第208話 すねた

 ご飯が炊きあがり、蓋を開ける。

 かなりの人数でのぞき込んだ。

「おー! 米が立ってるね!」

「うむ! 多分、お焦げも出来たぞ!」

「やったー! 俺、ソコ食べたい!」

 テンション大爆発の二人。

「あぁ……スカーレット嬢をもう少し引き留めれば良かった。このテンションを分かち合いたかったが……」

「まーま、しかたないじゃん。餃子ぎょーざもよろしく!」

 うむ! 焼きまくるぞ!


 餃子を、餃子鍋に入れて一気に百個くらい焼き上げる。

 ハハハハハ!

 大魔術師の私には造作もないことよ!

「ふはははは! 大魔術師の神髄を見るが良い!」

 相も変わらず謎のテンションを維持。

「インドラ様、かっけー!」

 アマト氏も謎のテンションだ。

 盛り付けて完成。

 アマト氏はご飯をよそい、たれも自分好みに調整したらしい。

 他の食事第一班も全員着席。

「いただきまーす!」

 アマト氏が真っ先に食べる。

 箸を巧みに使い、餃子を取って、タレをつけてパクリ。

「~~~~! うまい!」

 すかさずご飯をパクリ。

「~~~~! うますぎ! ご飯、超うまい!!」

 アマト氏、食べ方がわからない皆にジーッと見つめられているなどとは知らず、テンション高く食べている。

「そうか……。良かった、作ったかいがあった。そして、ベン君に感謝だ。二度と足を向けて寝られないな」

「俺もおがもうっと」

 二人で拝んだ。

 ベン君が、さらにドン引きしてた。


〈ソード〉

 部屋で酒を飲んでいたら、ノックされた。

 返事しなかったけど、勝手に入ってきた。

 …………インドラだ。

「すまんな、ご飯が苦手だったのか。アマト氏から聞いたところ、〝冷や飯〟派という派閥があると聞いた。匂いが苦手な場合、いったん冷やした後、再度蒸し上げると匂いが隠れて食べやすくなる。それを作ったから、試さないか?」

 …………。

「……別に、苦手なんて一言も言ってねーぞ。勝手に決めんな」

 他所向いたまま答えた。

 子供じみてる。

 わかってる。

 でも、腹が立つんだ。

 確かに、嗅ぎ慣れてない匂いだけど、まずいなんつってねーし、アマトは懐かしいんだろうけど、俺は知らねーもん。

 別に、アイツよかテンションが低くたっていいじゃねーかよ。

「…………そうなのか? そうか…………。…………今日は、第一陣に来なかったが、食欲がないのか?」

「別に。食いたくなったら食いに行く。いつ行ったって構わねーだろ」

 他所向いたまま、酒を飲む。

 アマトと二人で盛り上がってりゃ良いじゃねーかよ。

 いちいち来んじゃねーよ。

「…………何か、ツマミでも作ろうか?」

「いらねー」

 っつったら、しばらく立ってたけど、ゆっくりと踵を返して出ていこうとした。

 チラッと横目で見たら……

「…………! わー! 俺が悪かった!!」

 泣いてた!

 飛んでって抱き寄せて抱きしめた。

「悪かった! ちょっと虫の居所が悪かったから当たっちまった! ごめん、ごめんな?」

 拳で涙を拭いつつ、静かに泣いてる。

「悪かった、ホントに悪かったから。な? 泣くなよ……ごめんって……」

 どうしよう。

 間違いなくメイド嬢たちに殺されるな。

 ついでにメイド長と執事にも殺されそうだな。

 あ、つーか敵だらけになりそう。


「…………お前は、ずっと、私の料理を、おいしいって、食べてくれると、思ってた。そう、思ってた。うぬぼれてた。だから、食べて、くれない、日が、来るなんて、思っても、みなかった」

 インドラが途切れ途切れに言う。

「うまいって思ってる! つーか、俺こそが思ってるんだ!」

 叫んだ。

「アマトじゃねぇ、俺が! 俺の方がうまいって思ってる! いつだってそう思って食ってる! 初めて嗅いだ匂いなんだからちょっとテンションが低くたって別に良いだろ!? いつだってうまいって思ってるんだから!」

 涙にれた瞳で見上げてきた。

「…………いらないって、言われた」


 !!!!


「今は! ちょっと、気分じゃ無かったけど、やっぱ食う! あと、何とか派とかわかんねーから、フツーに持ってきてくれ! 別に、好き嫌いなんてねーよ!」

 叫んだけど、泣いてる顔で出てったら、間違いなくメイドに殺される。

「あ、待った。泣きやむまで待ってくれ。その顔で外に出たら、俺、メイドに殺される」

 またうつむいて、俺の胸に顔を埋めて泣いた。

 …………ごめん。

 そんなにショックを受けるとは思ってなかった。

 でも、そういえばそう言ってた。

 黒太たちをスカウトした町で、アイツは、好き嫌いをして残されるのが一番許せないって言ってた。

 ごめん。

 知ってた。

 けど、俺がちょっとすねただけで、そんなに傷つくと思わなかった。

 だけど、本当に傷ついてたのわかったから、いつも傲岸不遜のコイツが俺がちょっとすねていらないっつっただけで泣くなんて思わなかったから、必死で謝った。

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