第343話 ようやくボス部屋らしい展開に

 ボス部屋の扉前まで来た。

 青銅のような鉱物で出来ている重厚な扉を開けると、暗い廊下がまっすぐ伸びていた。

 奥から光が漏れているな。

 進むと、地面がむき出しの土の、広い場所が見えてきた。かなりの光が地面を照らしていて、肉眼では白っぽく見える。


 出てわかった。闘技場だ。

 だ円状の試合場には、下の階で倒した中ボスよりさらに巨大なオーガと、その横に白銀の甲冑に身を包んだ……あれ、ボインじゃないぞ?……の、スレンダーな銀髪の女性が仁王立ちしていた。

「我が名はクーラ! 魔王様の第一の側近にして、四天王筆頭である!」

「「おぉ~」」

 皆で拍手した。

 今までの四天王の自己紹介とはひと味違うぞ! 期待出来そうだ。

「この先は通さぬ! 私とラセツでお前たちを倒す!」

 へー。ラセツって名前なんだ。ゴライアスかと思った。

 また走って向かおうとするミニミニ鎧騎士クン一号を抱きとめて、ソードを見た。

「任せていいか?」

 ソードはバタバタ暴れるミニミニ鎧騎士クン一号を見ると、肩をすくめる。

「生き物になるの、早くねーか?」

「うむー。ダンジョンの中で作ったからかもしれんなぁ。もう、大元のサーバからの指令を聞いていないようだ」

 そして、ちょっとお馬鹿ちゃんなのは他のゴーレムより魔石の大きさが小さいからかもね。

 ……だから、あれは鎧騎士ではないし、鎧騎士だったとしても君は絶対勝てないから。思い知らされるのは君の方だから。突撃かますのやめなさい。槍で私の頬を突っつくのもやめなさい。

「ホラ、落ち着けって。アレは俺の敵で、お前の敵じゃねーよ」

 ポン、とソードがミニミニ鎧騎士クン一号の頭をたたくと大人しくなる。ムムム……なにゆえにソードの言うことばかり聞くのだ? ちょっとジェラシー。


 ミニミニ鎧騎士クン一号が落ち着いたのを見て、ソードがクーラさんたちに向かっていった。

 すると、クーラさんが冷笑する。

「お前一人で戦う気か? 全員でかかってきても良いのだぞ? 卑怯などと嘲笑わぬ」

 ソードが軽く肩をすくめた。

「俺に気を遣ってるんだろ。ここのダンジョンって風変わり過ぎててもの足りなさすぎたからよ」

「下の連中に手加減されたからここまでやってこれたというのに、調子に乗るとは度し難い……」

 冷笑していたクーラさんの、視線が下がったと思ったら引きつった。

 何かな? と思っていたら、クーラさんが震える指で木刀をさす。

「……まさか、その棒きれで戦う、とは申さぬよな?」

 棒きれとは失礼な! 真の剣豪は、木刀で相手を撲殺出来るんだぞぅ!

 ソードが笑う。

「そのまさかだな。魔王と戦う訓練させられてんだよ。そこのゴーレム抱っこしてるやつによ」

 うん? 違うよ? 縛りプレイだよ? ゲームの一環だよ? って考えたけど、思えば魔王様うんぬん言った気もしてきた。

 ソードがゆっくりと向かう。

 ギリギリと歯ぎしりしていたクーラさんが、ラセツと言う名前のオーガに顔を向け、顎でしゃくった。

「片付けろ。なめた態度をとったことを後悔させてやれ」

 鎧を着込んで大斧を持ったオーガは無言でうなずくと、ソードを見下ろす。そして、やはり冷笑した。

「初手は譲ってやろう。その棒きれでたたいてみろ」

 ソードが肩をすくめるとこっちを向いた。

「倒していい?」

「ダメだ。初手はつっつくのみか、譲って防具のみの破壊だな。傷はつけるな。つまらないだろうが」

 主にソードが。

 ソードの顔が引きつるが、そもそもお前が暴れたがっているんだろうが。初手で殺してどうする。

「……防具だけって。どうするんだよ?」

「私が代わりに」「わかった。やる」


 ……やって見本をみせよう、まで言わせてもらえない。

 この、ミニミニ鎧騎士クン一号を差し出した両手をどうするんだ。そしてミニミニ鎧騎士クン一号が受け取って、とばかりに万歳しているこの姿、どうするんだ。


 ソードは私たちをまるっと見なかったことにし、ラセツに向き直った。ひどい。

 真剣に深呼吸し、構える。お、居合抜きで防具破壊する気だな。真剣に距離と箇所と力加減を測りだしたぞ?

 力強く一歩踏み出し、一閃。

 ――ラセツの鎧の、左肩の一部がバカッと割れた。

「うむ、見事! ……皆、ソードに拍手!」

 パチパチパチ。

 私以外手がないから音が微妙だけど。そしてミニミニ鎧騎士クン一号、槍を振り回すな。私の頬に刺さるんだぞ。もしやわざとか?


 遠方ではクーラさんが啞然としている。ラセツも啞然としているね。信じられないみたいよ?

「真の剣の達人はな、斬りたいものだけを斬れるのだ! そして『フッ……またつまらぬものを斬ってしまった』というのがお決まりなのだ!」

 ソードに教え込むと、ソードがものすごく疑わしい顔で私を見た。

「……どーせ、おとぎ話とかいうオチだろ?」

「そうだ!」

 首肯したら、ソードににらまれた。


 しばらくフリーズしていたクーラさん。我に返って、詰まりながら言った。

「…………少しはやるようだな」

 うん、いかにもやられ役の負け惜しみっぽいセリフがとってもいいですね!

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