第339話 どちらの道を選びましょうか

 お次の階層は……うん、まったく期待してないよ!

 何が出てこようともどうせ戦いにはならないしー。

 あ、でも四天王の階層も、ボス部屋以外なら楽しめたな。

 特に罠は楽しかった。

「ボス部屋は捨てれば良い。そこに至る道のりを楽しもう」

「まったくもって同意するぜ」

 ソードが深く深くうなずいた。


 廊下を歩くと……うん? 立て看板?

『どちらかの扉を開けて進んで下さい。どちらの道も最終的にはつながります』と書いてある。

 ソードの顔が絶望的に曇った。

「もう、途中経過も楽しめないかもしれない」

「そう言うな。まだわからないじゃないか! 一応、期待しよう!」

 私はソードの背を擦って、心にもない慰めを言ってみた。


 どっちに行きたいかをソードに聞いたら「どっちも似たようなもんだって思う」との答え。

 なら、どっちでもいいかー。

 なんでも見えちゃうアイで見ると、どちらも敵がいそうだし。

「じゃあ、左から行こう!」

「『から』とか言わないで。両方行くつもりないから」

 諦めるのはまだ早い! 面白いかもしれないじゃん!

 猫背のソードを引っ張って、扉を開ける。

「むむ? むむむ?」

「…………普通じゃねぇけど、ダンジョンとしては普通にあるな」

 言い表すならば、日照りが続いた状態の道。

 湿度はほぼない。カラッカラの状態で、砂漠に近いな。

「ソード。喉を痛めるかもしれないので、砂漠地帯で着た布を口の周りに巻け」

「了解」

 私も巻いた。念のため。


 土の道はカッチンコッチンでひび割れている。

 絵に描いたような日照り状態。別に陽が燦々と降りそそいでいるワケではないのだけれど。

 皆でテクテクとその道を歩いていくと、敵が出た。

「よし!」

 ソードがとってもうれしそう。ガッツポーズしているよ。

 良かったね。全部譲ってあげるよ。

 私、ソードと違ってバトルジャンキーじゃないし。

 私の方が平和主義者みたいだよ? 人のこと極悪非道みたいに言わないでね。


 ストレスを発散するかのようにソードが張り切って戦っている。

 私はのんびりと見物。しながら調査。

「この魔物、ゴブリンに似ているが、もしかしたらアレじゃないか?」

 ゴブリンっぽいんだけどさ、妙にお腹だけぽっこりと出ているの。

 これって、餓鬼とかいう魔物じゃなかったっけか?

 こっちの言葉で言うとなんだろ?

「ソード! この敵の名前はわかるか?」

「ん? ゴブリン……だな。亜種だ」

 ふーん。こっちではゴブリンの位置付けなのか。

 ゴブリン亜種は、火を投げつけてきた。

 ソードが避けながら言う。

「火魔術を使ってくるな」

 確かに、言われてみればこれは火魔術なのか。

 いい投げっぷりだ。狩りゲーの、フンを投げつけてくるゴリラみたいだよな。


 階を上っていくと、敵が多くなる。さらに乾燥はひどくなる。

 お肌の曲がり角にいるかもしれないソードにダメージを与えないよう保湿して包んでるんだけど、それでもたまに咳き込んでいる。

「大丈夫か? なかなか乾燥がキツいな。お前の周囲だけは湿度を保つようにしているのだが……」

「サンキュ。……お前は平気か?」

「うむ! 若いからな! いたい!」

 なんでか知らないけどソードに拳固を落とされた。

 その後そっと尋ねられた。

「…………体調は?」

 私は、キョトンとしてしまった。

「なんともないが……ということは、なにか不調なのか?」

 訊いてくる、そういった場合は自分がそうだから。

 ソードが目線をそらし、頭をかいた。

「…………なんか、妙に腹が空くんだ。喉も渇くし。飴玉をそっと食ってるんだけど、なかなか消えなくてよ」

「う」

 ……それは……。

「いったんシャールに避難するぞ。――シャール、リョーク、ホーブ。ひとまず場を任せて良いか? ソードの体調が回復するまでだ」

「「「あいさー!!」」」

「「「かしこまりました」」」

 皆、張り切って返事している。

「ミニミニ鎧騎士クン一号は一緒に来い。ソードの傍にいて守ってくれ」

 ミニミニ鎧騎士クン一号、私がそう言ったらば敬礼した。

 ――うーん。やはりミニミニ鎧騎士クン一号はこちらを味方と認識している上、もう大元の指令サーバの命令を聞いていない気がするな。

 独立型に変化している気がする。

 …………やっぱりアレ、かな?

 魔石を入れたせいかな?


 ソードを無理やりシャールの中に連れていき、体調を診る。

「……やはり、あまり体調が良くなさそうだな。熱っぽいようだし、脈も浮いてるぞ。酒は飲むな。スープを作るから、それを飲んでいったん休め。あと、軽く指圧してやるから、うつ伏せに寝ろ」

「え? やめてくれる? 俺の身体、穴だらけになるじゃんか」

 …………。

 人の親切を無にする発言をしおって。

「そぉいっ!」

 ソードをベッドに放り投げた。

 で、無理やり指圧する。普通の人には加減がわからないけれど、ソードなら大丈夫!


 怖がっていたソードだけど、

「……あ、気持ちいいかも」

 と、ようやく信用してくれた。

「別世界で私は指圧の名人だったのだ。親直伝の教えで、どこが悪いか的確にわかり、そこを指圧出来たのだ!」

 薬師は指圧も出来るのが私の常識。私、薬師ではなかったけれど。

 ちなみに親はシャーマンレベルだった。ひと目見ただけでどこが悪いかわかる超人で、ちょっと指圧しただけで一気に体調が良くなる腕前だったよ。

「あたたたた。痛い、穴開けないで」

「違う。ここに毒素が溜まっているのだ。指圧で整えてるのだ。そのうち痛くなくなる」

「マジで? あたたたた」

 そんな会話は最初のうちで、そのうちスヤスヤと眠ってしまったソード。

「……ふむ。こんなものか」

 悪い部分は肌が黒く視える。

 そこを指圧していると黒さがなくなってくる。

 全ての黒い部分が消えたのを確認し、ソードに毛布を掛け、ミニミニ鎧騎士クン一号にはソードの警備を頼んだ。

 ……ミニミニ鎧騎士クン一号、ベッドに潜り込んだんだけどね。どこを警備する気なんだろう?

 私はスープを作るといったん外に出た。


 リョークたちは元気にやっつけているけれど、大丈夫かな? ソードみたいにならないかな?

「お前たちは大丈夫か? 体調に変化はないか? 怪我はしてないか?」

「お母さん、過保護ですー」

 リョークに言われてしまった。

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