第312話 魔族の男って変わってるよね

 魔族の男、だんだん動けるようになってきたらしい。結構頑丈なのだな。それとも、まだ熱中症初期段階だったんだろうか。

 ――と、魔族の男が自分の状態に気付いた。自分の身体を見下ろして顔をしかめる。

 スッポンポンに剥いて、補液に漬けたからね。

「おい。俺の着ていた服と荷物はどうした」

「汚かったから洗濯した。私が丹精込めて作ったゴーレムの、そのまた中にある新品魔導具に汚いものを入れたくないだろう?」

 魔族の男、目が点になった。

 なによ、裸を見られたからって乙女じゃあるまいし、そう騒がないでよ。

「大丈夫だ! 私は男の裸は見慣れてる! ふにゃんふにゃんのアレなどよーく見慣れてるからぎゃー!」

 皆まで言う前にソードにアイアンクローされた!

「悪いな、下品で粗雑な相棒でよ。でも、治療に必要だっつーんでしょうがなかったんだ。俺が脱がしたから安心してくれ。でも回復したからいいだろ? 服も荷物もそばにまとめて置いてある。動けるようになったなら、横にある布で身体を拭いて着替えてくれ」

 魔族の男はキョトンとしたが、顔を動かして荷物と服が横にあるのを確認して安心したらしい。ゆっくりと手を動かしてこちらを指差した。

「……お前たちは、神官とやらか?」

 私はソードにアイアンクローされた部分をなでながら首を横に振る。

「違う。冒険者だ」

 魔族の男は、意味がわからないという顔でこちらをボーッと見つめる。

「…………すまない、もう一度聞く。神官じゃないのか?」

「違う。冒険者だ」

 私がすぐ否定すると、魔族の男が黙った。

 しばらくしてから、魔族の男はまた尋ねた。

「……人間の、冒険者とやらは、治療も出来るのか?」

「人間の冒険者が出来るかどうかは知らないな! 私は出来るけどな!」

 魔族の男は本気で意味がわからないようで、口を開けて私を見つめた。

「ごめん、普通は出来ないって考えていいから。話してて分かったと思うけど、コイツはフツーじゃないから」

 ソードが魔族の男に向かって、優しく諭した。


 また少し経ったら魔族の男はかなり回復したようだ。とうとう動けるようになり、ノロノロと起き上がった。

 けっこう頑丈だし、動けるのならばもう経口摂取でも大丈夫だろう。

「ホラよ」

 ソードが魔族の男にタオルを投げ渡す。

 それを受け取り、しばらくタオルをじっと見た後、ゆっくりと身体を拭いた。

 魔族の男は服を取ろうと身体の向きを変えようとしたが、かなりフラフラしているので止めた。

「ふむん。まだ無理そうだぞ? 寒くなったのならとりあえずコレを着ろ」

 バスローブでくるんでやった。

 ついでにお姫様抱っこで簡易ベッドに運んで寝かせてやった。カウチとも言うが。

 背もたれを作って上半身を上げる体勢にしたので、動きやすいだろう。

 魔族の男が私をじっと見たので、冷やかすように見返してやった。

「なんだ、惚れたか? 悪いが私は独身主義なので、お断りだ」

「俺は男色じゃないし、そもそも人間に惚れるのはあり得ない」

 わけのわからないことを返された。魔族には、私のような見目麗しい少女が男性に見えるのだろうか。他種族だからかな!

 ソードが爆笑して、私を指差しながら魔族の男に返す。

「どっちも勘違いしてるっつーの。コイツは女で、インドラは自惚れ過ぎ」

 うん? 自惚れ過ぎってなにがだろう?

 魔族の男、ソードと私を見比べるように見た後、私を凝視した。

「…………人間の、女の子供は、無性なのか?」

 とか言われたけど。言われたけど! うむむ……。完全に否定できる確認をしていないので、黙るしかない。あるいは、魔族の女性は幼女でもボンキュッボンなのかもしれない。


 魔族の男はウトウトした後、また目を覚まし、ゆっくりと手を動かしたりして状態を確かめている。

 どうも早く身体を動かしたいようだが、頑丈とはいえまだ早いと思うぞ?

 私は魔族の男をなだめた。

「そんなに無理をするな。まぁ、無理をして出て行ってもいいけどな。死んだらアンデッドになるか実験する」

 それを聞いた魔族の男がジロッとにらんできた。

「人間とは、本当に非道で残酷な生き物だな!」

「そうだな。私も大いに同意するぞ」

 私が大きくうなずいたら、呆気にとられているし。自分が言ったんじゃないか。

 私は大げさに肩をすくめた。

「それにしても。……魔族の知り合いは一人しかいないが、そいつは随分と甘ったれだったしお前もそんな感じだな。周りから甘やかされ厚意を受け取るのを当たり前と思っていて、冷たくされると非道だ残酷だと嘆き悲しむのが魔族という生き物なのか?」

「そんなワケないに決まってるだろうが!! 侮辱するな!」

 えぇー。そんなワケないって言われても、そうとしか考えられないんだけど。

 私が首をかしげて見つめると、魔族の男は、顔をそらした。

 なんだなんだ?

「……俺は、人間になど助けられたくなかった。だから、礼を言わない」

 なるほど。魔族は人間に助けられたくないのか。ひとつ学んだ。

「そうなのか。じゃあ、放り出した方がいいか? 今から放り出そうか?」

 私が親切に言ってやったら、魔族の男は口をつぐんでしまった。なんで?

「うん? 人間に助けられるくらいなら死んだ方が良かったか? 治療カプセルのデータは取れたことだし、ならば希望どおりお前を放り出してやるぞ?」

「助けてくれて感謝する」

 って、魔族の男が急に言い出したよ。なんでぇ?


 …………魔族の男って変わっているな。

 スミス君は吹っ切れてからは普通になったけれど、その前はこんな感じだったもんなー。

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