第325話 バリエーション豊富なのがお好みです
逃がしたパペット兵隊クンは潜み、陰から様子をうかがっている。
そして、私がウキウキと、ソードがゲンナリとしながら歩いている背後にそっと忍び寄ってきた。
ちょうど前から現れた敵にソードが攻撃しようとしたタイミングで、パペット兵隊クンは背後から攻撃しようと剣を振りかぶり……。
「私、インドラさん。今、あなたの後ろにいるの」
私は瞬時にパペット兵隊クンの後ろに回って耳許で囁いてやった。
「ヒィッ!!」
パペット兵隊クン、バッチリな反応を返してくれた! 飛び上がって驚き、たたらを踏んで腰を抜かしたように座り込み、青ざめてこちらを見ている。
私は満面の笑顔で通達する。
「お約束の展開だ。ちゃあんと裏切ってくれたな? もちろん、期待して見逃したのだよ、パペット兵隊クン。さて、絶望に打ちひしがれた良い表情の君を、切り刻んでやろう」
パペット兵隊クン、真っ青になったまま啞然としてる。
「どうせ死んでも生き返るだろう? ならば死に様に趣向を凝らす。それが君の役割だ。かわいそうにな。楽しませてくれて、ありがとう」
「待って! 待ってくれ! 今度こそ本当に何もしないから! 見逃してくれ! 頼む!」
私は首をかしげ、展開を考える。
「んー、そうだな。それもいいかな?」
前の敵をやっつけたソードはまた眉根にしわを寄せ、ため息をついたけどなんでだろう。
「……すっごいダンジョンモンスターだよな。人間味あふれすぎててやってらんねーよ」
「楽しませる趣向だろう。策士だな!」
「違うと思う」
ソードと会話をしていたら、脱兎のごとく逃げていった。
――パペット兵隊クンは振り返りつつ走り、追ってこないのがわかったのか逃げ切ったと思ったのか、立ち止まり安心したところで、私はまた後ろから囁いた。
「やっぱ、やーめた」
凍りついて振り向いたパペット兵隊クンを笑顔で見て、ゆっくり木刀をふりかぶり、命乞いを言う間もなく一閃。
「うむ! 楽しかった! これくらい趣向が凝らされてると楽しいな!」
遠景で、ソードがガックリと肩を落としていた。
「…………まーいーや。ダンジョンモンスターだし、お前が楽しんでるんならいーや」
ソードが投げやりに言ったので首をかしげる。
「お前もやったらどうだ? 次は譲ってやるぞ? とっても楽しいぞ?」
「ぜんっぜん、楽しくない! だから、お前に譲る!」
キッパリ言われたし。
なんでだろう?
「…………おんなじ敵が、おんなじように出てきたところで、バリエーションが急に増えた。ちゃあんと殺しやすいような、見事なクズっぷりだったじゃないか。他のバリエーションにも期待しよう」
「うん、全部譲るよ。俺は素直に襲いかかってくるのを倒すわ」
そうか。
ソードはバリエーションつけない方がいいのか。
期待して歩いているけれど、ソードの希望が通ったらしくてバリエーションがなくなった。
「ふむん……」
鳴いたらソードがジロリとにらんだ。
「かわいく鳴いたって騙されねーよ。魔王様が、お前の非道っぷりに呆れてバリエーションつけねーようにしたんだよ。じゃねーと襲ってくる連中がかわいそうな目に遭うからな!」
ひどいことを言う。
「どう殺したって復活するし、これがお前が言うとおりに戦闘訓練になるなら、もっとバリエーションを豊富にした方がいいじゃあないか!」
「ためらうどころか嬉々として惨殺に走るお前に、魔王様が恐れをなしたんだろ」
ソードがとんでもないことを言ったのだけれど。
そんなワケないっ!
だって、魔王様だぞ!
ま・お・う、だぞ!
私が言い返そうとしたら、ソードがさらにとんでもなっことを続けた。
「もう、お前が魔王を名乗ってもいいくらいだよな。【残虐王】って二つ名つけてやろうか?」
ぶるぶるぶる。そんな二つ名嫌だもん。私、普通だもん。首を横に振った。
ソードとそんな話をしつつ、バリエーションのない敵にいい加減飽きてきたところで階段を見つけた。
私はつい愚痴ってしまった。
「ようやく次の階か……。しかし、ボスがいないってことは、まだまだパペット兵隊たちが出るのか。次の階では更なるバリエーションを期待したい」
「歯ごたえのある敵が出てくるってバリエーションで勘弁して欲しい」
ソードも切なる願いをのたまって、階段を上った。
――この階層はパペット兵隊階層らしい。
ちょっと強い、かもしれないパペット兵隊たちが、徒党を組んで……いや隊列を組んで攻撃してくる。
魔術師もいるらしく、魔術も使ってくる、ようだ。
詠唱している間に殺されちゃうんだけど。
「それにしても、命乞いバージョンは初回の特典だったようだな」
以降全然ないよ。
私のつぶやきを耳にしたソードが提案する。
「まだ階が浅いからだろうけどな。今後……も、ねーだろうな。ちょっと飛ばすか? マップ解禁で、もっと上の階に行こうぜ。このパペット兵隊とやらは楽しくねーよ。人型魔物ってのも嫌らしいけど、それにしても弱すぎる」
「ふむ、そうだな。お前は人型魔物の弱い者イジメが出来ないタイプだからな。ボス階まで飛ばすか」
ソードの顔に『飽きた』と書いてあったので、私も同意した。
ではでは、マップ解禁!
最短ルートをサクサク進む!
バンバン階段を上り、先に進んで十階層最深部到達。
「お? 何やらきらびやかで豪華な扉があるぞ」
「ようやくボスのお出ましか」
どうやらボスの部屋っぽい。
「ふむふむ。王都と同じく十階層ごとにボスの部屋があるのか。と、いうことは……百階層あるのかな。百階建ての城とはすごいな」
地震があったら一発で崩れ落ちそう。ソードも同意してくれた。
「確かにスゲーな。広さも王都のダンジョンよか広いしよ」
私はウンウンうなずく。
「さすがこの世界一のダンジョンだ! さーて、中のボスはどんなかなー?」
ソードが私を見て笑うと、中に入った。
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