第341話 ゴブリン亜種はかわいいよ

 叫びながら飛び跳ねているゴブリン亜種を見ながら、え? おいしくなかった? ……って思っていたら、わらわらとゴブリン亜種が集まってきた。

「手伝うから、なめさせてくれ? とな? ……わかったわかった、別の料理を作ってやるから、ちょっと待ってろ」

 とりあえず、肉にソースをかけさせてくれ。

 皿に盛った肉に、ソースをかけ、完成。


 ……完成したけれど、踏ん反り返っている二人より、ゴブリン亜種にあげたい。ねだってくるこの子たちの方がかわいい。

「『手伝うよ』と言いながらぴょんぴょんと周りを跳ねてるゴブリン亜種に全部あげようかなぁ。コヤツ等の方が数倍かわいげがあるものなぁ」

 心の声が漏れたらソードが飛んできた。

「なんでも言って。手伝うから」

 ヴィーカさんも飛んできた。

「我も、手伝わないなどとは言ってないだろう! 言えばなんでもやるぞ!」

 …………威厳もへったくれもついでにボス感もない。


 しかたないので、踏ん反り返っていた二人にあげた。

 残りの肉や野菜を切って、亜種たちにあーん、させる。

 食べると「キ━━━━!」って叫んで飛び跳ねる様子は到底おいしい仕草には見えないのだけれど、おいしいらしい。

「…………うむ。おいしいなら何よりだ」

 亜種の口に放り込むと、亜種は奇声を発して飛び回り跳ねる。

 したくもない拷問をしている気分なんだけど?

「……うまいッつってるからおいしいんだろうけど、端から見るとお前が拷問してるみたいだよな」

 ソードも、ゴブリン亜種の様子にちょっと引きながら言った。


 引いてないのはヴィーカさん。

「大喜びしているぞ!」

 らしいよ。

 さすが、部下のことはよく知ってらっしゃる。

「……そうか。じゃあ、次を作ろうか。これまたゴブリン亜種の皆さんにお手伝い出来るようなデザートを、今回ご紹介したいと思います。せーのっ、女子、ごはん!」

「さっきから、何その掛け声。何にアピールしてるの?」

 うるさい! ツッコむな!


 デザートを作る。

 まずはスポンジ台を焼き、薄くスライス。

 卵を卵黄と卵白に分けて、卵黄でアイスクリームを作る。

「はい、これを五時間冷やしながら攪拌させたのがこちらになりまーす」

 アイスクリームは時間がかかるので、冷凍マジックバッグから取り出した。

 卵白は泡立てて、メレンゲを作る。

 スポンジ台の上に、アイスクリームを乗っけて、メレンゲを覆い被せるように塗る。

 そして、ブランデーを取り出した。

「では、ゴブリン亜種たちよ。この、ブランデーの入ったスプーンを持って、この白いお菓子にかけなさい。照明、オフ!」

 私は指を鳴らし、魔術で部屋を暗くする。

 ゴブリン亜種がスプーンを持つと、幻想的な青い炎が燃え上がった。

 ゴブリン亜種は手に持つ青い炎をメレンゲにかける。メレンゲが青い炎に包まれた。

「〝ベイクドアラスカ〟というお菓子だ。最後、こうやってメレンゲに焦げ目をつけて食べる。熱く冷たい菓子だ。べつだん祝いの時に食べる菓子という訳ではないのだが、なかなか演出が派手だよな」

 ヴィーカさん、大喜びだ。

「これはきっと、魔王様が喜ばれるだろう!」

 ……本当、上司想いだよね。


 ついでにこのボス部屋で休憩させてもらう。

 ボス部屋が安全地帯。…………なんとも言えないダンジョンだよね本当に。

「一風変わってるな!」

 私が叫んだら、ソードが間髪入れず言った。

「もう来ない」

 拗ねてるよ。

 私はなだめるようにソードに言った。

「まぁまぁ。このゴブリン亜種はかわいいからいいじゃないか」

 手に持つと燃え上がるなら手に持たずに食べればいいじゃない! と、ようやく気づいたゴブリン亜種に、まるでアシカに餌を投げ与えるように与えている私。

「ソードもやるかー?」

「…………やる」

 ソードに聞いたら即答。やっぱやりたかったのか。

 拗ねながらもやけにこっちをジーッと見ているなと思ったんだけどね。この、鳩や雀に餌をやるような行為が羨ましかったのね。

 喜んで餌やりをし出した。

 そんなソードを見ながら、私はヴィーカさんに訊いた。

「このゴブリン亜種は普段の食事はどうしてるんだ?」

 餓鬼は生き物ではないので食事は不要なのだけれど、ゴブリン亜種はゴブリンなだけに生き物っぽいのだけれど。

「ダンジョンの魔物はそもそも、食べなくても生きていけるのだ。食欲はあるらしいが、困るわけではない」

 なんと。

 霞を食って生きているのか。仙人だな。


 翌朝(?)の食事まで作らされた私は、にこやかなヴィーカさんと飛び跳ねるゴブリン亜種に見送られてボス部屋をあとにした。

「次の四天王には何を強請られるか知ってるか?」

 と、ヴィーカさんにぶっちゃけて尋ねたら、ヴィーカさん曰く。

「……次の四天王は、血気盛んなやつだ。魔王様が手合わせを非常に楽しみにしているのだから、最上階に到達させるよう手加減しろとは伝えてあるのだが、自分がその手前で倒すと息巻いていてな……」

 暗かったソードの顔が、だんだん輝きだしたぞ!

「よかったな、ソード!」

「うん!」

 思わず素でうなずくくらいにソードが喜んでいるぞ。

 ヴィーカさんはそんなソードにちょっと戸惑いつつ忠告をくれた。

「そ、そうか? それならばいいが……。くれぐれも気をつけろよ。下の階とは比べようもないくらいの戦闘になるぞ」

 ……なんと。今までの四天王は、気を遣ってわざわざ戦いを避けてくれていたらしい。

 ヴィーカさんたちの優しさと心遣いはありがたいですが、むしろダンジョンでは戦わせてください。

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