第340話 え? おいしくなかった?
ソードが起きるまでは外で敵をやっつけていよう。
皆に任せっきりも良くないし!
近付く敵をバッサバッサやっつけ数時間後。
「悪い。治った」
ソードがミニミニ鎧騎士クン一号を肩に乗せて出てきた。
……そんなことをしたらまたリョークたちにジト目で見られるのじゃなかろうか。
「それは良かった。呪いかと思ったが、治って良かったな」
私が言った言葉にソードがハッとして、私を見た。
「…………なんで気付いた?」
アレ? やっぱり呪いだったの? ソードって呪いにかからないんじゃないの?
私は首をかしげた。
「なぜかと言ってもな……。お前が『ゴブリンの亜種』と言っていたアレとソックリの魔物が別世界の知識にあるのだ。もちろん、別世界に魔物はいないから、お話としてだぞ?」
念を押さないとアイアンクローされる。
「それは、ものを食べようと何か飲食しようと手に持っても燃えてしまって飲食出来ないという業を持つ魔物だ。ソヤツに呪いをかけられると常に飢えと渇きに悩まされる、という話もあった気がしてな。お前の状態が酷似していたから、心配になって体調を診たのだ。診たところ、軽い水毒と胃の不調だったので、指圧で整えた、だけだ」
「…………」
ソードが黙った。
「え? つまりは呪いじゃ無かったってこと?」
私は首をひねる。
「さぁー? 私は呪いにかかったことがないからなぁ。だが、お前が呪いにかかったというのなら、そして治ったというのなら、呪いは指圧で解ける、ってことかもしれないな!」
「…………」
ソードがまた黙る。そして私に聞いてきた。
「……お前って、別世界で神官とかだったのか?」
「違う。親が薬師だった。そして親は神官レベルの治療が出来た」
「なるほどね。うん、納得。お前も神官レベルだよ。しかも、高位の神官だ」
ソードにぐりんぐりんなでくられた。
「普通は聖水を用意しとくモンだったんだけど、お前も俺も呪いにかかりにくいから大丈夫かなって思ったんだよな」
ってソードが頭をかきながら言った。
そっか。そういえばお化け屋敷風ダンジョンの近くの教会で聖水を売ってたね。
「聖水しか効果がないのか?」
私が尋ねると、ソードが肩をすくめた。
「いや、聖魔術が効く……つーか聖水は聖魔術の効果を水に写したものだから、俺の聖魔術で効くんだよ。だけど、ここのダンジョンって変わってるから効果があるかわかんねーなって思ったのと、そこまでひどいってワケじゃねーし、おまけに解呪してもまた呪われそうだからキリねーな、って考えてた」
言葉をきって、私をじっと見る。
「もしお前が呪われたらお前に使おうと思ってたけど、ぜんぜんそんな素振りがなかったからな。むしろピンピンしながら俺の呪いを解いてるもんな」
私はプイ、と横を向いた。
「その判定はまだ早い。今まではソードが敵を倒していたからソードだけがかかったんだ。私だって倒せば呪われるかもしれない」
ソードが笑って私の頭を撫でた。
「んじゃ、そんときは俺が治すよ。でもって俺がまた呪われたらヨロシク」
って言い捨て、ソードが再び敵に向かっていってガンガンやっつけはじめた。
私も参戦した。呪われてみたくて、頑張ってみた!
カルマが溜まる感じかな? って思って頑張ったけれど、呪われなかった。
ボス部屋近くで、ソードがまた軽い不調を訴え、その場で指圧。
「うむー。なぜ私は不調にならないのだ?」
「人間じゃないからじゃねーの?」
……この人、指圧してあげているのにひどいこと言っているよ!
ボス部屋前。
私はソードを振り返り、尋ねた。
「どうする? もう一方の道も試すか?」
「うーん……」
ソードは頭をかいて悩み、逆に尋ねてきた。
「……お前は、敵の予想がついてるか?」
「ん? もう一方の道の方か? …………うーん、そうだな」
なんとなくついている。……のを察したソードが再び尋ねる。
「強いか?」
私は首を横に振る。
「そういうのではない。また呪いの類いだ。夢見が悪くなる呪いをかけるゴブリン亜種の予想だ。そうなるとたぶん、今度は肝臓の調子が悪くなるだろう。酒は厳禁だ」
「やめようぜ」
ソードが即言った。
もう一方の道へ行くのはやめて、ボス部屋突入。
ワクワク感あふれるはずなのに、私もソードもまったく盛り上がらない。
ソードなんか、扉開けて入った途端、
「うわー」
って、何も言われていないのに失礼な声を上げたよ。
…………まぁ、バトルになる気がしない格好のボスが仁王立ちしているからね。
「我が名はヴィーカ! 魔王様の側近にて、四天王の一人である!」
赤い髪のデカパイ、ヴィーカさんは、コック服を着ていますよ。
もう、戦う気がないよね?
しかも、ボス部屋は厨房ですよ。
「ここを通りたくば、料理の腕前を披露してみよ! 私をうならせる料理を作れたのならば、ここを通してやろう!」
ソード、リョークのポッドから椅子とテーブルを出してセッティング。
椅子に優雅に座って、マジックバッグから酒まで取りだした。
「俺、酒飲みながら待ってるから。インドラ、適当に作って出して」
…………お前もなんかやれぇええ!
もう、すっかり殺る気を失ったソードが優雅に酒を飲んでいます。
優雅というか……黄昏れているような、やさぐれているような? ちょっとかわいそうになったので、魔王様との戦いは、全面的に譲ろう。
まさか魔王様まで○○対決! とかやらないだろうし。
しょうがない、ではここの戦闘……というか対決は受け持ちましょう。
「じゃあ、今回はですねー、ゴブリン亜種の皆さんにお手伝い出来るような料理を紹介していきたいと思います。せーのっ、女子、ごはん!」
ということで、始めましょう。
まず、スープを仕込む。
鍋に野菜屑と焼いた魚や肉の骨を入れ、沸騰させないように静かに煮込み、濾して出汁をとる。
出汁を鍋に戻し、下茹でした蕪っぽい根菜と一緒に煮て、つぶつぶ食感が残る程度に粉砕してすり流しを作る。これで食前のスープ終了。
スープの仕込みと同時進行でメインとなる肉を蒸す。六十度温度帯でじっくり蒸し上げる。
付け合わせも蒸して、バターと絡めて塩とハーブスパイスで味を調える。蒸し終えた肉は、熱した鉄板に肉の油脂を引き伸ばし軽く表面を焼く。
これらを皿に盛り、いよいよソース。
発酵ベリーと発酵トマトおまけに発酵玉葱そしてワインを、肉を焼いた鉄板に入れ。
「さぁ! さぁさぁ! ゴブリン亜種よ! これに火を点けよ!」
私の叫びに、ゴブリン亜種たちは顔を見合わせる。
が、一匹が恐る恐る近寄り、鉄板に触れた。
ボワッ!
アルコールに火がついた。それを手早く潰し混ぜる。
「ふむ。こんなものか」
塩とスパイスハーブで味を調えて、ぺろり。うむ、まずまずの出来だな。
「ゴブリン亜種よ。お前も味を見るか? 手で持たなければ燃えることはないだろう」
掬ったスプーンを差し出すと、手伝ってくれたゴブリン亜種、恐る恐るなめた。
「キ━━━━!」
叫んだ。
え? おいしくなかった?
なめたゴブリン亜種が、めっちゃ飛び跳ねてる。
え? おいしくなかった?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます