第332話 シックスセンスの男と一緒にいる弊害とは

 次の階層も廊下がまっすぐに伸びた先の行き止まりに、部屋に入る扉がある。

 扉を開けると……そこは貴族の子ども部屋みたいな、小洒落た装飾がされているだだっ広い部屋だった。

 部屋には各壁面に一つずつ、三つの扉が見える。

 私はあごに手を当て、ソードはキョロキョロと辺りを見回した。

「ふむふむ?」

「なんだココ? 部屋にしか見えねーぞ」

 ソードは見渡した後、わけわからんといった顔をして私に聞いた。

「この階層のセオリーはなんだ?」

「うーむ、そうだな……。三つの内、正しい道筋のドアが一つ。これがセオリーだが、残りのドアを開け進んだらどうなるか。可能性として、罠の場合……」

 あ。なんでも見えちゃうアイで見えちゃったぞ。

「ムムム……見えてしまった。ドアを開けると転送されるな。どのドアを開けても転送される。転送を繰り返し、階段を見つけるようだな」

 さすがにダンジョン内の転送装置なんだから、誤作動はしないと思いたい。

「ふーん……」

 ソードがうなる。

「まぁ、お前には簡単だろうな。冴え渡る第六感で正解ルートしかたどらないだろう。むしろ、間違いに進んで敵を倒す方が楽しめるか?」

 ソードが肩をすくめた。


 つまりは。

「リアル脱出ゲームだ! この部屋を捜索して、手がかりを探すのだ!」

 私が張り切って言ったら。

「適当に進みゃいけるだろ?」

 ……なーんてことをシックスセンスの男が言ってるんだけど!

 私は大袈裟に首を振ってやった。

「お前は、なんというつまらない攻略をしようとしているのだ? そういうお約束無視のチートをするな! ちゃあんと手順を踏め!」

「お前にそんなことを言われる日がくるとは思わなかったよ、非常識魔王」

 魔王とか言うな。

 魔王様に怒られるぞ。


 では……レッツ! 全員でお部屋の捜査!

「お母さーん。ボクも一緒に探したいですぅ~」

 ポッドの中からシャールがねだってきたので出してやった。

 ――しゃべることが出来るようになってから、シャールがやたら外に出たがるので小型化した方が良いか悩んでしまう。

「うむー。じゃあ、ダンジョンから出たらその報酬でお前の小型化を考えるか。そうしたら常に一緒にいることが出来るもんな。大きい方がかわいいけどなぁ。小型化すれば一緒にいられるものな、しかたがない」

「わーい! 一緒一緒~」

 大きな図体で揺れながら触手を伸ばすシャール。

 ラブリーすぎて死にそう。

 ……って思っていたのに。

「ソードさーん。小さくなったらボクも構ってね~」

 などと言うシャール!

 ソードと一緒にいたいのかよ!

 確かにソードのシャールだけどさぁ!

「わかったから。別に構ってねーワケじゃねーだろ。ちゃんと乗ってるし運転してるじゃんかよ」

 ソードが困った顔でなだめていた。


 シャールも加わり皆であちこち家捜しした結果。

 敵が出た!

 ホーブと似たような感じの小さな魔物が開けた引き出しや扉から湧き出て、ブンブン飛び回り始めたのだ。

 ピクシーというやつかな?

 ホーブが飛び回りながら応戦。

 ソードはまたもやガンを出して撃ち殺しているぞ。気に入っているらしい。

 そして、いつの間にやらミニミニ鎧騎士クン一号まで参戦しているぞ?

 オイ? お前は私たちの敵側だろう? なぜお前の味方であるピクシーに向かって槍を振り回しているのだ? それとも、『向かってくる敵に対して槍を振り回す』という指令なのかな?

 かわいいからいいけど。

 ――ピクシーに槍を『えいっ』と突き出すも『スカッ』と空振りし、逆にピクシーにど突かれてヨットット、ってなっている。

 あまりにど突かれると、ヨットット、コテン。って尻餅して、『しっぱいしっぱい』と、頭をかく。

 まじラブリー。

 ソードもうっかり見蕩れたらしく、敵の攻撃を受けそうになった挙げ句。

「あーっ! ソードさんがまた新しい子に色目をつかってるぞー!」

「「「浮気者~!」」」

 って、皆から非難ごうごう。

「待って待って、落ち着けって。まず、敵を倒そうぜ?」

 慌てたソードがなだめつつ誤魔化しに入った。


 ソードが寄ってきた。

「……なぁ。十階層のボスたち、もしかしてあんな感じだったのか?」

 ソードを見たら、壊したのを思いっきり後悔している顔になっていた。

 …………魔物をでないのではなかったっけか?

「さぁ、どうだろうな。ただ、ミニミニ鎧騎士クン一号の動きはかなりコミカルにしてる。コテン、と転んでしっぱいしっぱい、は、私が作った鎧騎士クン以外やるかはわからんな。というか、そんなプログラミングは誰もしてないようなのだが」

 私もしてないよ?

 そして、解析したときもやってはいなかったようだし、大元の指令サーバも出していないと思うけど……。

「もしも、大元の指令サーバがあの動きをやらせてたとしたら、相当の手練れだな。アレをやられたら、いかなお前でも冷静に壊せるとは思えないものな。策士だな!」

「う」

 ソードが懊悩した。これはたぶんぜったいに壊せないだろうな。


 ピクシーを全部倒すとドロップアイテムで鍵が出た。

「むむ? ヒントだと思ったら、答えが出たのか?」

「ドユコト?」

 ソードに聞かれた。

「たぶん、その鍵がはまる扉が正解への道だ」

 と、思う。

「ふーん……」

 相づちをうったソードが、鍵穴を探して突っ込み始める。

 全部試して振り返った。

「その通りだった。一つだけ鍵がはまる扉があった」

 ふーん。

 ジト目でソードを見ながら言った。

「どうせお前のことだから、最初の扉だろう?」

「え。……そうだけどさ」

 シックスセンスの男と一緒にやる脱出ゲームは、楽しくない。

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