第337話 罠わなワナ!

 さて、お次の階層はというと……。

 着いた途端に落とし穴。

「おぉおおお!?」

 全員回避したけど、イイネ!

「罠の階か! いきなり落とし穴とは鬼畜仕様だな!」

「うん、俺、これくらいの方がいいや」

 ソードが心をこめてつぶやいた。


 ここは、罠だらけの階層だ。

 なんでも見えちゃうアイで見れば、至る所どこも彼処も罠だらけ。

「さーて! 楽しむぞー!」

 ソードが私の万歳ガッツポーズを見て、ニヤリと笑った。

「お前がそれだけ喜んで気合入れるってことは、相当罠だらけってことか。そりゃ楽しめそうだな」

「これは是非周回せねば! わざと罠にかかってどうなるのかも知りたいからな!」

 ソードが笑う。

「そんな愉しみ方を思いつくのって、お前くらいだよな」

 まーね!

 普通の人なら死んじゃうカモだもんね!

 でも、私とソードなら死なないもん!


 最初だから力業で進む。

 バシバシ回避し壊しまくりながら走る。

「ワハハハハ!」

 私が笑ってると、ソードも笑った。

「はは! 無茶苦茶だな! こりゃスゲー! 普通の冒険者、ぜってー死ぬぞコレ!」

 と、普通の冒険者じゃないソードがのたまった。とうとうソードもこういう鬼畜罠を楽しむようになったのね。感慨深いわー。


 何しろ落とし穴に針、矢が飛び出す、鉄球が落ちてくる、等々、基本且つ組み合わせ罠がオンパレード。

 廊下から大岩が転がってくるって王道もあったのだ!

「ソード、お前がやるか?」

 聞いたら、「そうだな」と軽くうなずいて、居合抜き。

 大岩、剣技の衝撃波で吹っ飛んで跡形もなくなった。

 その後振り向いて私に向かって肩をすくめた。

「お前なら、突っ込んでって砕けたか?」

「あえて罠にはまるパターンか? いや、それはしないな。力業だろうが回避のうちだ。今回は、罠にはかからないって縛りでいってるから、私も破壊するのだ!」

 私なら、かの高名なエロ仙人の代名詞ともいわれる、腰の付近で溜めて前方に両手を突き出して放つ気功砲で破壊するな。

 ソードが不思議そうな顔をする。

「ぶつかって破壊するのも、殴って破壊するのも、どっちも似たようなモンじゃねーのか?」

「違う! 能動的に壊すのだ! それに、指一本触れずに壊すのだ! よーし見ていろ、次は新技を見せてやるからなー!」

「え。何する気? ソレ、魔王城破壊とかにならない?」

 慌てたソードに尋ねられ、沈思黙考。

 人差し指と中指を眉間に当ててしばしうつむいた後、パッと離して顔を上げた。

「うん、わからん!」

「封印しろ」

 ソードが冷たく言ってきた。


 ……でも、思いついたら、ちょっとやってみたくなった。うずうず。

 ――これは、きっと、私の年齢的な病気だわ。勇者も患う病気だわ。

 ……だから、しかたがないの。


「よーし、ちょっとやってみよう。かーめー……やっぱやめよう、危険な香りがする」

 両手を腰に持っていって、そこでストップした。言ってはいけないワードっぽい!

 ソードが微妙な顔つきで私を見ているので、軽く手を上げて制した。

「ん? 動画を撮るのは勘弁してくれ。アマト氏にバレたら嘲笑われるか痛々しい目で見られる」

 スカーレット嬢はそもそも知らない気がする。

 ソードは私の言葉にハッとしたらしく、尋ねてきた。

「つーことは、今やろうとしたのは別世界での技なのか?」

「まぁな。勇者が……アマト氏じゃない勇者が喜ぶか妬むかの技だな! ただ、各方面にいろいろヤバそうだし、別の呪文にしないとな……んー、なんて唱えようかな……あ、これはどうだろう? 〝いちきゅっ波!〟」

 指を一本、ビシ! と突き出して唱え、電磁波を出した。もちろん光も混ぜてね!

 遠方が、ドーン! と盛り上がるように爆発。


「…………なに今の呪文。詠唱するようになったと思ったら、何ソレ?」

 ソード、『何ソレバカにしてんの?』という感情があふれ出る顔で私を見ている。

 私は人差し指を振ってソードの言葉を否定した。

「詠唱魔術とか浪漫のないことを言うな。〝気功砲〟と呼んでくれ」

「どう呼ぼうがやってるこた一緒だろうが」

 そうなんだけど!

「〝○めはめ波〟及び〝○どん波〟以外のネーミング募集中だ」

「どっちもねーよ! ちゃんと詠唱しろよ!」

 ソードが怒っている。

「だから、魔術じゃない。別世界の技なのだ。別世界では〝仙人〟という、山奥で壮絶な修行を行いある境地に達した超人的人間が使う技なのだ!」

「…………」

 目を細めかすかに眉根を寄せたソードが無言でタブレットを取り出して、高速でメッセを打ち出した。

 ソードが問いただしたらしい。二人から即レスがきた。

『インドラ様、もしかしてアレやっちゃったの? 動画見たい! あ、ソードさん。ソードさんの思ってる通り、SEN-NINは実際いませんから! 元ネタは架空のお話ですよー』

『別世界にSEN-NINはいませんわよ。お話の中だけですわ。そのお話は読んだことありませんけど、人気がありましたわね。そして、インドラ様の掛け声は安売りの定番文句でしたわよ。インドラ様のネーミングセンスを疑いますわ』

 スカーレット嬢がすっごい痛烈に書いてきたぞー。

『技名募集中』

 って私がレスした途端。

「ぎゃ━━━━!」

 ソードが両手でグリグリしてきた! ウメボシの刑だ!

「おーまーえーは~!」

「いいじゃないか! どうせお前だって架空の話だって思ってたんだし! この世界で現実になるのだ! ぎゃー!」

 もっとグリグリしてきた!


 怒りのソードが罠を壊しまくる。それはもう、凄まじい勢いで。

 当たり散らしていると言っても過言ではない。

 そんなに怒らなくても……。


 さらに階を上がっていくと、敵も出てくるようになってきた。

「……なんだアレ?」

 ソードがつぶやく。

 黒くて細長くてニョロニョロぐねぐねした魔物がこちらに向かってくる。

 リョークが魔素ガンで撃ち殺すと、弾けるように飛び散った。

「むむ? まるで小さなワームのようだな? しかも、倒すと毒液を撒き散らすとは」

「げ」

 ソード、無言でガンを出し、黒ニョロニョロをショットし始めた。


 皆さんガンで撃ち殺している。

 あ、ミニミニ鎧騎士クン一号は別ね。槍しか持ってないもん。

 そしてその攻撃は当たらないから。

 まさしくマスコット枠! スカッ、スカッ、と空振って、スコーン! と敵に小突かれて、ヨットット、となるラブリーさ。あざといぞぅ!

 ちなみに私はイチキュッ波を繰り出しているよ?

 でもいちいち言うの疲れるから、ガンに変更しようっと。

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