第331話 繊細な生き物たちの集まりのようです
どうやらこの魔王国にいる生き物は、魔族だけではなく全体において繊細らしい。
設定だとわかっていながら引っかかろうとすると、プルプル震えた後、ぴょーん! と逃げるのだ。
「……魔王国の生き物は、魔族を筆頭に繊細なのだな」
逃げていく魔物を憮然と見つつ言ったら、ソードが吐き捨てた。
「お前が繊細の『究極の反対』にいるだけだよ。ダンジョンの魔物の心まで折るなんてスゲーよな。なんだよそのわざとらしい演技は? 魔物が『バカにされてる』って泣きながら逃げてもしょーがねーよ!」
そんなことないもん私繊細だもん! 気持ち悪い皺模様の入った黒光りするアレを見たら泣いちゃうくらいに繊細だもん!
……だけど、しょうがない。
罠に掛けてもらえないので、バリバリ見破りながら先に進んだ。
それでも、一部の心優しい魔物たちにより罠に掛けてもらえて、壁の扉を開けて飛び込み入ってきた扉の前に飛ばされてみたり、階段の踊り場でぎゅるん、と転移して違う踊り場に飛ばされてみたり、拡張魔術で自分が小さくなっていくように見せられたり、絵の魔物に食べてもらって異空間に閉じ込められてみたりして楽しんだ。
「むふーっ! 楽しいぞ!」
「良かったな、優しい魔物がいてくれてよ」
ソードにぐりぐりとなでくられる。
そういうソードだって楽しんでいるくせに! 冴え渡る第六感で突破口を見つけているくせに!
そしてとうとう罠を(ソードが)全部破壊してしまったので、ボス部屋に行く。
階段の罠はとっくにソードが突破口見つけて斬り捨てていたし。たぶん、何度もぐるぐる歩いて、ようやく空間の歪みを見つけるのがセオリーなのよ? ソード、わかってる?
いいんだけどさー。
ボス部屋の扉を開けると……。
「…………こりゃまた、なんつーか」
ボスを見て、ソードが呆れたような感想を言う。
部屋の中央に、きしめん状の細長い紐で出来た二頭の魔物、みたいなアート魔物が鎮座していた。
裏が表で表が裏で一匹なのに二匹に見えて、みたいなアレだ。空間魔術を発動してるようだな。私には無効なんだけどさ。
「ムムム……。なんでも見えると不便だな」
ぼやいたら、ソードが私を見て苦笑した。
「楽しみたいお前にはそうだろうな。フツーは逆だけどな」
私はムスッとした顔で、鼻を鳴らしてソードを見た。
「お前だって、何でも見えたら楽しくないってわかってるから、『なんでも見えちゃうアイグラス』を使わないんだろう?」
「うん」
肯定した!
肯定しやがったぞ!
「ようやく自分が普通じゃないと認めたか」
私がそう言うと、ソードが肩をすくめる。
「お前とは違う方向性で普通じゃないのは自覚してるよ。でも、お前と比べたら普通の人だから。俺、状態異常系が全部無効なわけでもないし、マグマや氷塊が当たったら死ぬからね?」
うそつけぇ。
試したことないだけで、ソードなら当たっても死なないと思うぞ?
会話を打ち切り、ソードが構えてまず一撃。
ソードの攻撃を、表(仮)が受け止めた!
「チッ!」
ソードが舌打ちすると素早く詠唱を唱え、雷魔術を繰り出した。その途端、ソードの魔術を裏(仮)が受け止めた!
そのまま魔術を跳ね返してきたので、私は魔術エネルギーを拡散してキャンセルする。
その間にソードが私の横に下がってきた。
「……いやらしい敵だな。片側は物理攻撃無効、片側は魔術攻撃無効だ」
顔をしかめたソードを見て、私は首をかしげた。
「両方で攻撃すれば良いんじゃないか?」
確かソードは炎の剣とか氷の剣とか魔術付きの剣を持ってたじゃん。……って思って言ったら、ソードにジロリとにらまれた。
え? 出来ないの? なんで?
「……一つ確認しておくが、炎の剣は『魔術と物理攻撃の合わせ技が出来る』剣ではないのか?」
私が尋ねると、ソードが合点のいったように頭をかいた。
「あー……そう解釈してたのか。残念、違うんだわ」
なるほどね。一つ賢くなった。
ソードの持つ剣でもどうにもならないということで、私は一歩前に踏み出して言った。
「では、私が片付けよう」
「は?」
ソードが間の抜けた声を出した。
そのソードにニヤリと笑いかける。
「お前だって、本気を出したら出来るくせに、出し惜しみするからそんなこと言ってるんだぞ?」
本気のソードは斬撃の余波で壁を切るじゃんか。
そこまで本気を出せばなんでも切れるよ。
そして私も。
木刀で岩を切れる理屈なら、物理攻撃無効の魔物も切れる理屈じゃありません?
私はボス魔物の前に進み、襲いかかってきたボス魔物に居合抜きで一閃を浴びせる。
「――こんなものだ。お前だって本気でやれば切れたはずだぞ」
ソードに向き直り、真っ二つに切れたボス魔物を背にして私は言った。
ソードが口を開けてボス魔物を見た後、私を見た。
「……ま、確かに。木の剣で鋼鉄より硬いドラゴンを切れるんだからな。たかが物理攻撃無効程度、お前が切れねーワケがなかったな」
私だけにするな。
「その剣に皹を入れたお前が言うか?」
私がツッコんだらソードが笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます