第333話 伝説通りだった!

 サクサク敵を倒し、サクサク正解の道を進む。

 そうしてたどり着いたボス部屋。

 …………なんというか。

 ベビーピンクの扉は初めて見たなぁ。

 えらくファンシー。

 ソードもあんぐりと口を開けて見上げている。

「……行くか?」

「そうだな」

 そんな会話をして、扉を開けた。


 中はこれまたえらくファンシー。

 ピンクと白で埋め尽くされ、フリフリのフリルとレース満載だ。

「…………何だココ?」

 ソードが啞然としたまま周囲を見渡す。

 …………と、何かが現れた。

 ソード、絶句。

 私は叫んだ。

「なんでこんなフリフリの部屋で『その人形』なんだよ!?」


 出てきたのは、ソードに匹敵する背丈の、前髪ぱっつん、ストレートの黒髪が美しく、色白でおちょぼ口で小太りで目が細い人形だ。

 ご丁寧に朱の地色に菊柄の振袖を着ている。

 帯は金銀黒の織りの帯をふくら雀に結んでいるな。

「……お前、アレが何か知ってるのか?」

「別世界の人間を模した、動かない玩具だな。この世界ではダンジョン魔物のボスとして君臨しているのか。……に、しても、魔王様のセンスを疑ったぞ?」

 なぁんで金髪に青い瞳、ボンネットを被ったお人形さんにしなかったのだ?

 百歩譲って文化人形だろ!

 しかも、着物の着付けがやけに正しいお人形さんだし。

 その着物はどこで手に入れた。そして着付けは誰がした。

「アレはな、砂漠でダーキングオクトパスに遭遇したくらいに奇異なのだ! ……よーし、気に入らないから身ぐるみ剥いで、ぱんつをはいていないかどうか確かめてやる!」

「何言い出してんのお前?」

 ソードが呆れたけど。

「うむ! 別世界ではその昔、『あの衣装の場合、ぱんつを穿かない』という伝説があったのだ!」

 ソードがもっと呆れた。

 けど、唐突にがく然とした顔になった。

「…………おい。つまりは、アレは、別世界のモノだってのか?」

「その謎は、魔王様のみぞ知る、だな。ただ、尋ねても秘匿だろう。――では、戦うか」

 あのお人形さんに尋ねてみてもいいのだけれど、答えてくれるかな?

 顔が陶器で出来てて、口元が可動式になってないけど。

 ――とか考えていたら、人形が髪を伸ばしこちらに飛ばして来た。

「セオリーだな!」

「そうなんだ? 俺、ちょっと不気味だって思ってるけど」

 そう言いながらも冷静に髪を切り刻むソード。

「うむ! 別世界でのこの玩具の特徴は、夜に髪が伸びる。あと、涙を流して泣く!」

「それってどんな玩具なの? 俺、そんな玩具いらない」

 ソードが心の底からいらなそうに言った。


 髪は永遠に伸びる。

 何しろ魔素で作られた髪だから!

「残酷だが、しかたがない」

 うっとうしくなったので、艶めく髪を燃やした。

 アフロになった。


「うむ! すこーし〝洋風〟に近付いたな! 〝LMFAO〟!」

「うわー。意味分かんねーけど、ひどいこと言ってるのだけはわかった」

 ってソードがひどいこと言ってる。

 アフロ人形が、無表情のまま震え……涙を流し始めた!

 いや、正確には目から赤い液体を出し始めた。

 私は先ほど言ったことを訂正する。

「うむ! 記憶違いだったようだ。目からは『涙を流す』のではなく、『血を流す』の間違いだったな」

「どっちにしろ怖いんだけど」

 ソードがドン引きしている。

 私はアフロ人形を見てうなずいた。確かにホラーだ。ホラー耐性のあるソードですら怖がらせるとは、なかなかやるな!

 ――などと感心している場合ではない。

 流れる勢いと量からは考えられない血の涙が、床を伝ってこちらに流れてくる。

「むむ、流れる血の涙はフェイクで、魔素を集めて瘴気のような毒の液体に変換していってるな」

 煙が発生して有毒ガスが出ている。

 ソードが渋い顔をした。

「あの不気味な人形は俺が倒す。お前はあの血をどうにか出来るか?」

「顔からダラダラ流してるの以外ならな」

「じゃ、よろしく」

 って飛び出していったので、私は慌てて魔素で中和した。

 アフロ人形は振袖の裾を鞭のように伸ばし、操ってソードに応戦。

 ソードが面白がっているぞ。

 ――下の階で私がボスを瞬殺したのはまずかったのかな? ソードはオーソドックスな戦闘が好きだからなぁ。

 私はこの魔王城のダンジョンくらいいろいろ仕込んであると楽しいんだけど、ソードは王都のダンジョンの方が好きみたいだね。


 ……と考えていると、戦闘終了。

 ソードが縦切りにした。


 帯が、ぱらり。

 着物が、ぱらり。


 …………。

 ソードと私は縦切り人形の股間部分を凝視した。

 顔を上げた私は目を輝かせてソードに向かって叫んだ。

「伝説通りだった!」

 穿いてなかった!

「…………ついてたことには感想はないの?」

 ソードがつぶやくようなツッコミを入れた。

 うん、お人形さんは男のだったんだね!

 いろいろ要素てんこもりだったなぁ。ありがとう! 楽しめました。

 ソードに教えた。

「アレはな? 『男の』という人種の人形なのだ。だから、ついてるついてないで判断してはいけないのだ!」

 ソードが感心した。

「へぇ。別世界の玩具の人形って、男が女みたいなカッコしてんのか。面白いな」

 …………うん?

 勘違いしたかな?

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