第274話 箒が飛んでもいいじゃない
ベン君が出迎えてくれたので、スカーレット嬢を紹介し、現場に案内してもらう。
繁華街から離れ、住宅街とまではいかないが空き地が目立つ土地に来た。ベン君いわく、
「ここならいろいろやりやすいんじゃないかって思って。一見さんがぶらっと入る店じゃなくて、俺の店目当てでくるお客さんをターゲットにしてます! あ、一応俺の住む家も隣に建てる予定で、その後ろに従業員の住まいを建てるつもりっす!」
らしい。
「そうだな、何者かに襲撃されたとき、迎撃して周囲に被害を出すと賠償問題でうるさくなりそうだからな」
私はうなずいた。
周囲を自分たちの住み処で固めれば楽だよね。
タブレットをベン君とソード、プラナとサハド君に渡した。
「開発途中なので未完成だが、今回のプロジェクトで使うと便利なので貸しておく。使い方は後で説明するとして、まずは考えた設計図だ」
ホログラフィで見せると、皆さん「おぉー」と感動してくれた。
「うわー、ファンタジック! まさに魔法の国の店って感じ!」
とはアマト氏談。
「素敵じゃありません事? 映画に出てきそうですわ」
とはスカーレット嬢。
「かっちょいいっすね! イカすと思います!」
と、ベン君も悪くないようだ。
ソードだけが、
「ふーん……。お前が作るんだから、もっと変わってるのかと思った」
とか言い出してるけど。虫の形を期待していたのかな?
「ショーウインドウに空飛ぶ箒でも飾ってやろうか。それとも闘う杖にするか」
私の言葉にウケたのは別世界出身二人で、ベン君たちはびっくりしてる。
「えっ? インドラ様、そんなの作れるんスか? 是非お願いしゃース!!」
って本気にされたし、プラナとサハド君にも、
「わー! さすがインドラ様! ボクも一緒に作ってみたい!」
「僕も作りたいです!」
って言われたし。
ソードは笑っているアマト氏とスカーレット嬢を見て、驚いたように尋ねた。
「何? やっぱ別世界には空飛ぶ箒あるの?」
……ソード、なぜ空飛ぶ箒に拘るのだ。
「「ありません」」
二人がキッパリ否定。
「でも、ここってお話の世界のようですから、この世界にはあってもおかしくないですわ?」
「やっぱ、定番でしょ。むしろなんでこの世界にないのかなーって思うね」
二人が口をそろえて言ったら、別世界を知らない皆から何言ってんだって目で見られた。
だが、私も二人の意見に賛成だ!
「私もそう思う。魔術があるのだぞ? 呪文を唱えると炎や水が飛び出すこの世界で、空くらいなぜ飛べないのだ。巨大なドラゴンが飛べるんだから、箒だって飛んでいいのだ!」
アマト氏とスカーレット嬢から拍手された。
他の皆からは呆れて物が言えないみたいな顔されてるけどさ。
まぁ、科学力を考えれば別世界の方が何飛んでもおかしくない世界なのかな?
宇宙にだって行けちゃう世界だったもんなー。
「でも、別世界は鉄の塊が人を乗せて飛ぶ世界だったからな。むしろ別世界の方が、箒が飛んでもおかしくないのか」
科学の力でそのうち誰かが空飛ぶ箒を開発したかもね。
「鉄の塊が飛ぶのかよ!?」
私のつぶやきを聴いたソードが叫んだ。
「飛ぶねー」「飛びますわね」
アマト氏とスカーレット嬢が、真顔で肯定した。
「すげーな……」
ソードが感心したが、
「いやいやソードさん。ソードさんが持ってるシャールも飛ぶじゃないスか。鉄じゃないけど塊が人を乗せて飛んでます」
ってベン君に言われて思い出したらしい。
「あ。そっか、飛ぶな」
忘れていたのか。
それでふと思いついて聞いてみた。
「そういえばスカーレット嬢は魔術が使えるのか?」
スカーレット嬢、う、と詰まった。
「……確かに魔術は得意の分野ですわ。でも、インドラ様のように自由自在には出来ませんの。詠唱しないと無理ですし。生活魔術程度で良いのですが、なぜか威力がすごくて……被害が大きいのでよほどのことがない限り使わないようにしていますの」
転生チート令嬢っぽい発言をするスカーレット嬢。
アマト氏もスカーレット嬢の言葉に同意した。
「あー……。俺も王城にいたときに詠唱覚えさせられて、その後インドラ様から手ほどき受けたんだけどさー。インドラ様の理論はすごすぎて、俺だと詠唱した方が楽だなー。学校教育受験戦争を体験した身としては、暗記の方が楽」
そうかな?
アマト氏も勇者なだけに威力がすごそうだが、軟弱なのがなぁ。まぁ、生き物係に魔術の威力はいらないか。
――魔術が使える世界も使えない世界も、空飛ぶ箒には夢と浪漫が詰まってるらしい。
ソードもしつこく聞いてくるってことは、気になるのだろう。
プラナとサハド君とで作ることが決定。
まぁ、最悪人は乗せずにリモコンで操作する玩具にすればいい。
ショーウインドウに非売品で飾っておくことになった。
「地下に酒のセラー及び販売所を作る。近未来的にしようと思う。壁面収納で、ぱっと見まったく継ぎ目は見えないが、触れると内部に灯りが点り、切り取られたかのように引き出しが開くようにする。ガラスと透明板を多用し、ディスプレイで酒を宙に浮いてるように飾ろう。真ん中にぽつんと販売スペースを置く。階段も、透明素材でステップが浮遊しているように魅せるか」
私が解説をすると、アマト氏に感心された。
「おぉー。すっげー近未来的っぽい!」
スカーレット嬢がふと思いついたように、頬に指を当てる。
「あ。階段は、歩くとステップに灯りが点るのはどうです?」
「おぉ! いいな、スカーレット嬢の案、採用」
私が思わずスカーレット嬢を指さすと、スカーレット嬢はうふふ、とうれしそうに笑う。
「前世でやった乙女ゲーで、そういうシーンがありましたの。攻略対象と腕を組んでステップを降りるスチールが素敵でしたわ」
…………そうなんだ。
やっぱり英知の方向性が違うと、いろいろ参考になるなぁ。
「…………なんか、スゴいの出来そうッスね」
ベン君の顔が引きつってる気がするけど、気のせいだ!
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