第326話 ソードは あたらしいこを はべらせた!

 扉を開けて入るとそこはエントランス、もしくは衛兵の間といった雰囲気だった。

 縦長の部屋に鎧がずらりと並んでいる。その先に、一際大きい鎧が仁王立ちしているな。

 良かった、パペット兵隊ではなさそう。そしてなかなか強そうだ。

 ソードも喜んだ。

「お、わりと強そうだな。……まさかお前、アレを王都ダンジョンの十階層ボスみたいに『ラブリー』とか言わねーだろうな?」

「言わない!」

 鎧はラブリーじゃない!

 いや、動き次第ではラブリーかもしれない。油断は禁物だな!


 ソードが一歩踏み出した途端、並んでいた鎧騎士が一斉にコッチを向いた!

 一糸乱れぬ動きでカッコいい!

「ふむ!」

 ソードが、思わず感心してしまった私を見て笑うと、もう一歩踏み込む。

 一気に倒す気らしくて、構えた。

 鎧騎士も、またもや一糸乱れぬ動きで、ソードに体ごと向き直る。

「行くぜ」

 一気にソードが駆け、鎧騎士を倒し始める。

 ソードの動きに合わせたかの如く、素早く鎧騎士たちは迎撃するが、ソードにかなうほどのスピードも力もなく、あっけなく倒される。

「ふむふむ。定番のアレか」

 私は倒された鎧騎士を検分してうなずいた。予想はしていたんだけどね。

 ソードは奥のボスっぽいの以外を倒しきると眉根を寄せて私を見た。

「……鎧の中が空っぽなのは魔術か?」

 そう。この鎧騎士には中身がなかった。

「それもあるが、魔導具……というよりもゴーレムが近いのではないか? 魔溶液で術式を書き、どこかに書かれているサーバが脳の役割をして、各パーツに指示を与えているような魔素の動きだったな。……って、お前はわかってるから、指令を出している魔法陣を壊したんじゃないのか?」

 ソードの攻撃は、必ずソコが壊されている。偶然じゃないよね?

「なんとなくやった」

「出た! 第六感!」

 それで自分のことを普通の人だって言い張ってるソードって、本当におかしいと思うぞ!


 普通の人だと言い張る普通じゃないソードが、最奥にいるひときわ大きな鎧騎士ボスと対峙。

 私は、鎧騎士のサーバーを壁の隙間から見つけて解析中。

「ふむふむ? ふーむふむ」

「ボス、やっつけていいかー?」

「良いぞー」

 ソードと気楽な会話をしつつ、私はこの鎧騎士サーバー魔法陣を利用したクライアントロボ『ミニミニ鎧騎士クン一号』を試作。実際サーバーの命令で動くかどうか遊んで……もとい、解析しているのだ。

「よーしよし、出来た。攻撃してみろ」

 私の胴体より短いミニミニ鎧騎士クン一号は、私が動くとヨチヨチ歩いて、槍を構えて、えいっと突き出して、コチッ☆と刺してくる。

 らーぶりー。

「むふ~」

 思わず鼻息が荒くなったら途端に反応するソード。

「おいっ!? あれほど愛でるなっつっただろうが! ――ってお前、何してんだ?」

 こっち向いて怒鳴り、最後呆れている。

「ちょっと試した。――見てくれ! この魔法陣サーバを利用して私が作った『ミニミニ鎧騎士クン一号』だ! 私が動くと、ちっこい槍で刺してくるぞ! ホラ!」

 ホラ、と動くと、ヨチヨチ、構え、コチッ☆。

 ソードがグラグラ揺れ出した。

 ソードもかわいいと思ってるらしい。


 ――と、声がしてきた。

『魔王だ。 楽しんでいるところ申し訳ないが、城内を許可なく改変するのはやめるようにお願いしたい』

 城内アナウンスで、禁止されてしまった。

「うむ、すまない。ちょっと血が騒いでしまった。……では、これでお別れだ、ミニミニ鎧騎士クン一号。端っこの方で戦えよ? お前のラブリーさで、現れる冒険者をノックアウトしてやれ!」

「持って帰れねーの?」

 ソードが欲しがってるぞ。せっかく私が魔王様に謝罪し、ミニミニ鎧騎士クン一号に別れの挨拶をしたのに何を言いだしているんだ。

 私はソードをなだめに入った。

「いや、流石にダメだろう。ドロップアイテムではないし、宝箱から出た報酬でもないし――」

『持っていって構わないが、城から出たら動かなくなる』

 あらら。魔王様から許可が出てしまったよ。ソードが喜色満面だ。

「やった! ――インドラ、お前なら動かせるんだろ?」

 私は頭をかいた。

「まぁ、サーバを新たに作ってそちらから遠隔操作するようにするか、本体にサーバを置いて自立プログラムにするかだな。……魔王様ありがとうございます。その寛大さに感謝の言葉もございません」

 その他にボス討伐報酬の宝箱までもらっちゃったよ。しかもかなり大きいし中身も豪華だった。


 ソードは『ミニミニ鎧騎士クン一号』を凄まじく気に入ったらしく、抱っこして離さない。たまにリョークに持たせて、自分を攻撃させて楽しんでいる。リョークが冷ややかな態度なのにも気付かないほど夢中だ。

「さっきの鎧騎士たちよか、動きが面白いな」

 ソードがミニミニ鎧騎士クン一号と遊びながら言った。

「うむ。こちらの鎧騎士は王道だが、私の鎧騎士はコミカルにした。動き自体はそれぞれの鎧騎士独自の動きになるからな」

 平たく言うと、いかにもロボットみたいな動きにしてる。

 だからソードが気に入ったんだろうけど。


 ミニミニ鎧騎士クン一号に夢中なソードに言った。

「お前だって、これらが並んでて『てきがきたぞー!』『むかえー!』って指令が飛んだらヨチヨチと歩いてきて『やり、かまえー!』『コチッ☆』とかいう号令で刺してきたときに、なぎ払えるか?」

「う」

 ソードが苦悶した。初めてだな。

 さらに私は追撃をかける。

「『お持ち帰り出来ます』『ただし、ダンジョン内でないとうまく動きません』って但し書きされて、持って帰らずに壊せるか?」

 ソードがガクリ、とうな垂れた。

「…………無理。持って帰っちゃう。全部マジックバッグに入れちゃう」

「それが、私が魔物をラブリーと思う気持ちだ!」

 ビシィ! 私はソードに指を突きつけた。

 初めてソードに勝ったぞ!

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