第348話 魔王様と対決、の前に質問タイム

 ギギギィ――――。

 良い感じの音で、扉が開いた。

 魔王様、奥の玉座に座っています。昨日からずっと座っていたらばごめんね。

 入った途端にソードがいきなり膝カックンした。

「ぐっ……!」

 うめいたソードに驚きの余り駆け寄ってしまった。

「どうした?」

「……いや、何でもねぇ。……つーか……。お前は大丈夫か?」

 何が?

 慌ててソードの脈を診たり背中を指圧したりした。

「ちょっと脈が浮いてるぞ。血行が悪いし、水毒で目眩が生じたのかもしれん。指圧したから軽減するかもしれないが、薬も飲んでおいた方がいいぞ」

「…………それって、違うんじゃねーか?」

 ソードが何を違うと思っているのかがわからないが、体内に生じている症状はそうなのだから、それで対処するしかないだろうが。私は本職の薬師じゃないんだ。別世界の親ならわかるかもしれないが、私じゃこんなもんなんだ!

 ソードが渋々薬を飲み、私はせっせと指圧。

「あ、良くなったかも」

 いきなりソードが言いだしたけど、半分くらいはプラシーボだな! でも思い込みは大事!

 ひとまず症状の消えたソードと魔王様の元へ向かう。とてつもなく締まりがない感じだが、しかたがない。格好をつけたって何を得るわけでもないしね。


 魔王様は大人しく待っていてくれました。

「よくぞここまで来た」

 と、祝辞までもらえたよ。

「次にくるときは、四天王の方に『ちゃんと戦ってください』とお伝えください。上司想いの良い方々でしたが、ダンジョンボスとしてはちょっと……」

 私は一応、苦言を呈しておいた。

 魔王様は、私の言葉にうなずく。

「私を想っての行動だが、貴殿たちには関係のないことだったな。申し訳なかった」

 謝られてしまいましたよ。部下想いの良い上司ですな! まさに上司の鑑!

 ソードもその言葉で今までのフラストレーションが晴れたらしいよ。

「ま、しょーがねーよな」

 という言葉で終わらせました。


「――さて。いつまでも会話をしていたいところだがそうもいくまい。このダンジョンの頂点に立つ者として、貴殿たちの相手をしよう」

 魔王様が立ち上がる。

 うちのゴーレムたちが戦闘態勢に入った。ミニミニ鎧騎士クン一号も魔王様に向けて槍を構える。

 ……おい? ミニミニ鎧騎士クン一号? 君はなぜこっち側にいるのだ?

 不思議に思い、せっかく魔王様がバトルな雰囲気を作ってくれたのに、つい質問してしまった。

「もう一つだけ質問させてください。ミニミニ鎧騎士クン一号がこちらに味方をするのですが、なぜでしょうか? 確かに私が作りましたが、そのような設計はしておりません。大元のサーバの信号を受信し、それに基づいて動くように設計したはずなのですが……お心当たりはありますか?」

 ソードが『生き物になるのが早い』と言った。つまりソードは、この子たちを生き物と認識している。ソードがそう言うのならそうなんだろう。ミニミニ鎧騎士クン一号ももう生き物になっているのだ。だけど、なぜ?

 魔王様なら知っているかもしれない。

「それは、その者の仲間になったからだろう」

 魔王様の指が、まっすぐソードをさした。

 ソード、驚いて固まる。

「え? 俺? なんで?」

「それが理だからだ」

 出た! 理! なんだソレ!

 だけど魔王様はそれ以上は答えてくれそうにない。

「続きはこの勝負を終えてからにしよう」

 ってことで……。

 あ、しまった、もっと大事なことを聞き忘れていた。

「魔王様は、ダンジョンコア様ですよね? 殺さないように倒さねばならないですよね?」

 これ大事。めっちゃ大事。

 魔王様の回答は、首を振った。

「よくぞ見破った、確かに私はダンジョンコアだ。……だが、このダンジョンを統べるボスとしても君臨している。この身は仮初めだ。倒したとしても復活するので問題ない」

 だそうだ!

 よし! 手加減したら勝てなそうだから良かった!


 ――魔王様がゆっくりと玉座から降りてくる。

 私は、それでわかった。

「ソード、一人で戦ってくれ」

 ソードが振り返り、私を見た。

「私及びリョーク、シャール、ホーブは、ソードの援護だ。全力で援護しろ。ただし、前には出るな。お前たちの援護は私がするが、下手に前に出られると援護しづらい。だから前には出るな。――シャール、スラリンとプルリンを呼んでくれ。私が守る。……ミニミニ鎧騎士クン一号。君は絶対に突撃しないでくれ」

 私は魔王様を見ながら厳しい顔で言った。

 戦闘状態になった魔王様は、今まで戦った何よりも強い。

 全員で向かえば勝てるかもしれないが、ソードもしくは私が一瞬でも油断したら全員殺されるだろう。リョークたちがなりふり構わず向かったなら間違いなく一瞬で壊される。

 それほどに強い。

 魔王様の攻撃が届いてしまったら、間違いなく死ぬ。

 だから、私はソードたちが死なないように持てる力全てでサポートに回らねばならないのが理解出来た。


 この私がおののくほどに、仮初めの姿でも魔王様のまとう魔素は異常だった。


 …………ソードは私を見つめ続けた。

 それで、私もソードを見返した。

 しばらく見つめ合い、ソードは急に魔王様に向き直る。

「わかった」

 ソードがうなずいた。

「お前がサポートしてくれる、っつーなら、安泰だな」

「絶対に死なせはしない」

「ありがとよ」

 最後にソードに伝えた。

「一番、使い慣れた剣で戦え。木剣でも高級な剣でもお前なら結果は同じだ。ならば、一番使い慣れている剣が一番結果に届きやすいだろう」

「了解」

 ソードが一本の剣を取り出し、構える。

 私は、ソードに魔素を集める。

 魔王様に匹敵する魔素をソードにまとわせる。

 リョークたちも全員、魔素障壁を展開し備えた。

 恐らく魔王様の攻撃には魔素障壁では意味がないだろうが、それでもやらないよりはマシだろう。

 私は、魔王の魔素にすくみ、羊羹のように固くなってしまっているスライム二匹をシャールから受け取りマジックバッグに入れると身体にくくりつける。そして空間を把握、ソードと仲間たちに意識を向けた。

 部品が壊れようともどうでもいい。

 だが、魔石だけは壊させない。それさえ残っていればどうとでもなる。

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