過去の女編

第222話 山に冒険に行くよ

 今回は山側を攻めることにした。

 大分地図も出来てきたな。

 旅をしてまわればまわるほど地図が出来上がる。

 ソードもそれを見て楽しんでる。

「コレ、ホントすげーよな。お前の言ってる『ワクワクする冒険』ってヤツだわ。全部埋めたくなる」

「そうなのだ。人が住んでいる町を訪ねるのもいいが、まだ人が到達していない未開の地も行ってみたい。誰も見たことのない魔物が潜んでいるかもしれない。もしかしたら驚くほどに美しい自然の造形が見られるかもしれない。それこそが冒険なのだ!」

 ソードももはや否定しない。

 ようやくそれが冒険だとわかってくれたようだ。

「金はもう使い切れないほど稼いだろう? だから、冒険しよう。未知を探そう。浮島がドラゴンの巣でなければ、絶対に行ったのだが……」

 コレばっかりはしょうがない。

「浮島って、別世界だとそんなに行ってみたいトコなの? アマトも似たようなこと言ってたけどよ」

 アマト氏も、かの浮島を題材にした名作を見てるのでしょうね。

「夢とロマンが詰まってるはずなんだが……この世界の現実は、ドラゴンの糞が詰まっていそうだな」

 ソードもそれが容易に想像出来たのだろう、げんなりした。

「やめとこうぜ?」

「うん」

 素直にうなずいた。

 汚い、コワイ。


 現在目指しているのは、湖。

 湖って、いろいろワクワク感があるよね。

「例えば、湖に魔物が棲んでいて、美しい景観に惹きつけられる者を引きずり込み食らうとか、その湖は一度入ったが最後二度と浮かんでこれないとか」

「…………ごめん。俺、ソレではワクワクできない」

 私がワクワクしながら語ったら、ソードに謝られた。うーむ。

「お前の手っ取り早いワクワク感は、〝明鏡止水〟かな。月の美しい夜に、月明かりで輝く湖に映る夜景をでつつ酒を飲む」

「ワクワクしてきた!」

 途端に叫ぶソード。

 酒が絡まないとワクワクしないのか。


 さらに進んでいくと、町……?じゃないな、小さな村があった。

 遠くから見たソードが眉根を寄せた。

「あれは……近寄ったらダメな村だ。下手すると盗賊の住みかもしれねーからな」

 ソードが変なことを言いだしたぞ。盗賊の住みは、むしろ近寄って潰さないとダメなんじゃ?

 私が首をかしげたらソードが説明してくれた。

「……盗賊ってのもまちまちで、普段は他所と交流せずにサークル内で自給自足、食うモノは自分たちで育てたり狩ったりとかして、飢饉ききんになったときだけ盗賊になって他所を襲うって連中もいるんだ。この『襲う』ってのも、襲ったやつらの命は取らないで、自分たちが当座しのげるくらいの食料を奪う程度なんだ。こうなると、襲われた方も余裕があるなら提供するし、金目のものをゴッソリられるわけでもないし、で、訴えることはほとんどない」

 ふむふむ。強制的に援助を求めてる感じだね。

られたモノが食料じゃ、とっとと食い尽くされてるだろうから被害者はギルドに依頼を出さない。腹いせに依頼を出したとして、ソイツらを捕らえるなり討伐しても、食い潰してるような村じゃ戦利品なんてないだろう。つまり依頼者は余計な出費がかさむだけだし冒険者も旨味がないので受けない。――っつー感じで見逃される事が多いんだよな」

 ソードが解説してくれた。

 ふーむ、そうか、事情があるので見逃します、というよりは、貧乏人を討伐しても意味ないので誰もやりたがらないのだな。

 ソードは前者の見逃す方だろうが……。

 村はごく小規模で子供がいるようだ。私たちは迂回うかいして通り過ぎた。


 森を抜けたら湖だった。

 美しい。

 浜辺があったので、そこに陣取って、シャールを出した。

「さて、なかなかに美しい湖だ。是非とも美しい魔物か精霊がいてほしいな」

「ま……な。いそうだよな」

 おや?

 気配察知スキルのあるソードが、何かいるのを察知したぽい。私は鼻息を荒くした。

「ふむふむ!」

「いや、いそうだっつってるだけだから。いるっつってないし。興奮するなよ」

 って言われたけど、ソードがいそうって言うのは、いるってことじゃん?

「よし! これはキャンプだな! シャールは出したが、やはりキャンプの方が盛り上がる!」

「……いいけどね。ま、なんか出た方が盛り上がるか」

 ってソードも言い出したぞ!


 まずは偵察。

 以前作ったボードがまた活躍するな。

 その前に、この湖が〝弱水〟でないか確かめないとなー。

 木を浮かべたら浮いた。

「別世界で、〝弱水〟という川に囲まれた、秘境の地があるのだ。その水は、どんなものも浮かない、絶対に沈んでしまうという水でな。だから、秘境の地に来たときは確かめている」

「ふーん……。入ったら絶対に溺れ死ぬってことか」

 うなずいた。


 むしろ、そんな水があったら成分を知りたいが(というか水じゃないと思う)、やっぱりこの世界にもないのかな?

 もしかしたら、あるかもしれないな。

 とにかく、いっぱい見よう、探そう。

 ソードと一緒に。

「……別世界では限られた者しかたどり着くことができない秘境。この世界に来て、私はきっと秘境にたどり着くことが出来る人間の一人になったはずだ。だから、もしもこの世界にも秘境があるなら、お前と一緒に行ってみたい」

 ソードが笑った。

「荒唐無稽過ぎるよな。あるかもわかんねーのに、探すのか。でも! それが『ワクワク感』なんだな。わかってきたよ」

 そう言って、私の頭をなでた。

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