第338話 お次の対決は図書室で
全ての罠を壊し、敵も撃ち殺して階段を上り、ボス部屋へ向かう。
そこにはとっても重厚なドアがあった。
私とソードはついドア付近を見渡してしまった。
「今回は貼り紙なしだな」
「そりゃ良かった。下のボス部屋みたいのだったら嫌だったぜ」
ソードと会話しつつドアを開けたら、黒ニョロニョロがニョロニョロ飛んでいる、本がたくさんある部屋だった。
私はあごに手を当ててつぶやく。
「図書室に見えるな……」
「その通りだ」
あ。真ん中に、またもやボインの美女が仁王立ち。
「我が名はパーシャ! 魔王様の側近にして四天王の一人である!」
パーシャさんの宣言を聞いた途端、ソードが見るからにいやぁな表情になった。
「うわー……」
ちょっとソードさんったら、いきなり失礼な声を上げないでくださいよ。前回と同じ展開になるとは限らな……「其方たちの見聞きした、物語を語ってみよ! もしも我が感情が揺さぶられることがあったなら、ここを通してやろう!」
…………ごめんねソード。その失礼な声は正しい発声でした。
戦いがないとわかったソードが、頭と肩を落として猫背になった。
「……お前、なんかある? ないなら俺、お前の生い立ちを話してみるけど?」
ソードが私に向かって力無く話しかけてきた。
「私の生い立ちを話しても楽しくは無かろう。……では、私が感動させる物語を語って聞かせよう」
私の言葉に、ソードが興味深そうな表情になって私を見た。
私は咳払いをして、厳かにタイトルを言う。
「題して、『イースのゴーレム』」
「感動しそうにない」
ソードが間髪をいれずにツッコんできた。
「いいから、全部聞いてから感想を言え。――とある国に、イースという小さな町がありました。その町に、ソードという貧しい少年がいました」
「オイ」
ソードが低い声でツッコミ入れたけど、しょうがないんだ。名前が思いつかなかった。
「ソード少年は両親を亡くし、町の外れの小さな物置小屋に住んでいました。ソード少年は心優しく、強欲な町の住人に安い賃金でひどくつらい雑用をさせられこき使われ、損をしてばかり。それでも、貧困に喘ぎながらも雑草スープと小さいパンを楽しみに暮らしていました」
ソードが目を丸くし口を開けて私を見ている。
大丈夫。そんなに心配しなくても、ここまではよくある使い古された物語のあらすじだから。
「ある日、ソード少年は、町の外れにゴーレムがうち捨てられているのを見つけました。ソード少年の懸命な修理の結果、ゴーレムは動くようになりました。ゴーレムはソードに感謝し、なつきます。そのゴーレムに、ソード少年は【リョーク】と名付けました」
ソードが「は?」と言っているが、お話だってば。
「ソード少年の夢は、小説家でした。その町の小さな教会では毎週、読み聞かせをしているのです。いつか同じような素晴らしい小説を書きたい……! ソード少年はそう思っていました」
ソード、ブルブル首を横に振っているし。
いやだから、君の話じゃないから。
「孤独なソード少年ですが、唯一の友達はいました。その町を治めている貴族の娘、インドラです。二人は親友でした。ですが、インドラは貴族、ソードは平民でしかも貧乏人。娘とは似ても似つかない父親は、インドラとソードが仲良くしているとソードを棒でたたいて追い払いました」
うん、ここまでもよくある話。
――働きながらも執筆を続けるソード。故障しつつもソードの手伝いをするリョーク。そんな二人を支えようとするインドラ。だが、インドラとの仲をよく思わない町の住民とインドラの父親がソードを追い詰める。インドラとソードは引き離され、さらに住人の手引きで破落戸がソードを襲い、インドラからもらったペンと紙に書いた小説を全部破かれて少しだけあった蓄えも全て持っていかれてしまったのだった。何もかも失った上、傷を負ったソード。ソードをかばいもっと傷だらけになり、機能停止寸前のリョーク。インドラの必死の脅迫と説得で皆がようやく改心し、二人を探し始めたときは既に手遅れだった。
「……皆が見つけたのは、インドラに構想を語っていた泉のほとりで、安らかな顔でリョークに寄り添い眠るように息を引き取っているソードと、ボロボロの姿で機能を停止したリョークの姿でした。その惨状を見た町の住民とインドラの父親は、さすがに自らの行いを少しだけ後悔しました。そしてインドラは、二人寄り添う姿と、町の住民と父親のバツの悪そうな顔をしているけれどまるで心を痛めていない姿を見て、固く決意しました。『私が、二人の仇を必ずとるから、それまで先に逝って待っててね……』 第一部完」
あ、パーシャさん号泣。
ものすっごいエックエックしゃくりあげている。
鼻水まで出ているぞ。金髪美女が台無しだ。
ソードはといえば……耳を塞いでうずくまっている。首が赤いので恥ずかしがっているようだ。
別に、名前を借りただけなんだからそんなに照れなくても。
「ぼ、ぼどずごぐ、びいばなじだっだ」
とは、パーシャさんの言葉。
そうですか。
鼻声ですけど大体伝わりましたよ。
「ソード? 終わったぞ。別に、お前の話じゃないんだから、そう照れるな」
「俺の名前を使うなよ!」
声を裏返して抗議された。
「とっさに思いつかなかった。私の名前も登場させたし、いいじゃないか」
なんならリョークの名前も登場させたし。
イースの住人なんか悪役だぞ。あ、それならスプリンコート領にすれば良かったな。
大泣きしてたパーシャさんがようやく泣きやみ、鼻をかんで落ち着いたのを見て、私はうなずき語りかけた。
「よし、では戦うとしよう」
フラストレーションが溜まりに溜まってるソードのために、戦闘に持ち込みたい。
「待て。私を感動させた、お前たちの勝ちだ」
パーシャさんに手で制されるが、私は首を横に振る。
「いえいえ。戦っていませんから。ボスを倒して先に進むのがダンジョンのセオリー」
にこやかに木刀を取り出したけれど、パーシャさんは困った顔をして嫌がっている。
……ソードが私の肩をたたいた。
「いいから、行こうぜ。もう俺、魔王に期待するから、他はいいや」
……なんだってさ。
魔王様、戦ってくれるかな?
猫背になっているソードの背中をポン、とたたいた。
「しかたがない。四天王たちはどうやら、魔王様を慰める術を探しているようだ。しかも連中は文官。ようやくこの階まで上ってきた私たちに、魔王様に提供出来るような新たな刺激を求めているのだろう。その願いをくんでやれ」
「……なぁ。俺たち、ダンジョンにいるんじゃなかったのか?」
ソードが至極もっともな疑問を投げかけてきた。
「一風変わっているな!」
「違う、これはダンジョンじゃない。普通の城。いや、城としても普通じゃない」
ソードが自分で答えています。
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