第151話 そのメイド、休養中につき

「泣かせるつもりはないのだが……」

「メイドのプライドだろ。主人に手間を掛けさせたくねーんだよ」

 ソードに愚痴ったら、ヨシヨシされながら理由を言われた。

「主人だからだろう? こんなときこそ面倒を見なくていつ見るのだ。……そして思い出したが、雇用関係はなかったはずだ。むしろ、お前が呼んだんだからお前がご主人様のはずだ」

「今のこの状況で、お前をご主人様と思ってない奴がいたらお目にかかりたいわ。勇者のアマトくらいだろ。つーかアイツもお前をインドラ〝様〟っつってるからな。一人もいなかったか」


 雇用してない! 屋敷はソードの所有物で、私は居候だ! 敷地を広げたり畑を作ったり牧場を作ったりだってしてるが、それは全部ソードに許可を取ってる!

 ぷぅと膨れた後、ソードに聞いた。

「……お前は、私が主人のように振る舞っていて、嫌な気持ちにならないのか?」

「俺が〝ご主人様〟って呼ばれるくらいなら、お前を生贄にするわ」

 嫌なのか。

「お前は元貴族だからお嬢様って呼ばれようがご主人様って呼ばれようが慣れてるんだろうけど、俺は、小さな村出身の、こき使われてた底辺の身の上だ。Sランク冒険者としてチヤホヤされるのだって違和感があるのに、ご主人様とか無理だわ」

 ……その割に、【迅雷白牙】とか言われても平気だったじゃんか。って考えたらほっぺた両拳でグリグリされた。


「んん? まさか、二つ名平気で呼ばれてたじゃねーかとか考えてねーか? ……俺だって、最初は嫌だったよ! 呼ばれて振り返ることすら出来なかったよ! でも、みんな呼ぶから仕方が無かったんだよ! 王様までそう呼ぶんだぜ? どうしろっつーんだよ!」

「ぶぶぶぶぶ」

 ほっぺたグリグリされてるので話せない。

「お前にも、是非、呼ばれて振り返ることすら出来ない恥ずかしい二つ名をつけられてほしいよなぁ? 俺の気持ちが痛いほどわかるぜ? なぁ?」

 ソードがドSになってしまった……。


 倒れたメイド嬢も、徐々に元気になってきたようだ。ただし『なってきてる』というだけで完治はしていない。

 だから本人が「もう元気です」と言っているが許さない。許さないと泣く。


 何度目かの看病の時

「……インドラ様。私、元気になったら、インドラ様のお世話がしたいです」

とか言い出した。

「ん? どういうことだ?」

「奇麗なドレスを一着仕立てましょう。そして、インドラ様の入浴のお手伝いをしたいです。隅々まで磨き上げて、その後、ドレスの着付けをしたいです。御髪ももう少し整えてから、結い上げたいです。ほんの少し、お化粧も施したいです。アクセサリーも、奇麗なものをつけたいです」

 ………………。

 なんだその願望。自分じゃなくて、私にかい。

「わかったわかった。元気になったらやっていいぞ。だから、今はゆっくり休んでくれ。私は、お前に二度と倒れてほしくないし、早く完全回復してほしいし、ましてや死んでほしくないのだ。わかってくれるな?」

「は、はい!」

 ようやく泣かなくなったか。


 メイド嬢が復活した。

 本当に完全復活したらしく、フルスロットルで働いてる。だから倒れるんじゃないか!

 止めようとしたら、うっとりした顔のメイド嬢が

「インドラ様、約束、覚えてますか?」

って聞いてきた。


「無論だ。……わかったから、バリバリ働くな。仕立屋を呼べ。生地は……おぉ、そうだ。仕入れた生地もあったな! それも使うように言ってくれ」

 シルク、じゃなかった虫の生地を取り出した。

「お前たちにも土産だ。好きにして良いぞ。なかなかの肌触りだ。直に肌に触る部分に使うか、光沢や薄さを生かして飾り部分に使うのも良いだろう」

 メイド嬢が集まってきゃわきゃわ言い出した。やはり女子、布巾は盛り上がるよな。

 ――しかし、人手不足は早急に解消しなくては。

 そんなに頑張るなと言っても、たぶん聞き入れられない。

 メイド嬢のプライドの問題なんだろう。そうなれば、私が人手を増やすしかないのだ。


 ……と、考えていた矢先。訪問客があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る