第281話 空飛ぶ箒は魔法少女が乗ってこそ!

 警備のリョークは三台。

 うち一台は妹さんの護衛となる。

 まず狙われるのは妹さんだからね。

 ホーブももちろん警備する。

 契約した奴隷は清掃員で使う。

 下水だけでなく従業員の共用部分や店の清掃を行うらしい。

 従業員ももちろん掃除をするけれど、他にも仕事がたくさんあるので細かに清掃するのは契約奴隷だそうで。

 確かに、掃除って大変だもんね。


 到着した従業員が感激しながら店の中を歩き回り、そして商品を並べていく。

 酒は、ベン君が最も信頼している、店を開くときに一緒にやろうと約束した友人に頼むそうだ。

 そして、貴族対応で下っ端貴族の青年がサポートとしてつくことになった。

 一番最初に買いに来るの、ショートガーデ公爵だし! あの人なら多少失敗してもいいもんね!

 ソードがバックについている店で変なことはしないだろ……いやある意味奇行に走りそうだけれど「無礼者! 手打ちにいたす!」とかはないね。絶対にならないね!


 そんなことを考えていたら、あっという間に店内準備が佳境に入った。プラナとサハド君がちょこちょこ装飾品を作り、従業員が商品を並べ、私が店内マップに商品の場所を書き込んで貼り出し、最後に空飛ぶ箒を飾った。

 ふわふわ浮かぶ箒を見て、ベン君が尋ねてきた。

「コレ、乗れるんスか?」

 私は肩をすくめた。

「私は乗れるしソードも乗れる。他の人間が乗るのなら、ブロンコに乗るくらいの重装備にしてから乗った方がいいな。落ちたらただでは済まない」


          ***


 ――プラナとサハド君とキャッキャウフフしながらこの空飛ぶ箒を作っていたら、ソードがもう隠しようがないほどに物欲しそうな顔をして見ていた。

 ホント━━━━に、新しい子に色目を使わずにはいられない男だな!

 私たちの周りをウロウロするソードを無視しつつ試行錯誤をした結果、無事に空飛ぶ箒は出来上がった! 試験運転として、何か起きても死ななそうな私がまず乗った。

 結果は問題なし。なのでぜひとも二人にも乗ってほしいと懇願したが、プラナは運動神経がないからボクには無理! と乗らず、サハド君は乗ってくれたけれど、怖いと言ってすぐ下りた。

 ――で、ソードが、箒を持つ私の後ろをぴったりとつきまとい、無視していたのだがとうとうこらえきれず諦めてソードにも乗らせた。

 すっごい満喫してた。

 以上、脱線終わり。


          ***


「見本見せてやろうか?」

 ってソードが乗っちゃったよ……。

 店の中を乗り回している。

 私はそれを見上げつつ、残念感で胸をいっぱいにした。

「男が魔法の箒に乗って誰得だ? アレは魔法少女が乗ってこそなのだがなぁ……。スカーレット嬢、どうだ?」

 水を向けたら、スカーレット嬢にすっごい勢いで首を横に振られた。

 むぅ。絶対かわいいのに。

 あと、女の子は……と周りの店員の少女たちに目を向けると、全員高速で首を横に振る。

 ぬぅう。

 スカーレット嬢が、責めるような口調で私に言った。

「インドラ様が乗ればよろしいじゃありませんか」

「魔法少女なら、スカートで乗るのがお作法だろ! 私はズボンをはいてるので駄目なのだー!」

 って叫んだら、一同に白い目で見られた。

 スカーレット嬢が、ますます責めるような口調で私に言う。

「……インドラ様にやましい考えがないのは承知しておりますけど、スカートをひらひらさせて上を飛んだら中が見えてしまいますわ」

 あ、そゆ事。

「ならば、見せパンツ用のティアードレース満載カボチャパンツを貸し出そう。ホラ、これをはいたら見せても……」

 取り出して広げて見せたら、ブリザード級の白い目で見られてしまったのだが……。

 ベン君がゲラゲラ笑っている。

「インドラ様って、ホンット残念ッスよね! 女の子のパンツ持ち歩いて履かせようとするとか、変態っぽいッスよ!」

「そういう君はホンット余計な一言が多いぞ?」

 ベン君の口を横に引っ張ってやった。


 その後、【明け方の薄月】が乗りたいと名乗りを上げたので、女子の二人に乗ってもらう。

 スカートではなくて残念だが……。

 途中で操作がきかなくなってパニクっていたのでリモコン操作で下ろしてあげた。

 ベン君が驚いて私の手元を見る。

「遠隔操作出来るんスか!」

「そういう玩具として作ったのだ。乗れる人間の方が少ないと思うしな。もしも『売ってほしい』と言われて粘られたら、白金貨千枚で三日間貸し出す、と持ち主が言ってたと伝えろ。これは、店内ディスプレイ商品だからな」

 ファンタジー世界のお店感を出すための飾りだから。


 スカーレット嬢と私による、従業員への簡単な接客教育も終え、一番初めの客としてショートガーデ公爵夫妻とその友人を招いた。

 接客教育の一環だ。

「いきなり上流貴族って……」

 ベン君やら従業員がゲッソリしているが。

「君がいた町の商店よりも、その商店の息子と結婚する女の商店よりも、もっと大きな店にしたいのだろう? 王都中どころか君のいた町にもその名をとどろかせたいのだろう? これくらい出来なくてどうする」

 そう説教したら、ベン君はハッとして姿勢を正した。


 従業員の制服はイースの服飾屋さんで作ってもらった。

 王都だと高いからね。

 ベン君には私謹製スーツをプレゼントした。

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