第132話 勇者を勧誘したよ

 食事が終わり、ソードが去ろうとする二人に声をかけた。

「お前等、行くあてがないなら、俺たちの拠点の屋敷に行けよ。――インドラの下僕になったなら、拠点はインドラの信者の集まりだ。特に、召喚者……インドラと同じ知識を持つ者なら、それを活かせるかもしれない。屋敷の連中もそれを聞いたら喜んで迎えるだろうさ。勇者を辞めるなら、俺の拠点の屋敷ならほぼ治外法権で安全だ。屋敷に誰かが攻め入ろうとしても、リョークが何台も護衛してて、やすやすとは突破できないしな」

 私はソードを見た。その後うなずいた。

「そうだな。私は独学でこうなったが、私と似た体験をしているはずのアマト氏も、いつか私と似たことが出来るようになるかもしれん。私の知らない知識を持っているかもしれないし、拠点ならいろいろやれるはずだ。別世界と同じルールを持つ者にはこの世界は厳し過ぎるだろうから、屋敷に行くといい。ただ、送ってはやれない。無事に拠点に辿り着いたなら、最低限の安全と衣食住は保障してやる」

 アマト氏、硬直した。そのあと、ロブさんを見た。

 ロブさんも、アマト氏を見た。

 見つめ合って、ロブさんはほほ笑んでうなずいた。

「行きましょうか。……私も、下僕になったら保障していただけますか?」

「いや、ならなくてもいいぞ? 使用人たちが認めれば、別に構わない。私とソードは冒険者なので、拠点にいたりいなかったりするからな。どちらかといえば、使用人たちと仲良くやれれば、という話だな」

「わかりました。……アマトさん、行きましょう。そこなら、きっと、この世界に来てしまった貴方が、懐かしいと感じられるものがあると思います」

 アマト氏はロブさんを見つめて、だんだんと困った顔になった。

「…………。そっか。そうだな。でも、俺……正直、何も殺せないよ? 魚ならいけるかなと思ったからここに来たんだし」

「力は及びませんが、私も勇者の供に選ばれた者ですので、多少は腕に覚えがあります」


 うーむ。やはりアマト氏にバトルは無理か。そんな感じとは思ってたけど。

 まぁそういうことなら。

「ならば、この玩具を貸そう。拠点に着いたら返せよ。メイド嬢にそう伝えるから」

 マジックバッグから取り出した。

「え? 水鉄砲?」

 とか失礼なことを言うアマト氏。

「スタンガンだ! 打つと、電撃魔術弾が飛び出す。筋肉が収縮し麻痺するだけだから、これを撃って麻痺しているうちに逃げ出せば良い。あと、別世界でお馴染みの〝トウガラシ爆弾〟だ。顔目がけて投げれば、強烈な目潰しになる。何、痛いだけだ。数日転げ回るようなことになるが、害はない」

「ソレ、害あるよね?」

 ソードがツッコんだが、聞こえない。

「おー! 定番のだー!」

 喜ぶアマト氏。

 なぜかロブさんの顔が引き攣ってる。

「ちょっと、コワ! 別世界ってさー、殺さなければ何でもアリじゃない? 数日転げ回るほど痛いとかって、殺された方がマシじゃないの?」

 とかソードが言いだしたけど聞こえなーい。

 アマト氏と耳を塞いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る