第324話 人型魔物の区別のしかたは?

 細かく調べるのは諦めて、手っ取り早く先に進むことにした私たち。

 地図を見ない縛りだけれど、ソードは超感覚で、私は何でも見えちゃう不思議なアイで、リョークたちはそもそもフロアマッピングしながら進んでいるのでサクサク正解の道を進んだ。

 ソードは人型魔物が苦手なのか最初ちょっと怯んでいたけれど、すぐになじんで一刀両断にしている。

「……確かに、魔族専用のダンジョンなのかもな」

 とソードがつぶやいたので聞きとがめた。

「ん? なぜだ?」

「出てくる人型魔物……ってお前が言ってるやつらは、人間を模している。つまり、人間の兵士を殺す訓練を、ここでしてる、ってワケだ」

 ふーん。……でも、何故に人間限定?

「魔族にだって似てるじゃないか。どっちも人型だ。お前よりやや低めの背丈の二足歩行生物で、服を着ていて武器を使ってくるぞ」

「その区別しかしないお前ってすごい」

 なんでだ!? それ以外で区別出来るなら、『カイン君を探せ』ミッションは楽勝だったはずだろうが!

「なら、お前がスミス君を見つければ良かったじゃないか」

 私が膨れて言ったら、ソードにナデナデされた。

「あの頃は魔族はまだ一人しか見たことなかったし、変装してるって言われたから分からなかったんだよ。気配も消してたしな。でも、この国に来て魔族をたくさん見たら、特徴が分かったんだ」

「二足歩行の図体だけデカい子供だと、か?」

 私の挙げた特徴を聞いて、ソードが笑った。


 うーむ。魔王城のダンジョンはかなり入り組んでいる上に、広大だ。

 いろいろ寄り道したい気持ちをぐっと抑えて進む。

 裏庭に花壇とかあるんだぞ! モルボルが襲ってきたり、殺されて花壇に埋められた嘆きの令嬢の亡霊とか出てサブクエストを依頼されるかもしれないんだぞ!

「ぐぬぬ……」

 耐えて進んでいたら、ソードに心配された。

「そんなに寄り道したいんなら、行きたいトコ行こうぜ? 別に、ゆっくり全部攻略したってどっちだっていいよ、俺は」

 私はぶるぶる顔を横に振る。

「我慢だ!」

「何のだよ」

 今度は呆れられた。


 寄り道したい気分が高まるのは、何しろ敵の面白みが現在ゼロパーなのだ。

 おんなじ敵しか出ねぇ!

 パペット兵隊がわーって出てきて、わーっとやっつけられる。

 盛り上がりのカケラもない。

 もっとさぁ、バリエーションをつけようよ!

「……敵が面白みのカケラもないから寄り道したくなるのだ。帰りたくなる気分にさせる魔王様の策略か? 策士だな!」

 私がぶつくさ言うと、ソードに否定された。

「違う、これは魔族の勇者には王国の兵士を倒す訓練になるし、王国の勇者には牽制になる有効なダンジョン仕様」

 牽制? 私は首をかしげる。ハテナとなっている私を見たソードが苦笑した。

「人間の兵士を殺すような気分にさせるからな。普通の人間なら、ためらうんだよ」

 私はもっと首をかしげた。

「普通の人間なら、ラブリーな猫さんや犬さんや兎さんなどの小動物をはべらせ、プルプルさせた方が効果的だと思うけどなぁ。私なら絶対無理だぞ?」

「お前は普通じゃないもん」

 ソードが一言、バッサリと切り捨てた。


「どっちみち、敵意むき出しの者が現れてためらうのが変なんだ。王国は戦争をしたことがないのか? だから人型の魔王を倒しに行けと、わざわざ別世界から召喚して倒させようとしてるのか?」

 私が問いただすと、ソードが頭をかいた。

「うーん……。俺は戦争に参加したことがねーからな……。まぁ、殺されそうになったら殺すよ? でもさ、何のためらいもなく、ってことはねーんだよ」

「敵意のないプルプル震えてる小さな魔物は倒せるのにか?」

「俺、お肉大好き」

 切り返された!

 目の前のプルプル震えてる小動物は、肉なのか! そうだけど!

「今度人間を食わせてやる。震えすくむ魔物を食うよりも、襲いかかったり陥れようとしたりする人間を食わせてうまいと思わせた方がお前のためだ」

「やめて、ホントやめて。わかったから、襲ってこない魔物は手加減するから、人間を食わせるのだけはやめて」

 ソードに拝むように頼み込まれた。


 ……と、不満を洩らしていたのが聞こえたのか、敵がバリエーションをつけてきた!

「ま、待ってくれ! 助けてくれ!」

 と、命乞いをしてきたのだ!

「ふむふむ!」

「なんで興奮するんだよ」

 ソードにツッコまれつつ、ソードが私に「どうする?」って思念で聞いてきた。

「もちろん! 見逃してやろうとも! さぁ! さぁさぁ! 逃げまくれ!」

「それじゃ見逃してないだろーが」

 って言いつつ、ソードも殺さずに見逃した。

「むふーっ!」

「ちょっと、何考えてんだよ?」

 ソードがいぶかしげに尋ねたが、私はなだめる。

「まぁまぁ、謎がすぐ解けたら面白くないだろう? 私の様子も含めて様子を見てろ」

 私は満足しつつ、逃げ去る敵を見送った。


 さて。

 このパターンだと、逃げ出したやつが卑怯者として仲間に処刑されそうなのを助けてお礼に鍵が手に入ったりするか、もしくは見逃したのを内心で舌を出しつつ陰から襲ってくるかなんだけどなー。


 ソードと進むと……お、後者のパターンだ!

 ソードもすぐ気付いたらしい。眉根に皺を寄せながら私を見た途端。

「うわー」

 って失礼な声を上げた。

「なんだね? 人の顔を見るなり失礼じゃないかねソード君」

「……なんでもねーよ。楽しそうで結構だな、ついでにやつにはご愁傷様、っつっとくわ」

 ソードが諦めたような声で私に言うが、楽しくなってきたじゃあないか。

 ようやく、ようやく!

 恩を仇で返されるテンプレキタ!

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