔王を牽制している。

 ――牽制している。

 勝つためじゃなく、これ以上攻撃させないために、単に牽制している。

「交代しろ! そろそろ保たん!」

「了解!」


 わかったよ。

 確かに気を散らしすぎた。

 一瞬にも満たない油断が、俺の命を奪おうとし、それをリョークたちが身体を張って守ったのかよ。

 それが、理解出来た。


 そのために、みんな、全部壊された。

 インドラがキレてないので、みんなまだ無事なんだと信じたい。

 じゃなきゃ、俺が俺自身を許せない。

 さらに気合いを入れて、魔王にぶつかった。


 ……それと、わかったよ。

 インドラ。お前には守る者が多すぎて、手一杯なんだな。

 心のどこかでお前が戦えば勝負はつくんじゃねーかって思ってた。

 お前だって万能の神じゃない。俺だって万能の神じゃない。

 だから、たった俺たちの仲間『だけ』を守るためだけだって、独りなら勝てる勝負も勝てなくなるんだな。

 なら、俺が、お前らを守る剣になる。

 ――インドラが俺らを守る盾になるのなら、俺が剣にならなくてどうするよ!


 魔王を倒す。それだけを考えて戦った。

 壊れた仲間は一瞬にしてインドラが回収したようだ。

 そして、インドラ自身もまた把握出来なくなった。

 俺を守るための手段なんだろう。

 俺は、俺を守ると言ったインドラの言葉を信じて斬り結ぶ。

 あっちこっちで爆発音がしてるのは、魔王が魔術を無詠唱で使ってるのかもしんねー。

 俺には防ぎようがない。

 でも、インドラがどうにかしてくれてんのか、被害はねぇ。

 俺は、魔王に剣が届くように攻撃する。

 そうして斬り結び。

 どのくらいの刻がたったかわからねぇくらいに斬り結び。


 魔王の剣が、とうとう俺の右腕を、斬りとばした。




※ただいまソードは厨二病に罹患しております。

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