第155話 地味にショック

 そうやっていろいろ作って準備して、ドレスも出来上がって到着し、いざ当日!


 メイド嬢数人に、風呂に入れられて、ブラシで磨かれてます。

 数人がかりで、そりゃあもうあっちこっちそっちを磨かれてます。

 なんだかもう、好きにしてーって気分。こんなこと、ソードにだってされたことないのにぃ!


 ……って言ったらソードが殺されそうだから言わないけど。――私付きのメイド嬢たちってば、ソードが私に近付きすぎてるのも、とてつもなく気に入らない様子だからね。

 そもそもソードは英雄様だしそこそこモテるぽいのだが、ウチのメイド衆、鼻も引っかけないもんなー。それどころか家主様なのに邪険に扱われる感が……。もっと言うならイースの町全体がソードに対してそんな感じが……。


 だいぶ時間が経ち、ようやくメイド嬢の気が済んだらしく手が止まった。だが、風呂から上がったら、今度は香油を塗りたくられてマッサージが始まったよ……。

 ちなみに香油は私が作ったので香り控えめだ。市販(貴族用)のは酸化を防ぐためか酸化臭を誤魔化すためなのかわからないが、とてつもなく香りが強い。


「本当に、本当にお綺麗です。こんなに綺麗な肌を持つ方は、インドラ様以外におりません!」

 力説。

 うん、わかったよ。好きにしてくれ。


 着付けられて、飾り付けられて、薄化粧されて、ようやく満足したのか、メイド嬢たちが吐息を漏らした。

「とっっっても、お綺麗ですよ!」

「そうか。ありがとう」

 溜めて力いっぱい言われたのに素っ気ないかもしれないが、この世界の私、飾り付けられるのそこまで好きじゃないんだよね……。むしろ作る方が好きなんだけど。


 ソードのところに向かう途中で、メイド長に驚かれ、しかも泣かれた。

「……奥様の、イサドラ様のお若い頃と、生き写しのようにお美しいお姿で……」

 うわ、ソレ、褒め言葉になってないよ?

 ……しかし、似てるのか。地味にショック。


 ……だが、まぁいい。周りは満足しているようだ。使用人たちも私を見ていちいち褒めてくれる。古株に至っては、メイド長のように泣く人がたくさん出たよ。

 満足してないのは『女装感満載』って顔に書いてあるソードだけだ。

 そんなソードの前に立って手を差し出した。

「待たせたな」

 ソードが肩をすくめ、その手をとる。

「いいよ。お前が待たせたわけじゃないし、周りは満足してるみたいだし。これも主人の務めなんだろ」

 うなずいた。


 屋敷中を、ソードにエスコートされ練り歩いた後(アマト氏も「あっ! 女装してる!」っつった)自動車に乗り込んだ。

 執事、完璧に運転手をしている。しかも似合う。


 自動車は、非常に快適だった。

 ソードもそうとう気に入ったらしく、乗ってからもあちこちを見たりなでたりしている。

「……お前さ、コレ作れるなら、何もシャールの形にしなくても良かったじゃねーかよ」

 ソードに愚痴られたけどさ。

 いいんだ! あれは、迎撃出来るキャンピングカーなの!

「……命名、シャール・ノンバイオレンス。攻撃手段をまったく持たないシャールという意味だ」

「……そっか。わかった、俺、シャールをかわいがるよ」

 非暴力主義はお好みでないらしいぞ。


 ソードが食事を取りながら、こちらを見て苦笑した。

「お前も大変だな。お前自身はそんな格好をするのを望んでないのに、メイドたちの希望でやってあげるんだからよ」

 労い? なのか? 言われた。

「ふーむ。まぁ、そうなんだが、あぁもうれしそうにされるとなぁ。元々が貴族の使用人だ。平民の使用人はフラストレーションが溜まるのだろう。実際、愛人の娘が来て、彼女たちは私から外され愛人の娘付にされた。……後、大変だったようだ。そこからおかしくなったな、彼女たちは」

「うわー、大変。俺、貴族無理だわ。俺付とかになっておかしくなられても困るしよ」

「お前は意外といけるぞ? なんだかんだ、意思をくみ取るからな。受け身の人間は、大体対応出来るだろう」

 ソードがすっごい嫌そうな顔でお酒を飲んだ。後。

「やーだね!」

 と、子供みたいに言い放った。

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