第288話 打ち上げをしようよ
「……あとは、店の警備およびメンテナンスのゴーレムたちだ。ホーブ、光学迷彩を解いてくれ」
皆が驚くほど現れた。
「普段は姿を見せないようになっている。これも私が作ったゴーレム、ホーブだ。店のことに関しては完璧に把握してるので、わからなくなったらコソッと聞くと教えてくれるぞ。仲良くなったらコソッと聞かなくても教えてくれる、かもしれない」
「「「「「こんにちは、私は、ホーブです!」」」」」
ワサワサ挨拶してくれた。
――と、全員を紹介し終わりまして、宴会です。
汚れたら困るようなものは片付け、テーブルクロスを広げた。
私とお気楽メンバーは調理。
プミラ嬢も手伝うとやってきた。
「店を手伝っていたな。裏方だったが良かったのか?」
オーナーの妹なのだから、表に出て挨拶してもよかったと思うが。
「今は裏方に徹します。……アドバイスありがとうございます。兄にはしばらく休んだらどうかと言われてましたが、働いた方が良かったです。今日は特に緊張して余計なことなど考えず走り回りましたから、おかげでちょっと気が晴れました」
ニコリと笑顔を向けられた。
「うむ。元婚約者がどういう人間だかはわからないが、どんな人間だろうとどうでもいいのだ。他人の言動を思い煩って悶々と過ごすより、自分のためにいろいろ経験し楽しみを見つけてイキイキ過ごした方がいいに決まってる。自分を一番大切に思いやれるのは、自分だけなのだからな!」
私が言い切ると、思い切り笑われた。
「すごい言葉ですね。説得力がありました」
「私の生き様だからな! 私は、血のつながりのある人間はろくでなしばかりだったのでとっとと見限り、自分のためだけに生きている。自分の次くらいにはソードを大事に想っているが、一番は自分だ。他人に大事に想われなくても、私が私を大事に想っているからいいのだ。私も他人をこれっぽっちも大事に想ってないし、私が楽しむ糧になってもらうからな!」
ここまで言ったら、プミラ嬢は目を見開いた。
「……すごいですね。そこまでは割り切れませんけど……でも、自分を憐れむのはやめて、兄を手伝います。こんなに立派なお店じゃ、それこそいくら人が手伝っても足りないくらいでしょうから」
おぉ、いい子だな。
自分のためでなく兄のために働くのだからな。麗しい兄妹愛だ。
さーて祝だゴチソウだー。
料理はガンガン作って大皿に盛り付けていく。
ショートパスタで大皿グラタン風のものとか、肉と野菜のグリルとか、固いパンをスライスしたものにカナッペを乗っけたものとか、焼売とか、フライドポテトに各種フリッターとか、ガンガン作って盛った。
お気楽メンバーはもう屋台のプロ、あるいはフードケータリングのプロと言ってもいいね、滞りなくテキパキ働く。
元々出来る子たちだったけど、ますます磨きがかかってるさ!
私は感心して、メンバーたちに声をかけた。
「お前たち、もう屋台で独立出来そうだな。その勢いで嫁さん婿さんをゲットすればどうだ? やってくる適齢期の男性女性に声をかけまくれば一人くらい釣り上げられるかもしれないぞ?」
「「「「「無理でーす」」」」」
声をそろえられた。
ドリンクを配り、サーブはお気楽メンバーにお願いして、ベン君と共に乾杯の挨拶。
「緊張が解けてはっちゃけたいのはわかるが、明日もあるので酒はほどほどにな。私からは以上だ。それではベン君、挨拶をお願いする」
「みなさん、よくやってくれたッス! 一発目に公爵家が来店とか、どうすんだコレって思ったッスけど、なんとかなって、おまけに度胸もついたッス! もう、なんでもドンとこい! って感じッスよ! この先もいろいろあると思うけど、みんな頑張って乗り越えてきましょー! では、成功を祝して、かんぱーい!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
皆笑顔で飲んだ。
で、すぐさまフードに殺到。
殺到されても鮮やかにさばくお気楽メンバー。
君たちは本当にデキる。
なのに、なぜ主体性がないのだ?
あと、結婚したいならもうちょいガツガツしろ。
私は適度に料理をつまみつつ作る。
従業員たちはものすごく食べるので、想定していた量を超えてしまい、追加が必要になった。
ソードは力作業を手伝いつつ、キッチンに籠もって食べている。
並ぶのが面倒なんだ。そうなんだ。
「本当に、本当に雇っていただいてありがとうございます! 一生ここで働きます!」
貴族の従業員が、感激したような声で泣きながらベン君に言っていた。……彼、いかにも貧乏貴族の見本みたいでかわいそう。
貧乏でも貴族だと体面があるから、無駄な出費をかけないといけないらしい。長男以外はみそっかす状態でほぼ空気以下、無駄飯食らいは毒ガス扱いだそうだ。
あれを見るとつくづく思う。
「やはり、貴族を捨てて正解だな」
「俺も、アレを見るとそう思うぜ」
横で見ていたソードも、私のつぶやきに同意した。
念のため、お気楽メンバーに、
「ここで働きたいなら、ベン君に口をきくぞ? どうだ?」
って聞いたら、全員が高速で首を横に振った。
ちょっと驚く私。
「主体性がないお前等にしては珍しいな」
命令したらなんでもやる子たちのような気がしていたけれど。
「屋台は楽しいんです!」
「気楽に売れるし、おいしいって声をかけてもらえるし、やりがいがあるんです!」
「ここは無理です! 俺たちみたいなのがいちゃいけない場所です!」
「敷居高すぎですよ! 屋台がちょうどいい距離感なんです! 客も俺たちもおんなじくらいの平民で、気楽なんです!」
熱く語られたし。
「……まぁ、お前たちに野心がないのは知っていたけどな。そんなに嫌なら屋台要員でいいぞ。あのシャノンはずっと貸してやるから。でも、早いとこ嫁さんと婿さんを見つけろよ? そうしたら、拠点の屋敷に住んで新たに屋台を開くなり拠点の仕事を手伝うなりして、根を下ろせよ?」
「「「「「はーい」」」」」
あら良い返事。
ベン君は惜しがっている。
「残念ッスねー! 料理の腕も確かで平民向けの料理が作れるなら、三階で軽食も出せるなって思ったし、そうじゃなくても仕入れの旅についてきてくれる人材はほしいんスけどねー」
ぶるぶるぶるぶる。
お気楽メンバーが再度、首を横に振ってお断り。
まぁ、なんだかんだ今まで旅をしながら食事処なんかで働いていたのは、そういった生き方が好きだからだろう。
根を下ろそうかなって言っていたけれど、まだ本気で下ろすつもりはないみたいだな。
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