第152話 昔話をされたよ
「お久しぶりでございます、インドラお嬢様」
頭を下げてきたのは、かつてのメイド長と執事、さらに古株の使用人とメイド嬢たち。
着てる服が堅苦しくないので、バケーションとかで来たのかな? わざわざ遠路はるばるご苦労様だな。
「久しいな。旅の途中か? まぁ、立ち話もなんだから、あがれ」
招こうとしたけど、玄関先でと固辞する。
「堅苦しく考えるな。私はもう平民、お前たちと同等の立場だ。そして、この屋敷の持ち主はソードだな。私は居候のようなものだが、私はソードのパートナーだからな、相棒なので好きにさせてもらっている。だから、ひとまず食堂へ案内しよう。他の者も懐かしいだろう」
無理やり上がらせた。
「それにしても、お前たち、一斉に旅行か?
と言いながら振り返ったら、全員が跪いていた。
「……どうした? 急に、腹痛か?」
変なものを食べたのはこやつ等の方だったか?
「……私たちは、インドラお嬢様に、懺悔しに参りました」
って、代表して執事が答えた。
…………はて? 懺悔とは?
ソードも呼んで話を聞いてもらう。めんどくさがったが来てくれた。
ガシッと腕にしがみつき、逃がさない。
「わかったって。逃げないから」
ヨシヨシなでてくれた。
で、執事が話すことには、この場にいる者は皆、先代から仕えていた者たちだそうだ。
メイド長以下メイドも先代、つまり、私を産んだ母親、元公爵令嬢付のメイドたち、執事以下使用人は先代に仕えていた者たちで、だからこそ、ソードが誘ったときに先代への義理で残留を決定した、とのこと。
うん、それでどうした。私には関係なくね?
と、ここまで聞いたときは思ったが、先代付のメイド及び使用人はかなり義理堅かった。
私にとってはろくでもない母親だったが、それもこれも伯爵への恋に狂ったためで、それをいさめられなかった止められなかった自責の念が母親付のメイドたちを苦しめていた。
執事以下伯爵家に仕えていた使用人たちは、先代は! 人格者で経営手腕もある素晴らしい人物で一生お仕えしようと心に決めていたが、ありがちなことに女を見る目がなく、また、現伯爵は遅くに出来た子で嫡男としての教育よりもかわいがりの方が先に立ってしまったとのこと。それをいさめたが、既に手遅れもしくは元々の性質がそうなのか遊んでばかりの女好きのろくでなしが出来上がった。
アレでは経営などできない、養子をとるなりしてちゃんと領地と伯爵家を守れる跡取りを、と先代に望み、先代もそれは理解していたらしく、実行に移そうとした矢先。先代が事故に遭い、重傷を負う。
死の床から、息子を盛り立て伯爵家を支えてくれ、と言われて執事以下使用人が断れるわけもなく、うなずき、息子を
持参金目当てで公爵令嬢を落とし結婚したのは良いが、妻の嫉妬深さにへき易してまたとん走。
その間古株たちが領地を経営していた。先代からの頼みだけどとうに見離し私に期待していたらしい。
わずか三歳で完璧に言語を理解し、社交マナーも完璧。将来はきっと才女になるであろう。……変な男にさえ騙されて結婚しなければ、彼女がスプリンコート伯爵家を守るであろうと信じ、一丸となって私をもり立てるべく決意を固めていたそうだ。知らんぞそんなこと。
……だけども、妻が死んだら他所の連れ子を連れて夫が戻ってきた。
私を冷遇し、連れ子をかわいがる。
何度もいさめ、なんとか領地経営をさせていたが、全く聞く耳を持たず私に冷たく当たり、領地経営は嫌がり遊びに行きたがり、金を使いたがる。
そうしているうちに、頼みの綱の私が死にかけ、そして最終的に出て行ってしまった。
執事以下使用人、それが無念以上に悔しかったし心残りだったらしい。
……いや、今更いいよ。
私、ここで、ソードの相棒として、幸せに暮らしてるし。それに私だって領地経営とか嫌だもん。
「まぁ……謝って気が済むなら謝れば良い。私は今更何も気にしていないし、ソードと巡り会えたおかげで楽しく暮らしている。むしろ、伯爵令嬢から脱出出来て両手を挙げたいくらいだ。プリムローズのようにかわいがられていたら出来なかったであろうからな。……それにしても、わざわざ謝りにここまで来たのか?
「解雇されました」
「「は?」」
ソードと声をそろえた。
――このところの経営状態は悪化し、プリムローズは玉の輿目当てでなんとか王都の学園に入学させたが、借金だらけだそうだ。
スプリンコート伯爵はまた持参金目当てに再婚を考えているらしいが、もう若くないし、
で、行き着いたところ
「経営を失敗したハンニバル、お前を解雇する」
と、口うるさい先代からの使用人たちの首を一斉に切った、とのこと。
メイドも、プリムローズは今学園に行っていて不在なので、ついでに自分もほとんど屋敷にいないので最低人数でよし、とやはり先代付を解雇したそうだ。
つまりはリストラだな。退職金も出さなかったらしいが。
正直、解雇された方はとうに見限っていたし退職金など出るわけがないと予測していたので痛くも痒くも無かったが、これからどうしよう、となり。
「私が、どうかインドラお嬢様にもう一度会い、謝罪したい、それから余生を考えたいと申しますと、皆が同意しまして」
と、メイド長が言った。
先に出て行った使用人やメイドたちからイースで私と共に酒を造ると話を聞いていたので、はるばる訪れ、そして謝りに来た、ってことだそうだ。
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