第342話 負けず嫌いのゲーマー魂

 次の階層に着いた。

 細長く暗い石造りの回廊を抜けると、緑が溢れ木漏れ日の差す綺麗でちょっとだけ広い場所に出る。突き当たりに扉があるけれどオーガっぽい戦士が立ち塞がっていた。

 ソードがとってもうれしそうに剣を取り出したのだが、ストップをかけた。

「ソード、ちょっと待て。せっかくお待ちかねの敵が現れたんだから、もっと縛りをつけろ。お前も木刀を持っているだろう? それで戦え」

 ソードの笑顔がフリーズしたけど、構わず私はソードに言った。

「魔王様は強いぞ。お前も少しは本気で戦え。お前だって本当は木刀でドラゴンを斬れるくせに、出し惜しみをしすぎなのだ。下で戦えなかった分、ここで本気を出してみろ」

「…………」

 ソードはしばらく考えた後、うなずいた。

「ま、そうだな。このダンジョンって、お前が言うとおりにお遊びのダンジョンだ。四天王とやらが気を遣ってわざわざ戦闘を回避してくれるくらいに遊び要素が満載だ。俺も、お前の言う『縛り』とやらで戦っても面白いよな!」

 ソードが納得し、木刀に持ち替える。

 ソードが近付くと、オーガがソードを見据え、武器を構えて、位置取りした。

 ソード、すっごい真剣になった。いや、そこまでしなくても……。

 と思ってる間に斬った。

「……一瞬で終わってしまったな」

 私がつぶやくと、ソードが息を吐いてこちらに笑顔を向けた。

「俺が本気を出す、っつーのは、これくらいやんねーとなんだよ」

 ふーん。あんな程度じゃソードには縛りにはならなかったみたい。

「では、次の縛りだ。相手の攻撃を十回パリィしてから攻撃だ」

 ソードの笑顔がまた固まった。

「……俺は、お前みたいな最強生物じゃねーんだよ!」

 とか怒鳴りつつ、やる気のソード。

 ――ゲームみたいなもんじゃないか。そもそも攻撃されたって死ぬようなダメージこないよ私たち。


 敵を倒すと宝箱が二つ出てきて、その中の一つに鍵が入っていた。鍵は突き当たりの扉を開けられ、先に進む。

 今度は暗い廊下にドアがあり、敵が仁王立ち。

 ソードがため息をついた。やりたくないの?

「ん? 気が乗らないのなら、私が戦ってみせようか?」

「わかった、やる」

 気を遣ったら急にやる気を出すソード。

 歩き出すと敵が武器を構える。

 ソードがまた、あふれるばかりの本気を出してきたぞ。そんなに気合いを入れたらパリィ出来ないのでは……。

 案の定、失敗した。

 攻撃を、相手の上半身ごとパリィで吹っ飛ばした。

 失敗したソードはガクリ、と膝をついたよ。

「難しいなら、最初は慣れた剣でやるかー?」

「嫌だ!」

 ソードが駄々捏ねた。


 ――ソードって、負けず嫌いのゲーマーだ。失敗したのがものすごく悔しかったようで、まだ敵も出ないのに本気モード。しまったな。変な火を点けてしまった。

 扉の前にいる敵に、無言で近付き、今度は綺麗にパリィしている。

 十回パリィして、十一回目で斬殺。

「よしっ!」

 ガッツポーズ。出来たのがうれしいらしい。


 そうしてこの階層は、ソードのアクションゲーム訓練階層と相成った。

 十回パリィ後、十連撃で倒すとか、どこのアクションゲーだ、みたいなことをやるソード。指示したのは私ですけどね。

 ……だって、ソードだって楽しみたいかと思ってさぁ!


 この階層は、ずーっと中ボスが並ぶ階層らしい。そこそこ強いし、いかにも中ボスらしい『無言で構え、攻撃!』って具合なんだもん。

 ソードはだんだんハイテンションになってきて、

「他の縛りはなんかねーの?」

 とか言い出す始末。

 こめかみを指で押してしばし思考。

「んーんんん。あ、そうだ。お前、盾は使えるか? 二十回パリィ、後、盾で軽くバッシュ、相手がひるんだら体勢を元に戻して構え、を五回繰り返そうか」

「盾か……。使えなくはねーけどな……。ま、いっか。訓練がてら使ってみるか」

 ウキウキ盾を出して、敵に向かっていくソード。


 ――こんな感じですよ?

 階を上がるごとに敵は強くなり、だんだん複数と戦うようにもなってきた。だからかソードはますます楽しくなってきた様子。

 良かったねー。ようやくダンジョンっぽくなってきたねー(棒読み)。


 ボス部屋前に行くためにも扉があり、守護している敵が甲冑を着た巨大な鬼だ。それが三匹。

 その鬼を見てなぜか興奮したミニミニ鎧騎士クン一号が突撃かまそうとしたので、私は慌てて止めた。

 やめろ。踏み潰されてぺったんこになるぞ。お前の仲間でもないから。

 バタバタと足を動かし槍を振り回すミニミニ鎧騎士クン一号を抱きとめていると、ソードが近付いていく。

 近付くソードに、ゆっくりと構える大鬼。そしてぶつかり合う。

 大鬼の怒とうの攻撃をパリィとバッシュでいなすソード。大鬼はたまに体勢を崩してよろけるが、ソードは余裕を持って体勢が整うまで待っているよ。『舐めプ』ってヤツかしら?


 そんなソードの戦いをシャールやリョークたちと呑気に眺めつつ、私はバタバタしているミニミニ鎧騎士クン一号に聞いた。

「お前は、あの大鬼を敵だと思って突進しようとしてるのか? それとも仲間と思って飛んでいこうとしたのか?」

 ミニミニ鎧騎士クン一号、ジタバタをやめて私を見上げた。

 ……んん? 意思疎通が出来るな。

「なになに? ……鎧騎士の最高峰は自分だ? なので、それをわからせるために突撃してやっつけようとした?」

 ……なんと無謀な!

 あと、なんで最高峰が自分だって思っているんだ? どう見ても負けるだろ。君って、ピクシーにすら勝てないじゃないか。

「うーむ、そうか。まぁ……そもそもアレは、鎧騎士ではないから、君が戦う必要はないぞ? アレは、単に鬼が防具を着ているだけだから、気にするな。ソードに相手をさせておけ。鎧騎士は君だけだ、ミニミニ鎧騎士クン一号」

 諭したら、腰に手を当てて踏ん反り返ったぞ。恐らくドヤ顔。表情ないけど。

 …………おかしいな。こんな子、作った覚えがないのだが~。


 ――なーんて会話をしてる間にソードが、パリィ&バッシュされすぎて心を折られ片膝をついて立ち上がれない大鬼たちにとどめを刺していた。

「お待たせ。……って、ミニミニ鎧騎士クン一号、どうした?」

 こちらに歩いてきたソードが、踏ん反り返るミニミニ鎧騎士クン一号を見て言った。

「うむー。どうやら大鬼たちの外見で、鎧騎士と勘違いしたようでな。自分が最高峰だとわからせようと突撃をかまそうとしたらしい」

 ソードが口を開け、啞然としてる。

「それなので、あれは単に防具を着ている鬼だからそんなことしなくてよい、君だけが鎧騎士だと諭したのだ。そうしたらこうなった」

 私の解説にソードが黙る。

 そして、しばらくしてからつぶやいた。

「……やっぱ、産みの親に似るって本当なんだな」

 …………どういう意味だろ?

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