第282話 プレオープンは御貴族様です
馬車が到着し、ドアマンが案内して入ってきた。
「インドラ殿!」
開口一番にショートガーデ公爵が私を見て万歳した。
「お久しぶりです、ショートガーデ公爵」
ニッコリ笑って挨拶した。
「これまたすごい店を作ったな!」
「非常に世話になっている商人の、たっての頼みでしたから。私が描く『この世界の大商店』と、ソードが描くことすら出来ない『ワクワクするような大商店』を建築いたしました。私とソードの拠点でしか作られていない商品も多数この店で取り扱っております。どうぞごゆるりとお楽しみください」
私の店じゃないし、まず店長に挨拶してくれと思ったが愛想笑いで誤魔化した。
ちなみに、今日の私はスーツ着用。ベン君と色違い。横にはスカーレット嬢。
スカーレット嬢も案内係だ。
ショートガーデ公爵なら多少の失礼は平気だろうが……既に開口一番店の主人ではなく私に話し掛けているところでアウトで、公爵夫人がこめかみに血管を浮き上がらせているくらいに互いの無礼を許容してくれるだろうが他の客人がわからないので、スカーレット嬢にそのケアをお願いすることになった。
まず、店長のベン君と、ベン君の友人である副店長のバロック嬢(女性だったよ! ベン君のオンナかな?)を紹介して、店の中を紹介する。
公爵夫人、まずディスプレイされた空飛ぶ箒に顔が向いています。
……この人、ソードと近しいものを感じる。絶対ガジェット好きだ。
しかも、身体全体使うような運動神経いるヤツが特に好き。
「……あれは何でしょう?」
全員の目が浮遊する箒に目が行き、ショートガーデ公爵は飛んでった。
「『空飛ぶ箒』です。非売品の玩具の魔導具ですね。ディスプレイとして表通りから見えるウインドウに飾ると客寄せになると思いまして」
ショートガーデ公爵が瞳を輝かせて私を振り返る。
「インドラ殿は、コレに乗れるのか!?」
あぁあ……。ソレ聞いちゃう?
君の奥さんの自制心が吹っ飛ぶカモだぞ?
「まぁ……。私とソードなら乗れますが、Bランク冒険者でも最初は厳しいようです」
その回答に公爵夫人が食いついてしまった。
「ふむ。貸し出しは?」
観念して、私は答える。
「三日間で白金貨千枚」
貴族様方が、ザワッとざわめいた。
私は両腕を広げる。
「つまり、平たく言うと、貸し出しも販売もしておりません。あれは、店に飾る『客寄せアイテム』ですから」
これで諦めてくれるかと思いきや!
「……この場で十分ほどはいかがでしょう」
公爵夫人、粘るなー!
そんなに気に入ったのか!
やっぱソードと同じ方向性の人だよ!
ため息をついてベン君を見た。
「どうぞインドラ様のご随意に」
ベン君、私に投げた!
私はもう一度ため息をついた。
「……全ての案内が終わった後で、着替えましょう。その服で乗っていただきたいのは山々なのですが、万が一にもケガをされますと、本当に困りますから」
「無理を言って済まないな」
公爵夫人に笑顔で言われた。口調がかっこよくなったし。それが素なのかな?
クスリ、とスカーレット嬢が笑う。
「インドラ様は女性に幅広くお優しいのね」
私は静かに訂正した。
「勘違いされてますよ、スカーレット様。私は女性
かわいいモノ全てにです。
あちこち案内すると、公爵は常時興奮状態、他の客も感心してだいぶくだけてきた。
……と、一人、招待客の中では一番若い青年貴族が寄ってきた。
「貴女はどうして男装を?」
ぱちくり。
目を瞬かせた後、感動した。
私を初見で女性だと見抜いた人間は、この人が初めてカモだ!
「私ですか? 今日はスカーレット様のエスコートで男装をしています。貴族の男性エスコートを学んでいるのが私だけでしたので、しかたなく。本来はドレスでお迎えしたかったのですが、非常に残念です」
まくしたてたのに、この人ドン引きしない。大体この勢いで話すと誰もが引くのに!
「そうでしたか……。それは非常に残念でした。私としては、貴女のドレス姿を是非目にしたかったのですが。さぞかし美しく愛らしかったでしょうに」
おぉおおお! この人は分かってる!
「いやいや、それほどでも……ありますね。私ほどの美少女はそういないと思いますから。でもまぁ、この格好でも、私の愛らしさはそう損なわれないかと思います」
私がそう言うと、三度ほど目を瞬かせた後、クスリと笑った。
「面白いお嬢さんですね」
「自分ではさほどでもないと思うのですが、よく言われます」
正直なだけなんだけどね。
先に案内しているベン君は、ガッチガチに緊張しつつも頑張っている。
「恐らく女性の方は二階の商品にご興味があるかと思いますが、その前に、我が商店とっておきの、酒の販売ルームにご案内いたします。ここは特に殿方が非常に好まれるであろう造りになっておりますが、女性の方も感動されるかと思います」
まず、酒の販売ルームに続く廊下に通しただけで招待客全員が絶句した。
そして女性の招待客の一人がディスプレイされている瓶に食いついた。
「こちらは販売されていますの!?」
ベン君がチラッと私を見るので私は軽くうなずいた。
「瓶だけでも、酒を満たしても販売しておりますが、非常に高価になります」
「価格を教えて下さい! 先約いたします!」
すさまじい食いつきようだ。
確かに、硝子彫刻や絵付けの磁器や工芸磁器の瓶はサハド君とメイド長が頑張って作った、作家物と言っていいくらいの出来栄えなのよ。
また作ってもらおうっと。
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