第313話 人間ですよ?
ソードとリョークは周囲を警戒と言う名のお出かけ中だ。写真を送りつけてこなかったので、変に気に病むソードは魔族の男の仲間を探しているのだろう。
ところが、帰ってきたと思ったら、
「おなかすいた。ごはん作ってー」
って、お前は遊んで帰ってきた小学生か! みたいなことを言い放ったソードだった。
……まぁいいよ。『成果なし』って顔に書いてあるからね。何かしら見つけてあげたかったのは察したよ。
「わかった。……魔族の男よ、お前の食欲はどうだ? スープくらいなら食べられそうか?」
「…………。普通に食べられる、と思う」
魔族の男がグッタリした感じで答えた。
ソードは、けげんな顔で魔族の男を見た。
「なんか、疲れてない?」
「コイツと会話をしていると、俺の気力を吸いとられる」
とか魔族の男が言い出した。
失礼な、吸いとっていないぞ。吸いとっているのはふんわりさんだけだ。
だけどソードは気の毒そうな顔で、魔族の男の肩をたたいた。
「わかる。でも、慣れれば平気だ。ついでに精神も鍛えられて多少の事じゃ動じなくなるから、頑張れよ」
「うるさい。お前がどうにかしろ」
魔族の男が慰めたソードを邪険にしたが、ソードはニッコリと笑顔で返す。
「無理に決まってるじゃねーか。精神も肉体も世界最強のやつがソイツだ。俺は普通の人間だから、勝てるワケがねーだろ」
ソードが変なこと言ってるし。
まず、ソードが『普通の人間』というところがおかしいよね。
魔族の男はもう回復したようだ。背もたれに寄りかかりけだるそうに動いていたのが、気付いたら身体を起こして着替え、ちゃんと座っていた。
とはいえ、ガッツリ系の食事はまだ駄目だろう。
発酵ポタージュと、冷製パスタにしようかな。あとは、豆とナッツのサラダかな。
ササッと作っていると、魔族の男が私を指差してソードに尋ねた。
「…………おい人間。アレは、魔術を使ってるようだが、人間の使う魔術はあんなふうなのか?」
「だから、アレは人間じゃないから。じゃあ何?って訊かれると困るけど。人間と魔族は多少の違いで済むけど、アレって多少じゃない違いだから」
……アレって、私のことじゃないよね?
ソードと魔族の男のやり取りを黙殺しつつ、料理を作り終えた。
「出来たぞー。……魔族の男よ、食べると死ぬような食材や、好き嫌いはあるか? 私は残されるのが嫌いだ。残されたら殺して食材にする。なので、先に言ってくれ」
「……食べて死ぬ食材はないが、そもそも食べられるものなのか?」
魔族は疑いのマナコで料理を見つめながら返してきた。
私は顎に手を当て、考える。
「……うーむ、どうだろう? 知り合いの魔族の少年は特に何も言ってなかったが……」
言ってないけど聞いたわけでもないな。
だけど人間の手で育てられたのだから、普通に食べられるんじゃないかな?
腕を組んで首をひねっていると、ソードが助言した。
「違う意味で言ったと思うぜ? ……ここの国じゃ、ダントツ……つーか飛び抜けてうまいモン作るのがコイツだ。信じられないなら食わなくていいし、ま、試しにちょっとだけにしたらどうだ?」
後半は、魔族の男に言い聞かせるように尋ねた。
「そうだな。少し盛り付けるので、試しに食べてみればいい」
私はソードの言葉にうなずいて、ちょっとだけ盛りつけて渡した。
ソードは大盛りだ。「大盛りにして!」って言ったからね。
ソードったら、盛りつけている間に勝手にエールを飲み始めているわよ。
……いいけどさー。ホントーに酒が好きだな!
魔族の男がソレを見て羨ましそうにしていたので、私は一喝した。
「お前は駄目だぞ! 酒は脱水症状を加速するからな! その経口補水液を飲むんだ!」
叱ったら、魔族の男はうな垂れた。
魔族の男、パスタとサラダを食べ、ポタージュを飲み、
「大盛りにしてくれ」
って空になった皿を突き出した。
食事が終わり、魔族の男が真顔で私に尋ねた。
「で。お前は、人間でないならなんなんだ?」
…………。
私は思わずスンとしてしまった。
ソードが変なこと言うから、魔族の男が真に受けているじゃないか。
「人間だぞ! 確かに私を産んだ女はオーガよりも残虐で、交尾した男はデーモンよりも悪逆非道だったが、私自身は人間だ! 私は幼少の頃叡智を授かったのと、劣悪な環境から脱却するために自身を徹底的に鍛えたからこうなったのだー!」
私が叫んだら、ソードがボソリと言った。
「ドラゴンのブレスを浴びても死なない人間だけどな」
それを聞いた魔族の男が、凍りついて私を見た。
私はさらに叫ぶ。
「鍛え方が足らんのだー! 鍛えたら、ドラゴンのブレスごときで死なんのだー!」
「「そんなワケあるか」」
ソードと魔族の男が声をそろえた。
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