王都学園編

第157話 学園ファンタジー開幕!

 ほこりっぽい廊下を歩く。

 ……掃除が行き届いてないな。どうしてこの国は掃除や衛生について無頓着なのだろうか。

 窓にガラスが使われているのは評価するべきかな。

 まぁ、ガラスなしの戸板だと、開け閉めって誰がするの? こんな広いのに無理でしょ? ってことなのかなー。

 ……そんなことを考えながら、教官の後ろについて歩き、一つの教室に入る。


 ――おぉ。なんというか、ファンタジーな教室だ。あの憧れの、段々高くなる造りになってるぞ!

「今日からこの特別クラスに編入する生徒だ。――彼はかなりの成績優秀者で、武術も魔術も学術も、すべて満点で合格した才能あふれる生徒だ。皆も、彼を刺激とし、より高みを望むように」

 教官から紹介され、自己紹介する。

「紹介にあずかりましたインドラと申します。どうぞお願いします」

 これにて、学園冒険編が始まった。


          *


 ギルドマスターが持ってきた緊急依頼は、王宮からだった。

 『王都の、王宮が管理する学園にデーモンもしくは魔族が侵入したといううわさが立った。高度の魔素の感知があったという。その目的と真実を探れ』……って、漠然とした依頼だったよ。

 ソードと私、目を細めた。

 そして顔を見合わせる。

 ――うん、思いは一緒。何その依頼? って思ってるよね。

 ソードは手を振って依頼拒否の合図。

「無理だろ。どーやって入るんだよ」

「特別講師として、ソード、特待編入生として、インドラ、それが表向きの肩書きだそうだ」

 ……ふーん。それならちょっと面白そうかな?

 好きに暴れていいなら行ってもいいけど。

「俺、やだよ。クソ生意気な貴族のガキ共を相手するのもやだし、インドラが暴れるのを尻拭いするのも嫌だ」

 今度は私が肩をすくめる。

「なに、問題ない。お前も一緒に暴れればいいんだ。全員殺したら、デーモンも魔族も皆殺しに出来るだろう」

「俺、やだよ」

 ソードが繰り返す。

「……とは言っても、断れない依頼だぞ? コレ。デーモンにしろ魔族にしろ、Aランクがいない今、お前等しか相手に出来ない。魔族だったら血みどろ魔女の分が悪いし、デーモンだったら剛力無双の分が悪い」

「……チッ!」

 ソードが舌打ち。

「まぁまぁ、行動制限がついてないんだからいいじゃないか。お前は我慢しなくていい。私が全て請け負ってやるから」

 って言ったらソードが突っ伏した。

「俺、なんでこんな苦労性なんだよー!」

 ギルドマスターが慈愛の表情でソードを見て、ソードの肩をなでた。

「気持ちはわかるけどよ、誰も代わってやれないんだぜ? それに、緊急依頼になったのは、第一王子が今入学してるんだ」

 ふーん。

「その第一王子にデーモンが取りついてたらどうする気だよ? インドラは第一王子だろうと殺しちまうぞ?」

「もう、それはそれでいいじゃねーか。諦めろ。依頼側が全部悪いんだよ」

 ギルドマスター、なんか悟ったみたいな顔でソードを諭してる。

「ソード、私が守ってやるから心配するな。お前だって、楽しむって決めたんだろう? 学園生活を共に楽しもう。楽しめるようにしてやるから」

 ソード、机に突っ伏しながら叫んだ。

「やだーーーー!」

 ――どうしよう、ソードが壊れたぞ?


 ……と嫌がるソードをなだめ説き伏せ、入学したのだ。

 どうでも良いけど男子用の制服が届いたのだが。なぜだろうか? 男装して探れということか?

 それでもいいけど、正直、女より男の方がより臭いんだよなあ。なるべく近寄らないようにしよう。


          *


 はい、やってきましたフーランド国立総合学園。

 王都の、割と閑雅な場所にある。

 さすが王都は王と呼ぶだけあって、広大だね。


 この学園、大体十二~十五歳くらいの貴族子弟が(コネクションを得るためや社交のためにバカであっても)入学するんだけど、(純粋に、あるいはコネクションで)能力が認められた者は誰でも特待生として入学出来る。そうして能力が更に認められ、専門分野に分かれる上位の学院の合格が決まると、将来的に王宮で割と重要な職種に就くことが出来る。――と説明されたがどうでもいい。私は冒険者だ。


 ――案内された教室にいる、生徒全員をなんとなく眺める。

 馬鹿にしたような顔をしている者、関心がなさそうな者、大体がこの反応だな。

 うーむ、この教室にはデーモンも魔族もいなさそうだが?

 大体、人間以外……あ、ドワーフもか、人間とドワーフ以外の者が私を見ると、興味を示す。

 プラナも私の魔素が多いことを察知したそうだ(ギルドですれ違ったときに驚いてガン見してしまったそうな)。もっと敏感なエルフならもっと反応するかも、と言っていた。

 魔族は知らないが、自身の魔素が大きいならば、私に興味を示しても良いはずだ。


 ……だが、いないな。

 ソードの予想では、もしもいるならば、魔術クラスか特別クラスだろうとのことだ。マナが濃いので、他のクラスにいたら目立つだろう、とのことだった。ちなみに、私も魔素の濃度(ふんわりさんの漂い具合)がなんとなくわかるが、濃いやつはいない。

 ――やれやれ、仕方ない。魔術は魔術クラスと合同らしいし、そこで見てみるか。


          *


 授業は、いたって普通だった。

 言語、計算、歴史、マナー。選択で音楽。能力が認められた者は、実技に魔術と剣技。

 女子のみで構成された、淑女教育に重点をおいたクラスは刺しゅうもあるそうだ。

 授業内容は、独学も含まれるが既に終わらせている内容だった。

 初日の授業からビシバシ当てられたが、ビシバシ答える。

 意見もしたら、講師が涙目になってしまった。随分打たれ弱いな。


 ――ソードは大丈夫だろうか。アイツはすぐ悪意を拾うからなぁ。リョークがついてるけど、心配だよなぁ。


 ……と考えてたら放課後になってしまった。

 やれやれ、つまらないな。授業も目新しいことは無いし、というか、私は既に十年近く前に済ませてしまった内容ばかりだ。このレベルで特別クラスとは笑わせるぞ。

 とっとと依頼を片付けてオサラバしようと考えつつ廊下を歩いていた私の前に、明らかに見下した表情でこちらを見ている貴族が数人立った。

 ……面白くなってきたかも。

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