第314話 現在は、ホーブが地図を映しだしています

 魔族の男、食事をしたら元気が出たようで顔色が戻った。

 旅路を急いでいるのか知らないがとにかく出立したいようで、いろいろ質問してきた。

「ここはどの辺りだ?」

 私は地図を出して見せてやる。

「この辺りだな。まさに真ん中辺だ」

 魔族の男はホログラフィにびっくりしたらしい。固まっていた。

 その後興味津々の顔で、しげしげと眺める。

「人間の町はどの辺りにある?」

「ここだな。私たちが知っている人間がいる町、と言う意味ならな。他はまだ巡ってないので知らないのだ。だが、ここに行っても余所者にはつらいぞ? 万年水不足だから、水を自力調達せねば歓迎されない」

 私は地図を指して教える。

 魔族の男が考え込むと、また質問してきた。

「王都は、ここからどのくらいだ?」

「ここから魔王城より遠いだろうな」

 そう答えたら、魔族の男が驚いたようにこちらを見た。

「ただ、行ったことないのでわからんが、通行の便はこの国の方が良い感じだな。魔王国は往来が厳しそうだものな」

 パッと縮小表示してこの国と魔王国までの地図を見せた。

 魔族の男は本格的に驚いたようだ。腰を抜かしそうな様子で地図を凝視している。

「…………これは…………。おい貴様! どうして我が魔王国の地図を持っているのだ!」

 いきなり立ち上がって怒鳴られたし。

「うむ? 空から映したのだ」

 私が首をかしげながら答えたら、魔族の男が怒った顔のまま意味不明って表情をしてみせた。すごいな。

「ホーブ……空に魔導具を飛ばし、その見た情景をここに映し出している。私は天才なので、そんなことは造作もないのだよ。わかったかね? 魔族の男よ」

 魔族の男は気が抜けたようで、フラフラと座った。


 ソードがその様子を見て、肩をすくめる。

「魔族って、まだ人間を敵対視してんのか? 今回の勇者はまだ魔王国に入ってねーだろが。勇者のうち一人は俺の拠点にいて魔王国行く気ねーしよ。それとも、魔王国もこの国とおんなじような事情で魔王国の勇者をこの国に送ってるのか?」

 それを聞いた魔族の男は、わかりやすくキョドった。

 図星らしいよ?

「ふーむ。それはそれは気の毒に。うちにいる勇者は、別世界から生きたまま召喚されて無理やり向かわせられそうになって逃げてきた気の毒な者なのだ。魔王の国も似たようにどこかから召喚されて来たのか、あるいはまったくランダムに魔族を選んで適当に言いくるめてこの国に向かわせているのかわからないが、どちらにしろこの国も魔王国もどうしようもないな」

 私が同情すると、魔族の男は憤る。

「気の毒ではない! 俺は…………」

 フェードアウト。

 なるほど、合点がいった。勇者のスペックを持っているので、砂漠で死にそうになりながら死ななかったのか。復活も異様に早かったしな。


 魔族の男を見ながら、疑問点を口にする。

「それにしても。国同士の争いとは利益が絡んでくるからこそ起こすのだがなぁ。この国が勇者を送り込むのは特殊な事情だから置いておいて、魔王国が少人数を送り込むのはどうしてだ? しかも、実入りがないどころか費用しかかからないじゃないか。儲けのない戦争なんて、起こす理由がないんだが」


「え。お前がいた世界ってそんな理由で戦争を起こすのか?」

 そう聞いてきたソードに、私は肩をすくめる。

「国のトップや貿易商人が考えることなどどこも同じだぞ? 儲けようとするなら戦争が手っ取り早く稼げるのだ。何しろ何千人何万人の、武器鎧、遠征するための諸経費、迎撃のための土木工事、これらを一気に消費するのだから、売り手側は戦争景気と言っても過言ではないだろう? 勝てば土地も奴隷も手に入る。さらにだ。技術革新は、戦争がベースとなる。他所の国を襲うべくより優れた武器や魔術魔導具を開発する。捕まえた人間を実験台とし、開発した様々な技術をそいつらに試して効果の程を探り統計を取り、失敗か成功かを見極める。まぁ、もう少し穏やかな方法として、占拠した国の文化を採り入れ織り込みより良い文化を築き上げる。これが戦争による人と国の発展だ」


 男二人が口を開けて私を見た。

「民としては徴収されたり重税がかかったり、最悪兵隊が遊び半分欲半分で襲ってきたりでたまったものではないだろうが、起こす連中は知ったことじゃない。だが、バカ正直にそれを言ったら民から反発をくらう。だから、もっともらしい言い訳、大義名分を立てるのだ。特に、この国の行っている召喚は、自国の民すら消費せず自らの手を汚さずに相手の国に攻め入らせ実入りだけを得ようとしている。それをうちにいる勇者は理解しているから、嫌がって逃げてきたのだろうが」


 ソードが合点がいったって顔をした。

 魔族の男はショックを受けている。

「そっかよ……アマトはお前と似た叡智を持ってる。それを知っているからあんなに必死に逃れようとしてたのか」

 うなずく。

「もう一人の勇者は、まだ少年だったと言っていた。つまり、そういった叡智を授かる前にここに召喚されてしまったのだろうな。別世界でだって、戦争を肯定する国はあったし、そういった国では戦争を起こしている」


 私は魔族の男に向き直った。

「私がこの国の話を聞いた限りでは、人間は魔族や魔王国に対して警戒をしているが、積極的に滅ぼそうなどとはまったく考えていない。そして魔王国の魔王城はダンジョンだと聞いた。つまり魔王様はダンジョンコア様なんだろう? ダンジョンコア様の知り合いは何名もいるが、ダンジョンコア様はダンジョンありきで、ダンジョンに来てもらうのを歓迎しているようだった。そして、外には出られるが、基本はダンジョンの中にいるよな? ダンジョンに人が訪れるのを歓迎しているはずのダンジョンコア様が、他国に攻め入り滅ぼそうなどとは考えないはずなのだ。利点がない」


「そりゃそーだ」

 ソードも同意した。

「人間には欲がある。儲けたいだの威張りたいだのって俗な考えで他国を攻めようって考えるやつはいると思う。だけど、ダンジョンコア様は人じゃねぇ。なんなのかは知らねーけど、俗な考えは持ってなかった、……知り合いはな。じゃあ、魔族はなんで人間を滅ぼそうって考えてるんだ?」

 魔族のスミス君は人間を滅ぼそうなんて考えてないけどね。と、内心ツッコんだ。

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