第327話 犬は四本足でこそ犬

 二十階層は、犬ゾーンだった。

 犬は好きだけどー。さすがに吠えかかってくる犬は、物理で躾をしたいわよね。

 浅い階層はドーベルマンっぽい犬が出て、中間層ではオオカミっぽい犬に変わった。そして、犬は単体で出没したけれど、オオカミは群れで攻撃してくるので手応えがある。


 吠えて飛びかかってくる犬たちを物理で躾しつつ、さらに階層を上がると双頭の犬が出てきた!

 片方の頭の牙を受け止めても、もうひとつの頭の牙でガブリとやるのね。うむうむ!

 なかなか考えられているな!

 ただ、ソードも私も首を根元からカットしちゃうから意味ないね。

「ソードは、『二つの牙』対策で根元からカットしているのか?」

 ちょっと聞いてみたら、ソードがキョトンとした。

「いや? 特にそういうんじゃねーけど、それが一番楽に倒せるだろ?」

 まぁ、そうね。

「うーむ。さすがに経験値が高いなソードは。牙を受け止めたらこうなるから私は根元カットなのだが」

 試しに木刀で襲いかかってきた双頭の犬の牙を受けた。とたんにもう一つの頭が首をガブリ。……としたかったんだろうけど、牙が折れて「キャイン!」とかわいく鳴いた。

「…………。かわいそうだから、二度とやるなよ」

 ソードが首をカットして私に説教した。ごめんなさい。


 さらにさらに階層を上がりボス部屋直前の階で、目が点になる敵が現れた!

 二本脚で歩く犬が出てきたんですけど!? あれって、コボルトとか言ったっけ? マジか!

 人間に近い前足で器用に武器を持ち、攻撃してきた。

 私は顔をしかめて瞬殺。

「二本脚で歩く犬は許せんな~」

 そう唸ったら、ソードがキョトンと見た。

「なんでだよ?」

 私はソードに向き直り、指を突きつける。

「犬の最大の利点、四肢から繰り出すスピードとパワーが失われるだろうが! 犬が武器持ってどーすんだ! 人間にかなうわけなかろうが! むしろ、その四肢と牙こそが二足歩行の生物よりも優れた攻撃力なのに、なんで利点を活かさずに人間の真似なんかするのだ!?」

「あ、魔物側の意見ね」

 ソードが納得している。

「まぁな、俺もコボルトが犬よか強い気がしねーわ。不気味ではあるけどな」

 うん、そうね。不気味さはあるわね。

 無理やり生態を変えられたかのような歪さが、とっても不気味。

 あり得ない不自然さで、ぎこちなく襲ってくるのがキモッ! ってなるね。


 私は寄ってきたコボルトをにらんだ。

「進化的に許せない。人間が犬に強要し、そうさせたような理不尽さだ。キメラならわかるが、どちらにせよ嫌いだな」

 ソードがうなるコボルトを見ながら考え込む。

「……コボルトも、魔族側の勇者を鍛えるための試練なのか? あるいは…………試練は俺たちの方なのか?」

 つぶやくなり、襲いかかってきたコボルトを一閃で倒す。

「んん?」

 ソードに首をかしげつつ尋ねると、ソードが答えた。

「お前は魔物側から見た意見だから、あんま参考にならないんだけどな。それでもお前はコボルトを『不自然』だと思う。俺は『不気味』だと思う。二人共通して、『二足歩行の生物だから』。あえて、二足歩行させ人間のように見せているのは、『普通の人間は二足歩行生物を倒しにくい』と思われている、からだ」

 ……と、ソードは考えているらしい。

「ふーん……。つまりは、攻撃をためらわせる精神手段の一つなのか。策士だな!」

 まったくもって、一瞬たりともためらわないけど。

 いや、私もソードも普通の人間とは言いがたいもんね。一般基準の冒険者に意見を聞いてみたい。よし、今度【明け方の薄月】に聞いてみよう。


 ガンガンやっつけてコボルト階を抜け、ボス部屋にたどり着いた。ボス部屋の扉を開け放つ。

 さて、犬階のボスときたら? ――答えはもちろん、冥界の番犬ケルベロス!

 かっこいーい!

「頭が三つもあって、よくも動作が混乱しないものだな。並列思考だとしてもどうやって統制してるのか」

 私のふとした疑問に、ソードが首をかしげた。

「……確かにな。俺とお前とリョーク、バラバラに攻撃したときそれぞれが攻撃しようとしたら、動きがおかしくなる気がするな」

「試してみるか」

 手早くソードとリョークと役割分担し、一斉にそれぞれの頭、リョークは一体が背後に回って攻撃。

 その結果、身体は反射神経、頭はそれぞれの可動範囲で動くだけ、ということが判明した。

 基本は距離が近い順に攻撃、あるいはウザいと思う順のようだ。

 頭はバラバラに動くが、動くだけ、のようで、思考は三匹同じのようだ。

 動作に迷いはなく、普通に犬のように動いている。

「ふむふむ。特筆したものはないな。単なる『大きい犬』だった。並列思考してるわけでもなさそうだぞ。三匹が同じことを考えて行動に移しているような動きだ」

 なんのための頭三つだろう? いいけどさ。


 それぞれがほぼ同時に首や胴体を一斉攻撃して終了。

 現れた宝箱を見ながら私はつぶやいた。

「うーむ。そこそこ面白かったが、謎めいていたのは下の階層だったな」

 パペット兵隊たちは大したことないが、いろいろギミックがあった気がする。

 すっ飛ばしてきたけど!

 魔族たちは浅い階層でゲーム感覚で遊んでいるのだろう。それより上の階層が、本来のダンジョンぽいよな。

「下の階層は、魔族たちの修練の階層なんだろうよ」

 ってソードも言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る