第232話 宿屋に戻ったら〈ソード視点〉
翌朝。
宿屋に行ったら、イワナが不機嫌な表情を覆い隠した笑顔で俺を出迎え、尋ねてきた。
……インドラってやっぱすげーな。
それとも俺がニブイだけなのか?
や、インドラがすげーの方だな。
俺だってハニートラップに遭いまくりのかわすスキルと察知スキルが熟練レベルなはずだ。
それなのにさりげなすぎてわからなかったもんな。
「……帰ってこなかったよね?」
「あぁ。やっぱ、インドラを一人にさせるのはどうかなって思ってさ。……悪いな、宿屋は引き払うよ。パートナーを放り出しちゃ良くないってわかったわ。それに、今日からダンジョン潜るしな。悪かったな、わざわざ紹介してもらったのに」
笑顔で伝えて、チェックアウトした。
「……ソードさんはやっぱり優しいね。パートナーって、昨日一緒にいた、なんだか貴族みたいに綺麗な男の子だよね?」
イワナを見た。
「……見ただけでわかるのか。あ、全部外れだけどな」
「え?」
イワナが戸惑った。
うん、何言ってるんだろ? って思っただろうね。
俺もそう思うけど、そうとしか表現できなかったから。
「いや、インドラは元貴族だから。今は平民だけどな。そんでもって超綺麗好きなんだ。最後に、あんなんでも女なんだ」
イワナ、絶句した。
「……女の子、なんだ。そっか、道理で……」
「ん?」
何が『道理で』?
アイツに『道理で』なんて使われる奇跡があった?
イワナがフフッと笑う。
「……昨日、宿に帰ろうとする貴方を引き留めたのかしら? って思って。彼女が寂しがったのでしょう? やきもち妬かれちゃったのかしら?」
…………。
そんな奇跡は起きない。
つーか、俺がすがって嫌がったとは言えねー。
「いや、違う。そもそも、インドラが潔癖症じゃなければ同じ宿屋に泊まったし。アイツ、ダメなんだよ。元貴族だから、宿屋に泊まれないんだ。なら野宿が良いとか言い出すんだよ。俺は一応見栄とか体裁があるから宿屋とかに泊まるようにしてるけど、ま、でも、最近はそういったのは放り出して一緒にいるようにしてる」
王都で借りてた家が破壊されて以来、それを表向きの理由にして見栄を張るのはやめた。
『勇者に狙われてるみたいで、王都にいたとき借りてた家を破壊された、また同じ事があると迷惑をかけるから、中で泊まれるようになってるゴーレムに泊まる』っつったら引き下がる。
――勇者の蛮行は現在この国を席巻してる様子で、ギルドもピリピリしてるし、まだこの国を出ておらず、あっちこっちフラフラして蛮行を重ねてるらしい。
勇者じゃなきゃ討伐依頼が出てるレベルだそうだ。
シャドが頭と胃を痛めてた。
シャド的には俺とかみ合わせて俺に殺させる算段をつけたいんだろうけど、インドラが怖くてできない。
以前の腹黒さはどうした、って思うくらいに情けない顔でぶっちゃけて相談してきた。
俺も、国及び王を思っていろいろ腹黒いことやってるのはわかってるので、偶然に出遭ったら殺すけど、あくまでも『偶然』。
画策したら、俺はともかくインドラが喜んで王城を破壊すると思うからやめとけ、っつったら神妙にうなずいていた。
イワナはまた微妙な顔になった。
不機嫌さを曖昧な笑顔で覆い隠してる。
……イワナとしてはインドラが嫉妬したって方がいいのか?
なんでだよ。
ま、俺にはどうでもいい話か。
「だから、俺が放り出しちゃ悪いって思ってるんだ。インドラは……放っておかれても平気なんだろうけど、俺が嫌なんでね。せっかく出来た仲間なんだから、大切にしたい」
してないけど。
頭つかんだり顔つかんだり拳でグリグリしたりしてるけど。
昨日も「気付かなかったにしろ約束したんだから行ってこい、でもって機能不全ですって告白してこい」って言われたんで両拳でグリグリしてやったけど。
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