第287話 リョークが!

 別れ際、エリー殿がささやいた。

「我がままを言って箒を貸してくれた礼に、内密に伝えておく。……君にしきりに話し掛けてきた貴族の青年は、サマーソル公爵令息、君の母親の弟だ」

 ほう。

 母親と恋仲ではなかったのか。血縁で言うなら、私の叔父に当たる人だな。

 私の反応を見たエリー殿が肩透かしをくらったような顔をした。

「……あまり動じないな」

「縁を切り、野に下ったところへ血縁が現れ話し掛けてこられてもなぁ。成功した人間に群がる親戚はろくでなしというセオリーもあることだし」

 肩をすくめる私に、エリー殿が笑った。

「確かに、貴女には援助などいらないな。一人で地に足をつけ踏みしめ、揺るがない。むしろ貴女の成功のおこぼれに群がる野獣の方が多いか」

「群がる野獣は今のところ現れないし、むしろ現れたら楽しいと思うので待ちわびるが、援助は確かに要らないな。富はどうにでも手に入れられるし、名声はいらないし、位を誰かに与えられるなど真っ平御免だ、私の方が偉い」

 エリー殿がまた笑う。

「噂通りの傲岸不遜さ、だけど嫌いじゃない。貴女ほど自由に生きている人はいないだろう。……これは個人的なお願いだ。スカーレットと仲良くしてあげて。あの子の母親として、頼みます」

「もちろん。友人として、互いに支え合うような関係を築けるよう努力することを、約束する」

 エリー殿と握手を交わした。


 ……しかし、あの青年は叔父だったのか。

 私の愛らしさに一目惚れして、口説いてきているのかと思っていたのになぁ……。


 招待客の皆さん、ようやく買い物は終わったらしい。

 男性陣は休憩した後またあちこち見て余計な買い物をして散財したようだ。

 女性陣は二階で充分満足したようで、早速使いたいと帰りたがったので帰途についた。

 接客のアドバイスをいただけないかと言ったら、口々に『貴族への接客としてはなってないが、商品でカバーして有り余るので問題ない』ってことで。

 逆にあんまりにも完璧なる接客をされると、はっちゃけられないので困る、みたいなことをオブラートに包んで言われた。

 なるほど。ショートガーデ公爵だけではなく、実は皆さんもマナーを放り出したかったのね……。

『平民向けのお店ですもの、多少はマナーを外しても、ねぇ?』らしいよ?

 一同、外へ出て並んで深々と礼。

 そのまま馬車が完全に去るまで頭を下げ、その後ベン君が万歳しながら頭を上げた。

「今日一日で、店を建てるために使ったお金を取り戻しましたー!」

 ワーッと拍手。

 ……公爵家の方々、そんなに使ったのか。

 見栄もあるだろうからかなり用意してきたのだろうけど、大丈夫なのだろうか。

「公爵たちは散財した金額に後日、頭を抱えなければ良いが」

 私が心配すると、聞いていたベン君は朗らかに返した。

「ま、それはそれ、コレはコレ。インドラ様、お祝いしましょう! みんなも、今日はよくやってくれました! こんな感じでずっと続くといいなー、ま! 今日ほどの売り上げはなくとも今日のお客様は全員ひいきにしてくださるそうですので、安泰ッス!」

 ベン君がはっちゃけているぞ。私はベン君をなだめた。

「まぁまぁ落ち着け。では、祝いをしよう。皆も頑張ったな。今日のお客様がたは上流貴族の中でも非常に穏やかで寛容な方々ばかりだったので今後もこの調子でいけるかはわからんが、他の貴族に脅されても彼らに頼ればどうにかなるだろうし、最悪、私とソードで武力制圧するので問題ない。何かあったら呼んでくれ」

「「「「「はい!!」」」」」

 副店長のバロック嬢が、「どこでいたしましょうか? この人数ですと、どこかを予約しなければならないですけれども……」と気を利かせたので、彼女を制した。

「三階を片付けて、飲食すれば良いだろう。それを想定してキッチンは作ってある。私と私の屋台要員である者たちが調理すればあっという間だ。屋台用のエールやシードルもサービスしてやる」

「「「「「やったーーーー!!」」」」」

 特に喜んでいるのは【明け方の薄月】チームとベン君だ。

「え……ですが……」

 逆に戸惑っているのはバロック嬢。

「インドラ様の手料理はこの国随一なんスよ! めっちゃくちゃうまいんです! めっちゃくちゃ!」

 ベン君が力説してくれた。

「料理は控えめに言って得意なのでな。というか、ものづくりが得意だな、控えめに言って」

 控えめに言わないと、ベン君の言う通り。


 お気楽メンバーに無線で連絡し、来てもらう。

 ふと思い出したので、準備のために立ち去ろうとしたバロック嬢に声をかけた。

「お、そうだ。ベン君の右腕なのか半身なのかわからないが、ベン君が信頼をおいている貴女に、これを渡す」

「はい?」

 バロック嬢に、タブレットを渡した。

「ベン君のほどではないが、これも店の操作が出来る。基本は護衛ゴーレムが行うが、貴女も操作を覚えて使ってくれ。あと、護衛ゴーレムをかわいがってやってくれ。それは、他の皆にも伝えておく。護衛ゴーレムは知能があるので、かわいがられると喜ぶし、張り切るし、護衛に念を入れたりする。なので、かわいがってくれたまえ」

 シュタッ!

 私の言葉でリョークたちが現れた。

「「「こんにちは! ボクは、リョーク!」」」


 続けて、ソードのお供のリョークがしゃべる。

「僕は、ソードさん専用のリョークだよ!」


 さらに、私のお供のリョークがしゃべった。

「僕はお母さんのお供のリョーク!」


 ぱちくり。


 私は目を瞬かせ、リョークを指さした。

「おぉおおお前? 今……」

 私のお供のリョークが、今、オリジナルなセリフを言ったぞ!?

「お母さんを喜ばせようと思って、挨拶を考えましたよ、エッヘン!」

「リョークぅううううう~!!」

 感動して抱きついた。ヒシッ!

「「「「「…………」」」」」

 皆に生ぬるい目で見られているらしいが気にしない!

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